特集 東日本大震災への対応 

2 救援活動

1 人命救助など
(1)捜索・救助活動
地震発生当初、防衛省・自衛隊は、まず、被災者の捜索・救助に全力をあげた1
派遣部隊は、警察、消防、海上保安庁などと協力し、地震や津波により孤立した地域や倒壊家屋などから多数の被災者を救出し、特に水没により孤立した場所では、救難ヘリコプターや輸送ヘリコプターなどを活用して、数十名から数百名規模の被災者の避難支援を行った。被災地域周辺の海域においても、航空機および艦艇を可能な限り動員して捜索・救助にあたった。
これらの活動により、自衛隊では、全救助者の約7割に当たる約19,000名の被災者を救出した。
 
ヘリコプターによる救出
ヘリコプターによる救出
 
倒壊家屋からの救出
倒壊家屋からの救出
 
護衛艦「ちょうかい」が発見・救助した漂流中の生存者
護衛艦「ちょうかい」が発見・救助した漂流中の生存者

(2)行方不明者の捜索活動
地震発生から日を経るに従い、自衛隊の活動は、行方不明者の捜索活動へとシフトしていった。
当初、被災地域の多くは瓦礫や泥などにより車両や重機の進入が難しく、余震などによる2次災害も予想されたが、派遣部隊は倒壊した家屋などの瓦礫を慎重に除去しながら捜索活動を行った。また、冠水した地域では、渡河ボートなどを活用するとともに、水深の浅い地域では隊員が水に浸かりながら手探りで行方不明者の捜索を実施するなどした。
地震と津波の影響で、地盤が沈下し長期間にわたり冠水状態が続いた地域も少なくなく、捜索活動は困難を極めた。このような中、派遣部隊は、米軍、海上保安庁、警察、消防と共同し、岩手、宮城、福島各県の沿岸や河口部を中心に3回(のべ6日間)にわたり行方不明者の集中捜索も行った。
この間、今回の大震災の影響により、自治体や民間事業者の機能が低下している事情を踏まえ、自治体からの要請に基づき、緊急性の観点からご遺体の埋葬場所への搬送支援や、ご遺体安置所における受付などの業務支援を行った。

参照 資料 特-1
 
降雪の中、捜索活動現場に向かう隊員
降雪の中、捜索活動現場に向かう隊員
 
極寒の中、捜索する隊員
極寒の中、捜索する隊員
 
集中捜索活動において水中を捜索する潜水士
集中捜索活動において水中を捜索する潜水士

2 輸送支援活動
震災発生直後、自衛隊は、災害派遣医療チーム(DMAT:Disaster Medical Assistance Team)や患者のほか、各国から派遣された救助隊などの輸送支援を直ちに実施し、被災者の救護に全力で取り組んだ。
これに加えて、今般の震災では、被災地域へ様々な救援物資を迅速かつ的確に輸送し、各避難所のニーズを踏まえて配分する必要が生じた。
このため、防衛省・自衛隊では、防衛大臣の指示により、全国の地方公共団体および民間から提供される救援物資を各地の駐屯地などに集積した後、統合幕僚監部の統制によって陸・海・空自が東北地方の花巻・福島空港および松島基地まで輸送(統合輸送)し、岩手・宮城・福島県の集積所を経由して被災地に届けるスキームを初めて構築した。また、陸自東北方面総監部(統合任務部隊司令部)には、避難所などへの救援物資の輸送・配分の統制・調整を担当する部署(民生支援セル)を設けた。また、女性自衛官を含む派遣部隊が避難所を戸別訪問するなどにより、できるだけ具体的に被災者が必要とする救援物資ニーズの把握に努めた。
これにより、KC-767、C-130H、C-1などの航空輸送能力を活用して全国から寄せられる大量の救援物資を迅速に被災地へ輸送する態勢や、輸送艦などの海上輸送能力を活用して大量かつ大型の救援物資を輸送する態勢を整えた。海上輸送を行った救援物資については、大型船舶の接岸が困難な地域では、エアクッション艇(LCAC:Landing Craft Air Cushioned)により海岸に上陸して輸送を行った。さらに、輸送艦などを海上拠点として、ヘリコプターによる物資のピストン輸送も行った。
陸路の輸送については、主として駐屯地・基地間や空港・港湾施設などから集積所・避難所までの間の物資輸送を大型車両などにより行った。
 このような態勢の確立により、被災地で特に不足する傾向にあった、灯油、軽油、ガソリン、水や食糧、衣料品、毛布、粉ミルク、紙おむつ、簡易トイレなど、避難所のニーズを踏まえたきめ細かな救援物資の迅速かつ効率的な輸送が可能となった。
(図表 特-2参照)
 
図表 特-2 輸送スキームの概要?救援物資の輸送(イメージ)
 
KC-767による物資輸送
KC-767による物資輸送
 
エアクッション艇(LCAC)による物資輸送
エアクッション艇(LCAC)による物資輸送
 
輸送艦による物資輸送
輸送艦による物資輸送
 
女性自衛官による救援物資ニーズの聞き取り調査
女性自衛官による救援物資ニーズの聞き取り調査

3 生活支援活動
(1)給水支援
防衛省・自衛隊は、被災者の生活に欠かせない飲料水や生活用水の提供のため、水タンク車や水タンクトレーラなどによる給水支援を行った。この際、被災地域や避難所に給水所を設置して定期的に給水するとともに避難所を巡回して給水するなど、避難所や断水している地域で飲料水や生活用水が不足することがないよう努めた。また、道が狭く車両の進入が難しい避難所や、水を運ぶことが困難な高齢者が多い避難所などでは、隊員が水を直接渡すなどした。
 
