特集 東日本大震災への対応 

3 原子力災害への対応
地震・津波の影響により、福島県の東京電力福島第一原子力発電所(原発)の原子炉の冷却機能が不十分となったことなどから、原子力緊急事態宣言が出された。防衛省・自衛隊は、政府の原子力災害対策本部からの要請を受け、原子力災害派遣命令を発出し、陸自の中央特殊武器防護隊を中核として事態の対応に当たった。
原子力災害派遣においては、自衛隊は主として使用済燃料プールの冷却のための放水、人員・車両などの放射性物質の除染および空気中の放射線の量や原子炉の温度変化などのモニタリング作業を行った。なお、活動に際しては、福島県楢葉(ならは)町の施設(Jヴィレッジ)に現地調整所を設け、関係機関および東京電力と調整を行った1

1 放水・給水
福島第一原発においては、冷却機能が損なわれた原子炉や使用済燃料プールを速やかに冷却する必要があった。そこで、防衛省・自衛隊は、原子炉への給水作業を支援したほか、3月17日、陸自第1ヘリコプター団のCH-47Jヘリコプター2機により、空中消火機材(バケット)を用いて福島第一原発3号機への水の投下を実施、計4回にわたり約30トンの海水を投下した。
なお、3月14日、福島第一原発3号機への給水作業に従事していた隊員数名が原子炉建屋の爆発事故に巻き込まれ負傷した2。致命傷ではなかったが、現場の車両がすべて大破する大事故であった。
 
原発への水投下作業に出発するCH-47ヘリ
原発への水投下作業に出発するCH-47ヘリ

また、各自衛隊が保有する消防車を使用して、同月17日から翌日にかけて福島第一原発3号機への放水を、20日および21日には福島第一原発4号機への放水をそれぞれ行った。本作業では、消防車延べ44台を用い、約340トンの水を放水して冷却にあたった。
 
地上からの放水の様子
地上からの放水の様子

なお、福島第二原発においても、同月13日および14日に空自の給水車両を中心に冷却水の注入を行った。
さらに、淡水による冷却を行うため、米軍から提供されたバージ船2隻に淡水を搭載し、海自の多用途支援艦「ひうち」および「あまくさ」が横須賀から福島第一原発付近までこれを曳航(えいこう)した。
 
バージ船曳航作業中の多用途支援艦
バージ船曳航作業中の多用途支援艦

2 除染
陸自の化学科部隊は、原発周辺に居住する住民や、支援活動に従事した自衛隊員、消防隊員などに対し、原発周辺の主要幹線上の最大8箇所に設置した除染ポイントにおいて、放射線量の計測や除染を実施するとともに、作業に使用した航空機や車両などの除染も行った。

3 モニタリング作業など
福島第一原発の状況および放射性物質の大気中への放出の程度などを常続的に把握するため、空自RF-4偵察機および陸自UH-1ヘリコプターによる航空偵察を行ったほか、技術研究本部が陸自CH-47Jヘリコプターに赤外線サーモグラフィ装置を搭載し、上空からの温度測定を実施した。
 また、原子力災害対策本部や文部科学省からの要請依頼により、福島第一原発周辺の放射性物質の種類などを調査するため、空自T-4練習機による集塵じん飛行を実施したほか、自衛隊ヘリコプターに線量測定装置を搭載し「放射線量等分布マップ」を作成するための計測飛行を実施した。
 
CH-47Jヘリコプターによる赤外線サーモグラフィ装置を用いた温度測定
CH-47Jヘリコプターによる赤外線サーモグラフィ装置を用いた温度測定

4 原発周辺地域の住民に対する支援
福島第一原発から半径20km圏内、福島第二原発から半径10km圏内(その後8km圏内に変更)に居住する住民に対しては避難指示が、福島第一原発から半径20km〜30kmの圏内に居住する住民に対しては屋内退避の指示が、原子力災害対策本部長(内閣総理大臣)からそれぞれ段階的に出された。
防衛省・自衛隊は、被災地の住民の安全確保のため、避難区域においては、区域内に所在する病院の入院患者、要介護者などの避難の際の輸送支援、避難した住民に対する放射線量の測定および除染などを行った。また、屋内退避区域においては、要介護者や住民の自主避難の支援や、食料、飲料水および医薬品の配送支援、避難所などで生活する被災者や在宅する高齢者などを対象とした巡回診療、自治体が確認できなかった住民の居住状況、健康状態および退避の意向などの調査のための戸別訪問などを実施した。
4月21日および22日に原子力災害対策本部長(内閣総理大臣)の指示によって新たに警戒区域などが設定され3、5月10日以降、被災住民による警戒区域内への一時立入りが行われているが、陸自の化学科部隊は、中継基地などにおいて、一時立入りを行った住民などの放射線量の計測や除染の支援を行っている。
 
CH-47ヘリによる避難地域内病院からの患者輸送
CH-47ヘリによる避難地域内病院からの患者輸送
 
車の除染作業
車の除染作業

5 原発周辺地域の行方不明者などの捜索
福島県沿岸部における行方不明者の捜索については、当初北部を中心に行っていたが、捜索の進捗状況などを踏まえ、4月18日から、福島第一原発から30km圏内の捜索を実施している。さらに、5月1日以降、福島第一原発から20km圏内、同月3日からは10km圏内で、放射線環境などにも留意しつつ行方不明者の捜索を実施している。
 
30km圏内を捜索活動中の隊員
30km圏内を捜索活動中の隊員
 
10km圏内で防護服を着用し捜索する隊員
10km圏内で防護服を着用し捜索する隊員


 
1)3月20日の原子力災害対策本部長(内閣総理大臣)指示により、放水、観測などに関する現場における具体的な実施要領は、自衛隊が中心となり、関係行政機関や東京電力の間で調整の上で決定し、作業の実施も自衛隊が一元的に管理することとされた。

 
2)このうち1名は、爆発によって右脚に裂傷を負い、放射性物質による被ばくが疑われたため、ただちに千葉の放射線医学総合研究所に搬送され、治療や検査を受けた。検査の結果、隊員に内部被ばくなどはみられず、まもなく退院し、その後、現場での活動に復帰した。

 
3)4月21日の原子力災害対策本部長(内閣総理大臣)指示により、福島第一原発から半径20km圏内が警戒区域として設定され、また、同月22日の指示により、福島第一原発から半径20km〜30km圏内に指示していた屋内への退避を解除し、新たに計画的避難区域や緊急時避難準備区域が設定された。


 

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