第I部 わが国を取り巻く安全保障環境
2 韓国・在韓米軍
1 全般

韓国では、08(平成20)年2月に発足した李明博(イ・ミョンパク)政権が、「共生と共栄」を基調とした対北朝鮮政策を推進するとしており、北朝鮮の核問題の解決が最優先課題との原則を堅持し、北朝鮮に対し核放棄を重視する姿勢を繰り返し示している1。一方、韓国は北朝鮮の軍事的挑発行動に対して断固とした対応で臨むとしており、挑発に備えた抑止力を維持・確保する方針を示している。
韓国には、朝鮮戦争の休戦以降、現在に至るまで陸軍を中心とする米軍部隊が駐留している。韓国は、米韓相互防衛条約を中核として、米国と安全保障上極めて密接な関係にあり、在韓米軍は、朝鮮半島における大規模な武力紛争の発生を抑止する上で大きな役割を果たしている。両国は、米韓同盟は韓国にとって「安全保障の第一の軸」であり、米国にとっては「太平洋地域の安定のための礎石」であることを繰り返し確認している。南北関係の進展、韓国の国力の向上、米国の戦略の変化などを踏まえ、現在、両国は戦時作戦統制権2の韓国への移管などを通じて「韓国軍が主導し米国が支援する」新たな共同防衛体制への移行を進めており、これがどのように進展していくか注目していく必要がある。

2 韓国の国防政策・国防改革

韓国は、全人口の約4分の1が集中する首都ソウルがDMZから至近距離にあるという防衛上の弱点を抱えている。
韓国は、「外部の軍事的脅威と侵略から国家を保衛し、平和的統一を後押しし、地域の安定と世界平和に寄与する」との国防目標を定めている。この「外部の軍事的脅威」の一つとして、かつては韓国国防白書において北朝鮮を「主敵」と位置付けていたが、現在では、「北朝鮮政権と北朝鮮軍は韓国の敵」との表現が用いられている3
韓国は、05(同17)年に、国防の文民基盤の拡大や現代戦の様相に合った軍の構造及び戦力体系の構築などを柱とする「国防改革2020」を発表し、09(同21)年6月には、「国防改革2020」策定以降の安全保障情勢および国防改革推進実績を分析・評価した結果を反映した修正案として、兵力削減規模の縮小や、北朝鮮の核およびミサイル施設への先制攻撃の可能性などについて明示した「国防改革基本計画2009―2020」を発表した4。一方、韓国哨戒艦沈没事件や延坪島砲撃事件などを受け、11(同23)年3月、韓国国防部から、北朝鮮による局地挑発に備えるための戦力増強や軍の指揮命令系統の改編をともなった新たな国防改革修正案「国防改革基本計画2011―2030」が示されており、現在、具体化に向けた取組が行われている5

3 韓国の防衛力整備

韓国の軍事力については、陸上戦力は、陸軍22個師団と海兵隊2個師団、合わせて約55万人、海上戦力は、約190隻約19.2万トン、航空戦力は、空軍・海軍を合わせて、作戦機約610機からなる。
韓国軍は、北朝鮮の脅威はもとより、あらゆる形態の脅威に対応できる全方位体制を確立するとして、近年では、海・空軍を中心とした近代化に努めている。海軍は、潜水艦、大型輸送艦、国産駆逐艦などの導入を進めており、10(同22)年2月には、韓国初の機動部隊が創設されている6。空軍は、F―15K戦闘機などの導入を進めているほか、ステルス機能を備えた次世代戦闘機事業の推進も予定されている。さらに、ミサイルの国産化も進めているものとみられている7
また、韓国は近年、装備品の輸出を積極的に図っており、11(同23)年の輸出実績は24億ドルに達している。輸出品目についても通信電子や艦艇など多様化を遂げているとされており、12(同24)年の輸出規模世界10位以内、15(同27)年の世界8位以内を目標に輸出を推進していくこととしている8
なお、12(同24)年度の国防費は、対前年度比約5.0%増の約32兆9,576億ウォンとなっており、00年(同12)年以降13年連続で増加している。
(図表I―1―2―3参照)

