朝鮮半島では、半世紀以上にわたり同一民族の南北分断状態が続いている。現在も、非武装地帯(DMZ:Demilitarized Zone)を挟んで、160万人程度の地上軍が厳しく対峙している。
このような状況にある朝鮮半島の平和と安定は、わが国のみならず、東アジア全域の平和と安定にとってきわめて重要な課題である。
(図表I―1―2―1参照)
北朝鮮は、思想、政治、軍事、経済などすべての分野における社会主義的強国の建設を基本政策として標榜(ひょうぼう)し1、その実現に向けて「先軍政治」という政治方式をとっている。これは、「軍事先行の原則に立って革命と建設に提起されるすべての問題を解決し、軍隊を革命の柱として前面に出し、社会主義偉業全般を推進する領導方式」と説明されている2。11(平成23)年12月に、軍を掌握する立場にあった金正日(キム・ジョンイル)国防委員会委員長が死去したが、その後、同委員長の三男とみられている新指導者の金正恩(キム・ジョンウン)国防委員会第1委員長が軍組織を頻繁に視察し、また軍の重要性に言及していることなどから、軍事を重視し、かつ、軍事に依存する状況は、今後も継続すると考えられる3。
北朝鮮は、現在も、深刻な経済困難に直面し、食糧などを国際社会の支援に依存しているにもかかわらず、軍事面に資源を重点的に配分し、戦力・即応態勢の維持・強化に努めていると考えられる。また、その軍事力の多くはDMZ付近に展開している。なお、12(同24)年4月の最高人民会議における北朝鮮の公式発表によれば、北朝鮮の同年度予算に占める国防費の割合は、15.8%となっているが、これは、実際の国防費の一部にすぎないとみられている。
さらに、北朝鮮は、大量破壊兵器や弾道ミサイルの開発などに努めるとともに、大規模な特殊部隊を保持するなど、いわゆる非対称的な軍事能力を維持・強化していると考えられるほか、朝鮮半島において軍事的な挑発行動を繰り返している4。
北朝鮮のこうした軍事的な動きは、朝鮮半島の緊張を高めており、わが国を含む東アジア全域の安全保障にとって重大な不安定要因となっている。
北朝鮮の核兵器保有が認められないことは当然であるが、同時に、弾道ミサイルの開発・配備の動きや朝鮮半島における軍事的対峙、北朝鮮による大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散の動きなどにも注目する必要がある。
北朝鮮がきわめて閉鎖的な体制をとっていることなどから、北朝鮮の動向の詳細や意図を明確に把握することは困難であるが、引き続き細心の注意を払っていく必要がある。
北朝鮮の大量破壊兵器については、核兵器計画をめぐる問題のほか、化学兵器や生物兵器の能力も指摘されている。北朝鮮の核問題は、わが国の安全保障に影響を及ぼす問題であるのみならず、大量破壊兵器の不拡散の観点から国際社会全体にとっても重要な問題である。特に、北朝鮮による核実験は、北朝鮮が大量破壊兵器の運搬手段となりうる弾道ミサイル能力を増強していることとあわせ考えれば、わが国の安全に対する重大な脅威であり、北東アジアおよび国際社会の平和と安定を著しく害するものとして断じて容認できない。
弾道ミサイルについては、既存の弾道ミサイルの配備、長射程化や固体燃料化5などのための研究開発が進められていると考えられるほか、北朝鮮による拡散についての指摘がなされている6。北朝鮮のミサイル問題も、特に、核問題とあいまって、アジア太平洋地域だけでなく、国際社会全体に不安定をもたらす要因となっており、その動向が強く懸念される。
(1)核兵器
ア 六者会合をめぐる主な動き