給水車による給水支援
給水車による給水支援

(2)給食支援
震災発生直後は、主に缶詰やレトルト食品、非常用糧食、パンなどの提供による支援を行っていたが、被災者に温かい食事を提供するため、主要な避難所において野外炊具などによる炊き出しを実施し、近傍の避難所にも提供した。また、物資が行きわたりにくい離島などの被災者には、護衛艦や輸送艦を活用して、艦上における給食支援を行った。
 
野外炊具による給食支援
野外炊具による給食支援

(3)燃料支援
震災発生当初は、避難所で暖をとるために必要な灯油や、救援活動や被災者の生活に必要なガソリンが不足していた。
防衛省・自衛隊は、救援物資として提供される燃料の輸送支援を行う一方、防衛大臣の指示により、駐屯地や基地などで保有・備蓄する燃料を、被災地のニーズに応じて、各避難所のみならず、市町村役場、病院などにも無償で提供した。また、警察車両、救急車や消防車などの緊急車両には、派遣部隊の宿営地などで設置・開設している給油所で給油できるようにした。
さらに、避難所などに設置された仮設ミニSS(Service Station:臨時給油所)に対する燃料輸送の支援も行った。
 
燃料支援をする隊員
燃料支援をする隊員

(4)入浴支援
被災地で水や燃料を十分に確保することが難しい中、被災者の心身の健康にかかわる入浴の支援は、生活支援として重要である。
防衛省・自衛隊は、自治体のニーズなどを踏まえながら、陸自の野外入浴セットを用いた入浴施設を各地に開設するとともに、空自松島基地や海自八戸基地などの入浴施設、護衛艦・輸送艦の浴室などを開放し、さらに米軍の支援によるシャワーセットについても被災者が利用できるよう支援した。また、自衛隊が提供できる入浴施設・設備にも限りがある中、できるだけ多くの被災者が利用できるよう、入浴日や入浴時間を調整するとともに、入浴施設・設備から遠い場所に所在する被災者については、車両やエアクッション艇(LCAC)などによる送迎を行うなど、きめ細かな支援に努めた。
 
野外入浴セットを用いた風呂
野外入浴セットを用いた風呂
 
掃海母艦「ぶんご」で入浴設備・食事の提供を受けた気仙沼大島の小・中学校の卒業生
掃海母艦「ぶんご」で入浴設備・食事の提供を受けた気仙沼大島の小・中学校の卒業生
 
空自松島基地での入浴支援
空自松島基地での入浴支援

(5)衛生支援
防衛省・自衛隊では、自衛隊仙台病院および海自八戸基地の医務室を開放するとともに、被災地各地に応急救護所を開設して、被災者の診療などを行ったほか、陸・海・空自の医官や衛生隊員による各地での巡回診療や、うがい・消毒などの衛生管理、被災者の健康相談なども行った。孤立した地域や離島への巡回診療や、救難ヘリコプター・機動衛生ユニットを搭載した固定翼機などによる救急患者の輸送などの輸送支援も行った。
 
巡回診療支援
巡回診療支援
(6)その他の生活支援
汚水の流出などによる感染症の蔓延を予防するため、倒壊した家屋や地面に消毒剤を散布するなどの防疫活動も行った。
そのほか、陸・海・空自の音楽隊などが、各避難所を巡回訪問し、音楽演奏などの慰問活動も行った。
 
小学校卒業式で音楽隊との合同演奏
小学校卒業式で音楽隊との合同演奏

4 応急復旧作業
道路、空港および港湾は、被災地における生活を回復し、復興活動を円滑に行っていくために必要不可欠である。
派遣部隊は、震災直後は人命救助に必要な現場への展開や輸送支援実施のための道路および拠点となる空港・港湾を使用可能な状態にすることを優先しながら、自治体や住民の手による復興活動が円滑に行われるよう、自治体のニーズを踏まえ、瓦礫を撤去するのみならず集積地まで運搬し処分する支援を行った。
また、仙台空港、八戸港、宮古港、気仙沼港などについては、米軍の協力を得ながら、その機能回復を図るなど応急復旧支援活動を行った。
さらに、孤立地域などとの往来に必要不可欠な場合には、自衛隊の浮橋、パネル橋などの装備品を用いて橋梁の応急的な代用措置を行うとともに、津波や地盤沈下により被災地に溜まった海水を除去するための排水溝の構築、学校校舎の復旧など、さまざまな応急復旧支援活動を行った。
震災発生後3ヶ月以上が経過し、自治体や住民による本格的な復旧・復興が始まっており、派遣部隊は、自治体と調整しながら、民間業者などとも協力して家屋倒壊により生じた瓦礫の除去、運搬・処分などの支援を継続している。
 
道路の復旧・瓦礫除去
道路の復旧・瓦礫除去
 
瓦礫の除去など復旧作業
瓦礫の除去など復旧作業
 
瓦礫除去など復旧作業
瓦礫除去など復旧作業
 
自衛隊の装備品(パネル橋)を代用した応急的な橋梁
自衛隊の装備品(パネル橋)を代用した応急的な橋梁


 
1)防衛省・自衛隊においても、駐屯地や基地が被災したほか、自衛官3名が死亡した。そのうち1名は、自衛隊宮城地方協力本部の隊員で、地震発生直後、避難所となった小学校で被災者を誘導しているという報告があったが、その後連絡が途絶し、地震発生から3ヶ月近く経った6月4日にご遺体として発見された。


 

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