中国は、近年の経済発展や軍事力の近代化などにより、国際社会における存在感を増している。中国には、軍事力の透明性の問題や東シナ海資源開発に関する日中協力が遅々として進展しないなどの懸案事項が存在するものの、日中両国の「戦略的互恵関係」¹を包括的に推進し、友好・協力関係をさらに深めることが両国の利益につながる。また、政治情勢に左右されることなく防衛交流を持続的かつ安定的に継続・推進することは、日中両国の相互理解と信頼関係を強化し、中国の国防政策の透明性の向上を図るのみならず、アジア太平洋地域の平和と安定にとっても必要不可欠である。

日中両国は、「戦略的互恵関係」を包括的に推進するとの考えに基づき、これまで様々なレベルにおいて防衛交流を推進し、相互理解と信頼関係の増進に努めている。
大臣レベルについては、09（平成21）年11月の会談において、海上における捜索・救難に関する共同訓練の実施、人道支援・災害救援に関する経験の共有および協力、日中防衛当局間の海上連絡メカニズムの早期確立といった、両国間の具体的な協力の実施に向けた検討・意見交換を行うことで一致し、これらの合意事項を含む「共同プレス発表」²を発出するとともに、会談後、初めての共同記者会見を行った。
11（同23）年6月の第10回IISSアジア安全保障会議の際に行われた日中防衛相会談では、両国の防衛当局間で冷静に対話を進め、日中防衛交流を安定的に推進することが「戦略的互恵関係」の基盤となり、両国の友好・協力関係の強化と防衛政策などの透明性の向上につながるとの認識で一致し、引き続き日中防衛交流を発展させることを確認した。
次官レベルについては、11（同23）年7月、中国人民解放軍副総参謀長が訪日して、約3年ぶりに第9回日中防衛当局間協議（次官級）を行い、双方は、防衛当局間の冷静かつ率直な対話を通じ、様々なレベル・分野において日中防衛交流を健全かつ安定的に進展させることで一致した。
また、近年の中国海軍などによる海洋活動の活発化を踏まえれば、日中防衛当局間の海上連絡メカニズムを構築することが急務である。11（同23）年6月の日中防衛相会談においては、北澤防衛大臣（当時）から、昨今の中国海軍機などによる海自艦隊への近接飛行事案に関して再発防止を申し入れ、また日中双方が可能な限り早期に第3回実務者協議を行うことで一致した。これを受け、12（同24）年6月、海上連絡メカニズムの構築に向け、同協議が北京で行なわれた。
部隊間交流については、07（同19）年以降、中国海軍駆逐艦「深せん(土偏に川)」、同練習艦「鄭和（ていわ）」が訪日するとともに、海自護衛艦「さざなみ」、および最近では11（同23）年12月に護衛艦「きりさめ」が訪中した。また、10（同22）年6月に中国人民解放軍済南軍区司令員が陸自中部方面隊を訪問するとともに、12（同24）年3月、陸自中部方面総監が済南軍区を訪問した。
このほか、笹川平和財団の主催により、01（同13）年から日中佐官級交流が行われている。本事業は、民間団体主催であるものの、日中防衛当局間の中堅幹部の相互理解と信頼関係の増進のみならず、防衛交流の裾野を広げるという大きな役割を果たしている。
今後も、「戦略的互恵関係」構築の一環として、様々なレベル・分野において、日中間の信頼関係・相互理解の増進に努めるとともに、海賊対処など非伝統的安全保障分野における具体的な協力を積極的に推進していくことが必要である。
（図表III―3―2―5参照）