北朝鮮による核開発問題については、平和的な方法による朝鮮半島の検証可能な非核化を目標として、03(同15)年8月以降、6回にわたって六者会合が開催されている。05(同17)年の第4回六者会合では、北朝鮮による「すべての核兵器および既存の核計画」の放棄を柱とする共同声明が採択された。しかし、06(同18)年、北朝鮮は六者会合への参加を引き延ばすとともに、7発の弾道ミサイルの発射や核実験実施の発表を行い、国連安保理は決議第1695号および第1718号を採択するなどして、北朝鮮に対する制裁措置を実施した。北朝鮮はその後第5回六者会合に復帰し、07(同19)年2月には、第4回六者会合の共同声明を実施していくための「共同声明の実施のための初期段階の措置」が、同年10月には第6回六者会合の成果文書として「共同声明の実施のための第二段階の措置」が発表され、北朝鮮が同年末までに寧辺の核施設の無能力化を完了し、「すべての核計画の完全かつ正確な申告」を行うことなどが合意された。しかしながら、その合意内容の履行は完了しておらず7、六者会合は08(同20)年12月以降、中断している。
北朝鮮は09(同21)年にふたたびミサイル発射や核実験実施の発表を行い、国際社会は北朝鮮に対する追加的な措置を決定する国連安保理決議第1874号を同年6月に採択した。11(同23)年に入ると北朝鮮は前提条件なしでの六者会合復帰を表明し、その後、南北の六者会合首席代表会談や米朝高官会談が行われているが、六者会合の再開には至っていない。
以上のような北朝鮮の核問題に対する対応は、意図的に緊張を高めることによって何らかの見返りを得ようとするいわゆる瀬戸際政策であるとの見方がある一方で、北朝鮮の最終的な目的は核兵器の保有による抑止力の確保であるとの見方もある。
北朝鮮の究極的な目標は体制の維持であると指摘されており、こうした観点を踏まえれば、これらの見方はいずれも相互に排他的なものではないとも考えられる。北朝鮮の核問題の解決にあたっては、日米韓が緊密な連携を図ることが重要であることは言うまでもないが、六者会合の他の参加国である中国、ロシアなどの諸国や国連、国際原子力機関(IAEA:International Atomic Energy Agency)といった国際機関の果たす役割も重要である。
イ 核兵器計画の現状
北朝鮮の核兵器計画は、北朝鮮がきわめて閉鎖的な体制をとっていることもあり、その詳細について不明な点が多い。しかしながら、過去の核開発の状況が解明されていないことや、過去2回(06(同18)年10月および09(同21)年5月)の核実験実施発表を含む北朝鮮の様々な言動を考えれば、核兵器計画が相当に進んでいる可能性は排除できない8。
核兵器の原料となり得る核分裂性物質9であるプルトニウムについて、北朝鮮はこれまで製造・抽出を数回にわたり示唆してきたほか10、09(同21)年6月には、新たに抽出されるプルトニウムの全量を兵器化することを表明し、同年11月、抽出されたプルトニウムを兵器化する上で注目すべき諸成果が収められたと発表している11。
また、同じく核兵器の原料となり得る高濃縮ウランについては、米国が02(同14)年に、北朝鮮が核兵器用ウラン濃縮計画の存在を認めたと発表し、その後、北朝鮮は09(同21)年6月にウラン濃縮活動への着手を宣言、同年9月にはウラン濃縮実験が成功裏に行われたと発表した。さらに北朝鮮は10(同22)年11月に、訪朝した米国人の核専門家に対してウラン濃縮施設を公開し、その後、数千基規模の遠心分離機を備えたウラン濃縮工場の稼動に言及した。北朝鮮は、濃縮ウランは軽水炉の燃料として使用されるものであり、ウラン濃縮活動は核の平和利用にあたると主張している。しかしながら、ウラン濃縮に関する北朝鮮の一連の動きは、北朝鮮が、プルトニウムに加えて、高濃縮ウランを用いた核兵器開発を推進している可能性があることを示すものだと考えられる12。なお12(同24)年2月、北朝鮮は、米国との合意に基づき、寧辺におけるウラン濃縮活動の一時停止、核実験の実施猶予、長距離ミサイル発射の実施猶予などを表明したが、同年4月、北朝鮮の「人工衛星」と称するミサイル発射に対して、米国が実施を表明していた栄養支援の見合わせを表明し、国連安保理が発射を強く非難する議長声明を発出すると、これらに反発し合意にはもはや拘束されないことを宣言した。
