第I部 わが国を取り巻く安全保障環境
3 各国の軍の近代化

東南アジアの各国は、近年、経済成長などを背景として軍の近代化を進めている。
インドネシアは10(平成22)年までに、ロシア製Su―27戦闘機およびSu―30戦闘機をそれぞれ5機導入している。11(同23)年には、米国からF―16戦闘機の供与を受けることに合意したほか、韓国と次世代戦闘機KF―Xの共同開発に着手している。海軍力については、09(同21)年に、オランダ製シグマ級コルベット4隻の就役が完了した。11(同23)年12月には、韓国から209級潜水艦3隻を購入する契約を、12(同24)年6月には、オランダからシグマ級ミサイルフリゲート1隻を購入する契約を締結した。また、インドネシアは07(同19)年9月、ロシアとの間で、10億米ドル規模のロシア製兵器の調達を政府借款で行う合意書に署名している。
マレーシアは、07(同19)年からロシア製Su―30戦闘機の導入を開始し、09(同21)年、18機全ての納入を完了させた。海軍力については、マレーシアとしては初となる潜水艦(フランスとスペインが共同開発したスコルペン級潜水艦)が09(同21)年1月に就役し、2番艦も同年11月に就役した。また、00(同12)年に発注したドイツ製ケダ級コルベット6隻については、10(同22)年中に全てが就役した。
フィリピンは、11(同23)年、米国からハミルトン級フリゲート艦1隻を導入しており、同艦の2隻目も12(同24)年5月に導入されている。また、イタリア、ブラジルおよび韓国から戦闘機、哨戒機、練習機などの装備品の調達を検討していると伝えられている。
シンガポールは、東南アジアで最も早く早期警戒機や空中給油機、潜水艦救難母艦を導入1するなど、軍の近代化に積極的に取り組んでいる。空軍力については、09(同21)年5月、米国製F―15戦闘機の初回納入分4機を、米国アイダホ州に駐留しているシンガポールの分遣隊が受領している。合計24機を保有する計画で、12(同24)年までに全機がシンガポール側に納入される予定である。シンガポールはF―35統合攻撃戦闘機(JSF:Joint Strike Fighter)計画にも、安全保障協力国(SCP:Security Cooperation Participant)として、アジアで最初に参加している。海軍力については、09(同21)年、ステルス性能を有するフランス製フォーミダブル級フリゲート6隻全ての就役が完了した。さらに、05(同17)年にスウェーデン製の中古潜水艦2隻を購入し、09(同21)年に1番艦が、10(同22)年に2番艦が進水している。
タイは、07(同19)年に、スウェーデン製JAS―39戦闘機12機およびサーブ340早期警戒機2機の導入を決定し、このうちJAS―39戦闘機6機およびサーブ340早期警戒機1機が納入されている。海軍力については、タイは現在潜水艦を保有していないが、導入を検討していると伝えられている2。また、タイは現在ブラックホーク・ヘリコプター7機を保有しているが、さらに2機を購入する予算が承認されたとも伝えられている。
ベトナムは、04(同16)年にロシアからSu―30戦闘機を4機導入しているが、09(同21)年から10(同22)年にかけて、同機をさらに20機購入する契約を締結したと伝えられている。海軍力については、09(同21)年12月、ロシアとキロ級潜水艦6隻を購入する契約を締結した3ほか、オランダとの間で、シグマ級コルベット4隻の建造契約を交渉していると伝えられている。また、06(同18)年にロシア製ゲパルト級フリゲート艦2隻を購入し、11(同23)年に2隻とも納入されている4
東南アジアの国々の多くは近年国防費を伸ばしており、これが装備の近代化を可能にしている要因の一つであると考えられるが、このほかに、近隣諸国の軍事力発展に反応するという東南アジア各国間の関係や、中国の影響力の拡大、地域安全保障機構の信頼醸成措置としての役割が十分でないことがその背景にあるとの指摘がある5


1)シンガポールは、87(昭和62)年に早期警戒機E―2C、97(平成9)年に空中給油機KC―135R、08(同20)年に潜水艦救難母艦を導入している。
2)「タイの国防2008」は、「海軍の主要装備の近代化は、地域の安全保障協力の推進という観点から、近隣諸国との均衡にも配慮する必要がある」とし、「潜水艦は、タイ湾およびアンダマン海沿岸においてタイ海軍の水中作戦能力を向上させ、効果的な抑止兵器および攻撃的防御となる」としている。
3)09(平成21)年12月、ベトナムが総額約20億ドルで、キロ級潜水艦6隻の調達に同意し、今後ロシアにおいて1年に1隻のペースで建造されるであろう、と報じられた。
4)これらの新鋭艦は、カムラン湾に配備されるとも伝えられている。
5)英国の国際戦略研究所(IISS:The International Institute for Strategic Studies )による「ミリタリーバランス(2011)」などによる。
 
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