第I部 わが国を取り巻く安全保障環境
4 台湾の軍事力など

台湾は、馬英九総統が提唱する「固若磐石(磐石のように堅固)」の国防建設の方針のもと、戦争の予防、国土の防衛、緊急事態への対応、衝突の防止および地域の安定を戦略目標とし、「防衛固守、有効抑止」を内容とする軍事戦略を採っている。
台湾は、兵士の専門性を高めることなどを目的として、総兵力を27万5,000人から21万5,000人まで削減しつつ、14(平成26)年末までに徴兵および志願兵から構成されている台湾軍を完全志願制に移行させることを目指している。また、台湾軍は、先進科学技術の導入や統合作戦能力の整備を重視しているほか、09(同21)年8月の台風により深刻な被害が発生したことを踏まえ、防災・災害救助能力を軍の主要任務の一つとしている1。台湾の防衛費の対GDP比は、原則として3%を下回ることはないとの方針が示されている2
台湾軍の勢力は、現在、陸上戦力が陸軍41個旅団および海軍陸戦隊3個旅団などの約21万5,000人であり、このほか、有事には陸・海・空軍合わせて約165万人の予備役兵力を投入可能であるとみられている。海上戦力については、米国から導入されたキッド級駆逐艦のほか、比較的近代的なフリゲートなどを保有している。航空戦力については、F―16A/B戦闘機、ミラージュ2000戦闘機、経国戦闘機などを保有している。
人民解放軍がミサイル戦力や海・空軍力の拡充を進める中で、台湾軍は、装備の近代化が依然として課題であると考えている。米国防省はこれまで台湾関係法に基づき台湾への武器売却を議会に通知してきているが3、台湾側はF―16C/D戦闘機などの購入も希望しており、今後の動向が注目される。一方、台湾は、独自の装備開発も進めており、地対空ミサイル天弓IIや対艦ミサイル雄風IIを配備しているほか、長距離攻撃能力の獲得のため巡航ミサイル雄風IIEの開発や、弾道ミサイル対処能力の獲得のため地対空ミサイル天弓IIIの開発などを進めているとみられている。
中台の軍事力の一般的な特徴については次のように考えられる。
<1> 陸軍力については、中国が圧倒的な兵力を有しているものの、台湾本島への着上陸侵攻能力は限定的である。しかしながら、近年、中国は大型揚陸艦の建造など着上陸侵攻能力の向上に努力している。
<2> 海・空軍力については、中国が量的に圧倒するのみならず、台湾が優位であった質的な面においても、近年、中国の海・空軍力が着実に近代化されている。
<3> ミサイル攻撃力については、中国は、台湾を射程に収める短距離弾道ミサイルを多数保有しており、台湾には有効な対処手段が乏しいとみられる。
軍事能力の比較は、兵力、装備の性能や量だけではなく、想定される軍事作戦の目的や様相、運用態勢、要員の練度、後方支援体制など様々な要素から判断されるべきものであるが、中国は軍事力の近代化を急速に進め、中台の軍事バランスは全体として中国側に有利な方向に変化しており4、今後の中台の軍事力の近代化や、米国による台湾への武器売却などの動向に注目していく必要がある。
(図表I―1―3―5・6参照)

図表I―1―3―5 台湾の防衛費の推移
図表I―1―3―6 中台の近代的戦闘機の推移

1)11年版台湾「国防報告書」(11(平成23)年7月)による。
2) 08年版台湾「国防報告書」(08(平成20)年5月)によれば、08年度の防衛予算額の対GDP比は3%に達したとされている。一方、09年度以降 の防衛費については、対GDP比で3%を達成したか明確にされていない。
3)最近では、08(平成20)年10月に地対空ミサイル・ペトリオットPAC―3、AH―64D攻撃ヘリコプターなどの売却を、10(同22)年1月にPAC― 3、UH―60ヘリコプター、オスプレイ級掃海艇などの売却を、11(同23)年9月にF―16A/B戦闘機の改良に必要とされる機器などを含む武 器売却を、それぞれ米国議会に通知している。
4)11年版台湾「国防報告書」は、台湾海峡の情勢が緩和されたことから中台の軍事衝突の可能性は低下しているとの認識を示した上で、「武力に よる台湾の威嚇・統一の目標には変化がなく、両岸の軍事力が引き続き中国側に傾斜している現状において、将来的にわが国が直面する軍 事的脅威は益々厳しくなっている」と評価している。
 
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