一般に、核兵器を弾道ミサイルに搭載するための小型化には相当の技術力が必要とされている。しかしながら、米国、ソ連、英国、フランス、中国が60年代までにこうした技術力を獲得したとみられることを踏まえれば、北朝鮮が、比較的短期間のうちに、核兵器の小型化・弾頭化の実現に至る可能性も排除できず13、関連動向に注目していく必要がある。
(2)生物・化学兵器
北朝鮮の生物兵器や化学兵器の開発・保有状況については、北朝鮮の閉鎖的な体制に加え、生物・化学兵器の製造に必要な物資・機材・技術の多くが軍民両用であるため偽装も容易であることから、詳細については不明である。しかし、生物兵器については、87(昭和62)年に生物兵器禁止条約を批准したものの、一定の生産基盤を有しているとみられている。また、化学兵器については、化学兵器禁止条約には加入しておらず、化学剤を生産できる複数の施設を維持し、すでに相当量の化学剤などを保有しているとみられている14。
(3)弾道ミサイル
北朝鮮の弾道ミサイルは、北朝鮮がきわめて閉鎖的な体制をとっていることもあり、大量破壊兵器同様その詳細については不明な点が多いが、北朝鮮は、軍事能力強化の観点に加え、政治外交的観点や外貨獲得の観点15などから、弾道ミサイル開発に高い優先度を与えていると考えられる。
ア スカッド
北朝鮮は、80年代半ば以降、スカッドBやその射程を延長したスカッドC16を生産・配備するとともに、これらの弾道ミサイルを中東諸国などへ輸出してきたとみられている。
イ ノドン
90年代までに、北朝鮮は、ノドンなど、より長射程の弾道ミサイル開発に着手したと考えられる。すでに配備されていると考えられるノドンは、単段式の液体燃料推進方式の弾道ミサイルであると考えられる。射程は約1,300kmに達するとみられており、わが国のほぼ全域がその射程内に入る可能性がある。
ノドンはこれまで、93(平成5)年に行われた日本海に向けての発射において使用された可能性が高いほか、06(同18)年7月に北朝鮮南東部のキテリョン地区から発射された計6発の弾道ミサイルは、スカッドおよびノドンであったと考えられる17。また、09(同21)年7月、同地区から発射されたと考えられる計7発の弾道ミサイルについては、それぞれスカッドまたはノドンであった可能性がある18。
ノドンの性能の詳細は確認されていないが、命中精度については、この弾道ミサイルがスカッドの技術を基にしているとみられていることから、たとえば、特定の施設をピンポイントに攻撃できるような精度の高さではないと考えられる。
ウ テポドン1
北朝鮮は、射程1,500km以上と考えられるテポドン1の開発を行ってきた。テポドン1は、ノドンを1段目、スカッドを2段目に利用した2段式の液体燃料推進方式の弾道ミサイルで、98(同10)年に発射された弾道ミサイルの基礎となったと考えられる。北朝鮮は、現在では、さらに長射程のミサイルの開発に力点を移していると考えられ、テポドン1はテポドン2を開発するための過渡的なものであった可能性がある。
エ ムスダン
北朝鮮は現在、新型中距離弾道ミサイル(IRBM:Intermediate-Range Ballistic Missile)「ムスダン」の開発を行っているものと考えられる。ムスダンは北朝鮮が90年代初期に入手したロシア製潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM:Submarine-Launched Ballistic Missile)・SS―N―6を改良したものであると指摘されており、ノドンやスカッドと同様に発射台付き車両(TEL:Transporter-Erector-Launcher)に搭載され移動して運用されると考えられる。また射程については約2,500〜4,000kmに達するとの指摘があり、わが国全域に加え、グアムがその射程に入る可能性がある19。