図表I―1―2―3 韓国の国防費の推移
4 米韓同盟・在韓米軍

発足以降、李明博政権は、米韓同盟を深化させるため様々な取組を行っている。09(同21)年6月の米韓首脳会談では、米韓同盟の範囲を朝鮮半島からグローバルなものに広げるとともに、両国間の協力を軍事面以外の他の領域に広げる「包括的戦略同盟」化を盛り込んだ「米韓同盟のための共同ビジョン」が合意された。さらに、10(同22)年10月の第42回米韓安保協議会議において、米韓同盟の未来ビジョンを実現するためのガイドラインである「国防協力指針」などが盛り込まれた共同声明が発表されるなど、関係の強化が図られている9
これに加え、米韓両国は、在韓米軍の再編や米韓連合軍に対する戦時作戦統制権の韓国への移管などの問題の解決に努めている。在韓米軍の再編問題については、03(同15)年、ソウル中心部に所在する米軍龍山(ヨンサン)基地のソウル南方の平沢(ピョンテク)地域への移転や、漢江(ハンガン)以北に駐留する米軍部隊の漢江以南への再配置などが合意されたが、平沢地域への移転は、遅延している模様である10。戦時作戦統制権の移管問題については、07(同19)年、両国は12(同24)年4月に米韓連合軍司令部を解体し戦時作戦統制権を韓国に移管することとしたが、10(同22)年6月、移管時期を15(同27)年12月1日に延期することで合意した11。10(同22)年10月には、移管のためのロードマップである「戦略同盟2015」が策定されている。在韓米軍再編や戦時作戦統制権の移管完了後、韓国防衛は、従来の「米韓軍の連合防衛体制」から「韓国軍が主導し米軍が支援する新たな共同防衛体制」に移行することとなり、在韓米軍の性質にも大きな影響を与えるものと考えられる。

5 対外関係

(1)中国・ロシアとの関係
韓国と中国との間では、艦艇や航空機による相互訪問が行われるなど軍事交流を進展させるための努力がなされている。08(同20)年5月の韓中首脳会談において、両国は韓中関係を従来の「全面的協力パートナーシップ」から「戦略的協力パートナーシップ」に格上げすることに合意し、同年11月には両国の海・空軍間におけるホットラインが開通した。また、11(同23)年7月の韓中国防相会談において軍事交流の強化で合意し、その後、韓中国防戦略対話がはじめて開催されている。
韓国とロシアとの間では、近年、軍高官の交流や艦艇の相互訪問などの軍事交流が行われているほか、軍事技術、防衛産業、軍需分野の協力についても合意されている。08(同20)年9月の韓露首脳会談では、今後の両国関係を「戦略的協力パートナーシップ」に格上げすることで合意している。

(2)海外における活動
韓国は、93(同5)年にソマリアに工兵部隊を派遣して以来現在まで、様々な国連平和維持活動(PKO:UN Peacekeeping Operations)に参加している。09(同21)年12月には、PKOへの派遣要員を現行の水準から大幅に拡大する方針を明らかにし12、10(同22)年7月には海外派遣専門部隊である「国際平和支援団」を創設している。
韓国は、07(同19)年12月にアフガニスタンから撤退していたが、10(同22)年7月から同国での活動を再開し、パルワン県における韓国の地方復興チーム(PRT:Provincial Reconstruction Team)要員の警護を目的とした軍部隊を派遣している。また、海軍艦艇をソマリア沖・アデン湾に派遣し、09(同21)年4月から、韓国船舶の護送および連合海上部隊(CMF:Combined Maritime Forces)の海上安全活動(MSO:Maritime Security Operation)に従事させているほか、11(同23)年1月から、アラブ首長国連邦(UAE:United Arab Emirates)軍特殊部隊に対する教育訓練支援、共同訓練、有事における韓国国民の保護などを目的として、韓国特殊戦部隊を同国に派遣している13