なお、閉鎖的な体制のために北朝鮮の軍事活動の意図を確認することはきわめて困難であること、全土にわたって軍事関連の地下施設が存在するとみられていることに加え、TELに搭載され移動して運用されると考えられることなどから、ムスダンを含むTEL搭載式ミサイルの発射については、その詳細な発射位置や発射のタイミングなどに関する個別具体的な兆候を事前に把握することは困難であると考えられる。
オ テポドン2
テポドン2は、新型ブースターを1段目、ノドンを2段目に利用した2段式ミサイルで、射程約6,000kmとみられている。テポドン2は、06(同18)年7月、北朝鮮北東部沿岸地域のテポドン地区から発射され、発射数十秒後に高度数kmの地点で、1段目を分離することなく空中で破損し、発射地点の近傍に墜落したと考えられる。また、09(同21)年4月、同地区からテポドン2または派生型20を利用したとみられる発射が行われた。この発射については、わが国の上空を飛び越えて3,000km以上飛翔し、太平洋に落下したと推定されることから、06(同18)年のテポドン2の発射失敗時と比較すれば、北朝鮮が弾道ミサイルの長射程化を進展させたと考えられるほか、推進部の大型化、多段階推進装置の分離、姿勢制御などの所要の技術を検証し得たと考えられる。
北朝鮮は、12(同24)年4月にも、「人工衛星」を打上げるとして、北朝鮮北西部沿岸地域の東倉里(トンチャンリ)地区から、テポドン2または派生型を利用したとみられる発射を行った。北朝鮮は発射に際し、韓国の西方沖合(黄海上)およびフィリピン・ルソン島の東方沖合(太平洋上)にそれぞれ落下区域を設定していたものの、ミサイルは1分以上飛翔し、数個に分かれて黄海に落下したため、発射は失敗したと考えられる21。一方、発射が失敗したことや、将来のさらなる「人工衛星」打上げにたびたび言及していることなどから、北朝鮮は今後も、「人工衛星」打上げを名目として同様の発射を行う可能性が高いと考えられる。
北朝鮮は、現在、以上のような弾道ミサイルに加え、固体燃料推進方式の短距離弾道ミサイル22の開発も行っていると考えられるほか、12(同24)年4月に行われた閲兵式(軍事パレード)で登場した新型ミサイルは、長射程の弾道ミサイルの可能性があると考えられる。また、既存の弾道ミサイルについても、長射程化などの改良努力が行われている可能性に注意を払っていく必要がある。
北朝鮮が発射実験をほとんど行うことなく弾道ミサイル開発が急速に進展してきた背景として、外部からの各種の資材・技術の北朝鮮への流入の可能性が考えられる。また、弾道ミサイル本体ないし関連技術の移転・拡散を行い、こうした移転・拡散によって得た利益でさらにミサイル開発を進めているといった指摘もみられる。たとえば、ノドンと、イランのシャハーブ3の形状には類似点が見受けられ、ノドン本体ないし関連技術の、イランへの移転などが行われた可能性が指摘されている。また、移転先で試験を行い、その結果を利用しているといった指摘もある。このほか、長射程の弾道ミサイル実験は、射程の短いほかの弾道ミサイルの射程距離の延伸、弾頭重量の増加や命中精度の向上にも資するものと考えられるため、テポドン2など長射程の弾道ミサイルの発射が、ノドンなど北朝鮮が保有するその他の弾道ミサイルの性能の向上につながっている可能性が考えられる。
北朝鮮の弾道ミサイルについては、その開発・配備の動向のみならず、移転・拡散の観点からも懸念されており、引き続き注目していく必要がある。
(図表I―1―2―2参照)
(1)全般
北朝鮮は、全軍の幹部化、全軍の近代化、全人民の武装化、全土の要塞化という四大軍事路線23に基づいて軍事力を増強してきた。
北朝鮮の軍事力は、陸軍中心の構成となっており、総兵力は約120万人である。北朝鮮軍は、現在も、依然として戦力や即応態勢を維持・強化していると考えられるものの、その装備の多くは旧式である。
一方、情報収集や破壊工作からゲリラ戦まで各種の活動に従事する大規模な特殊部隊を保有し、その勢力は約10万人に達すると考えられる24。また、北朝鮮の全土にわたって多くの軍事関連の地下施設が存在するとみられていることも、特徴の一つである。
(2)軍事力
陸上戦力は、約100万人を擁し、兵力の約3分の2をDMZ付近に展開していると考えられる。その戦力は、歩兵が中心であるが、戦車3,500両以上を含む機甲戦力と火砲を有し、また、240mm多連装ロケットや170mm自走砲といった長射程火砲をDMZ沿いに常時配備していると考えられ、首都であるソウルを含む韓国北部の都市・拠点などがその射程に入っている。
海上戦力は、約650隻約10.3万トンの艦艇を有するが、ミサイル高速艇などの小型艦艇が主体である。また、ロメオ級潜水艦約20隻のほか、特殊部隊の潜入・搬入などに使用されると考えられる小型潜水艦約60隻とエアクッション揚陸艇約130隻を有している。
航空戦力は、約600機の作戦機を有しており、その大部分は、中国や旧ソ連製の旧式機であるが、MiG―29戦闘機やSu―25攻撃機といった、いわゆる第4世代機も少数保有している。また、旧式ではあるが、特殊部隊の輸送に使用されるとみられているAn―2輸送機を多数保有している。
北朝鮮軍は、即応態勢の維持・強化などの観点から、現在も各種の訓練を活発に行っている。他方、深刻な食糧事情などを背景に、軍によるいわゆる援農活動なども行われているとみられている。
(1)金正日国防委員会委員長の死去と新体制への移行
11(同23)年12月19日、北朝鮮は金正日国防委員会委員長が急病のため同17日に死去したことを明らかにした。同委員長の死後、北朝鮮メディアなどが金正恩氏に対して最高領導者との呼称を用いはじめ、同氏が北朝鮮の新しい指導者であることが明らかになった25。
金正恩氏は、同30日に朝鮮人民軍最高司令官に就任した後、12(同24)年4月に朝鮮労働党第1書記および国防委員会第1委員長に就任して事実上の軍・党・「国家」のトップとなり、金正日国防委員会委員長の死後、短期間で新体制が整えられた。また、朝鮮人民軍最高司令官をはじめとする軍関係の役職への就任や、軍関係組織に対する頻繁な視察などから、同氏の権力基盤の構築は軍の掌握を中心としたものであると考えられる。北朝鮮では様々な「国家」的行事26や金正恩氏による現地指導が整斉と行われており、新体制は一定の軌道に乗っていると考えられる。一方、貧富の差の拡大や外国からの情報の流入などにともなう社会統制の弛緩などに関する指摘もなされており、新体制の安定性という点から注目される。
(2)経済事情
経済面では、社会主義計画経済の脆弱(ぜいじゃく)性に加え、冷戦の終結にともなう旧ソ連や東欧などとの経済協力関係の縮小の影響などもあり、北朝鮮は慢性的な経済不振、エネルギー不足や食糧不足に直面している。特に、食糧事情については、引き続き海外からの食糧援助に依存せざるを得ない状況にあるとみられている27。