1)09(平成21)年9月には、李明博大統領が、北朝鮮に対する核問題の一括妥協案「グランド・バーゲン」に言及している。韓国外交通商部報道官の発言によれば、「グランド・バーゲン」とは、北朝鮮の完全な非核化措置と北朝鮮が必要とする日本、米国、韓国、中国およびロシアの5か国の相応の措置を一度にテーブルの上に載せ、包括的な合意に至る方案であるとされている。
2)米韓両国は、朝鮮半島における戦争を抑止し、有事の際に効果的な連合作戦を遂行するための米韓連合防衛体制を運営するため、78(昭和53)年より、米韓連合軍司令部を設置している。米韓連合防衛体制のもと、韓国軍に対する作戦統制権については、平時の際は韓国軍合同参謀議長が、有事の際には在韓米軍司令官が兼務する米韓連合軍司令官が行使することになっている。
3)韓国の「2010国防白書」では、北朝鮮について、「大規模な通常戦力、核・ミサイル等の大量破壊兵器の開発と増強、哨戒艦攻撃・延坪島砲撃のような継続的な武力挑発等を通じ、韓国の安全保障に深刻な脅威を加えている。このような脅威が継続する限り、その遂行主体である北朝鮮政権と北朝鮮軍は、韓国の敵である」と表現されている。
4)兵力規模を50万人から51万7,000人に修正しているほか、北朝鮮の脅威に対して優先的に備える必要があるとして、<1>首都圏の安全確保のため、開戦に際して即座に戦闘力を発揮できるように前線部隊を編成、<2>北朝鮮の非対称脅威を敵地域で最大限に遮断および排除するため、監視・偵察、精密打撃および迎撃能力を拡充、<3>数的優位に立つ敵に対応するため、部隊別に強力な予備機動力を確保、<4>後方地域の安定、予備戦力の精鋭化により継戦能力を確保することを重点としている。
5)韓国国防部は、<1>韓国軍の統合性強化、<2>積極的な抑止能力の確保、<3>国防運営の効率性の最大化、の3つを重点分野と位置付け、その上で、<1>軍の指揮命令系統の改編、<2>西北(黄海)島嶼防衛司令部の創設、<3>国防教育訓練体系の改善、<4>戦力増強の優先順位の調整、<5>北朝鮮の特殊戦およびサイバー脅威への対応、<6>精神力の強化と国民の安全保障教育の支援、<7>国防人材管理制度の改善、<8>国防予算の効率性の向上を重点課題として改革を推進していくとしている。
6)韓国初の機動部隊である第7機動戦団の任務は、シーレーンの防衛、北朝鮮に対する抑止、国家の対外政策の支援などとされている。第7機動戦団には、イージス艦1隻、駆逐艦6隻などが所属しており、今後就役予定のイージス艦や駆逐艦も配備される予定である。
7)12(平成24)年4月、韓国国防部は、北朝鮮全域を攻撃可能な巡航ミサイルなどを独自開発し、実戦配備していると発表した。
8)たとえば、韓国はトルコにKT―1練習機やK―9自走砲などを輸出し、インドネシアとT―50練習機の輸出契約を交わすなどしている。また11(平成23)年12月には、インドネシア国防省と韓国大宇(テウ)造船との間で209級潜水艦3隻の調達契約が交わされている。
9)これらのほか、10(平成22)年7月および12(同24)年6月には、米韓外交・国防長官会談が開催されている。
10)米国は、在韓米軍に関し、漢江以南への再配置を2段階で進めるとの合意(03(平成15)年6月)や約3万7,500人の人員のうち1万2,500人を削減するとの合意(04(同16)年10月)などに基づき、その態勢の変革を進めているが、人員については、08(同20)年4月の米韓首脳会談において、現在の2万8,500人を適切な規模として維持することで合意された。
11)韓国国防部は、移管時期延期の背景について、<1>北朝鮮の軍事的脅威の増加など朝鮮半島の安全保障環境が変化したこと、<2>12(平成24)年は韓国大統領選挙をはじめ朝鮮半島周辺諸国の国家で指導部が交代する時期であること、<3>移管時期の調整が必要であるという国民的な要求と、将来の軍事能力を具備するための財政条件等を反映したことなどを挙げている。
12)韓国は、韓国軍のPKOへの参加を拡大するための法的・制度的基盤を整えるとしており、09(平成21)年12月には、国際連合平和維持活動参加に関する法律を制定している。
13)韓国は、09(平成21)年12月に原子力発電所の建設をUAEから受注しており、11(同23)年3月には、李明博大統領出席のもと、UAEにおいて原子力発電所の起工式が行われている。
 
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