こうした経済面での様々な困難に対し、北朝鮮は限定的な改善策や一部の経済管理システムの変更を試みており、09(同21)年末にはいわゆるデノミネーション(貨幣の呼称単位切下げ)などを実施したとみられる28。また、11(同23)年1月に、新たに「国家経済開発10ヵ年戦略計画」29を採択したほか、他国との経済協力プロジェクトも行われている模様である30。一方、北朝鮮が現在の統治体制に影響を与えるような構造的な改革を行う可能性は低いと考えられることから、経済の現状を根本的に改善することには、様々な困難がともなうと考えられる。
(1)米国との関係
米国は、他国と緊密に協力しつつ北朝鮮の核計画廃棄に取り組む姿勢を明らかにし、六者会合を通じた核問題の解決を図ろうとしている。六者会合の再開については、米国は一貫して、北朝鮮が05(同17)年の六者会合共同声明の遵守や南北関係の改善のための具体的な措置を講じることが必要との立場を示している。
これに対し北朝鮮は、朝鮮半島の非核化の意思を示すとともに、米国との関係を重視する姿勢を見せている。その一方、北朝鮮は、米国の北朝鮮に対する敵視政策や米朝間の信頼関係の欠如が朝鮮半島の平和と非核化を妨げているなどとして米国を非難し、信頼関係構築のため、まず米朝間における平和協定締結が必要だと主張するなど、米朝の立場には依然として隔たりがみられる31。
(2)韓国との関係
南北関係においては、韓国で李明博(イ・ミョンバク)政権が発足後、09(同21)年11月の黄海側北方限界線(NLL:Northern Limit Line)付近における南北艦艇の銃撃戦、10(同22)年3月の韓国哨戒艦沈没事件32、同年11月の延坪島(ヨンピョンド)砲撃事件33など、南北間で軍事的な緊張をもたらす事案が発生した。その後北朝鮮は韓国に対して対話を求める姿勢に転じ、11(同23)年の新年共同社説において南北の対決状態の解消や対話・協力の推進を呼びかけ、南北対話が行われた。しかしながら、北朝鮮はその後再び韓国との対決姿勢を強め、同年12月には、金正日国防委員会委員長死去後の韓国政府の対応などを批判し、李明博政権を永遠に相手にしないとする声明を発表した34。
(3)中国との関係
中国との関係では、61(昭和36)年に締結された「中朝友好協力および相互援助条約」が現在も継続している。現在、中国は北朝鮮にとって最大の貿易相手国であり、また10(平成22)年と11(同23)年に金正日国防委員会委員長が複数回の訪中を行っているほか、同年8月には中国の海軍艦艇が北朝鮮を訪問するなど、中朝関係は政治・経済を中心とした様々な分野において緊密であると考えられる35。北朝鮮の核問題については、中国は朝鮮半島の非核化や六者会合の早期再開の支持を表明している。
(4)ロシアとの関係
ロシアとの関係は、冷戦の終結にともない疎遠になって いたが、00(同12)年には「露朝友好善隣協力条約」が署名された36。11(同23)年8月には、金正日国防委員会委員長がロシアを訪問し、9年ぶりに露朝首脳会談が行われている。その後、露朝間ではガス・パイプライン事業における協力を進めており、また捜索救難を目的とした合同演習の実施で合意したと伝えられるなど、関係強化の動きがみられる。北朝鮮の核問題については、ロシアは、中国と同様、朝鮮半島の非核化や六者会合の早期再開の支持を表明している。また、北朝鮮のウラン濃縮活動は深刻な懸念を呼び起こすものであるとし、北朝鮮に対し、核拡散防止条約(NPT:Nuclear Non-Proliferation Treaty)およびIAEAの保障体制への復帰に向けた行動をとるよう呼びかけている。
(5)その他の国との関係
北朝鮮は、99(同11)年以降、相次いで西欧諸国などとの関係構築を試み、欧州諸国などとの国交の樹立37やARF閣僚会合への参加などを行ってきた。また、イランやシリアといった国々との間では、北朝鮮からの武器輸出や武器技術移転を含む軍事分野での協力関係が伝えられている。
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