コラム 

<解説>「動的防衛力」について

「運用」に焦点を当てた防衛力
新防衛大綱では、将来に向けて、わが国の防衛力の基本的方向性として「動的防衛力」を構築するとの方針を示した。これは、安全保障環境の変化などを受けて、「運用」に焦点を当てた防衛力を実現しようとする考え方である。
具体的には、防衛省・自衛隊としては、次のような考え方で防衛力の運用を行っていくことが重要と考えている。

1)平素の活動?常時・継続的・戦略的に実施
わが国周辺で軍や関係機関による活動が常日頃から活発に行われる中では、各国の動向を把握し、事態の兆候を察知するための活動を日常的に行うことが極めて重要である。
このため、防衛力を日ごろから運用し、情報収集・警戒監視・偵察活動などを行っていく。これらの活動は、国を守るという意思や高い防衛能力を示すものであり、わが国が置かれる環境にも影響を及ぼしうることに着目して、戦略的に行う視点が必要である。

2)事態への対応?迅速かつ切れ目なく実施
軍事科学技術などの進展にともない、兆候が現れてから事態発生に至るまでの時間が非常に短くなり、また、災害などは兆候の察知自体が難しい。社会インフラが高度化・複雑化・ネットワーク化し、小さな被害が大きな影響を生む可能性も高まる中、早期に事態や被害の拡大を食い止めることが必要となる。
このため、日ごろの活動を通じて兆候を早期に察知し、国内外における突発的な事態に、迅速にかつシームレスに(切れ目なく)対応する。たとえば、島嶼部が何らかの危機に陥った場合には、陸海空の部隊を迅速かつ機動的に統合運用し、即座に対応することが重要である。

3)協調的な活動?重層的に実施
多様化・複雑化が進む安全保障上の課題は、一国のみで解決することが難しくなり、利益を共有する国が協力して、粘り強く取り組むことが一層必要になっている。また、これらの取組において軍事力を用いることも一般的なものとなっている。
このため、わが国としても、防衛力を積極的に活用して課題の解決に継続的に取り組み、その中で、二国間、三国間、多国間といったさまざまな形で国際協力を重層的に展開し、諸外国との協調・協力のネットワークを強化していく。こうした取組は、わが国の国際社会における存在感の高まりにも寄与するものである。
たとえば、国外における大規模災害などに際して、自衛隊の特性を活かしつつ、迅速に展開し、医療活動、物資の輸送活動などを効果的・効率的に実施することや、PKO、海賊対処、能力構築支援などにおいて多様かつ長期的な任務を実施することが重要である。

「動的防衛力」実現に向けた構造改革
「動的防衛力」は、これまでに構築された防衛力を前提に、更なる構造改革を行いつつ、より効果的・能動的に活用することに力点を置いている。
「動的防衛力」実現のためには、総合的・横断的な観点から、自衛隊全体にわたる装備、人員、編成、配置などの抜本的な効率化・合理化を図り、真に必要な機能に資源を選択的に集中して、防衛力の構造的な改革を行うことが必要である。また、装備の量や質の確保といったハード面のみならず、防衛力の運用を支える各種制度の見直しといったソフト面の取組も必要である。
このため、防衛省では、「防衛力の実効性向上のための構造改革」を断行すべく、総合的な検討を行っている。
※「構造改革」の詳細については、3章2節参照。

従来の防衛力のあり方との違い
1)51大綱 -「防衛力の存在」重視
冷戦期、東西両陣営の対立という構図の中で、「防衛力の存在」による侵略の未然防止・抑止に重きを置く考え方(基盤的防衛力構想)を採用し、防衛上各種の機能を備えた部隊を全国に均衡配備することに力点を置いていた。

2)07大綱?基盤的防衛力構想の踏襲
東西冷戦後の不透明・不確実な状況下で、「力の空白」を生まないよう、基盤的防衛力構想を基本的に踏襲する一方、PKOや災害派遣など、本来の「戦う」という役割とは異なる自衛隊の活動に対する期待の高まりを踏まえ、防衛力の役割として国際貢献や大規模災害への対処などにも言及した。

3)16大綱 -「対処」と「国際協力」重視
21世紀に入り、抑止困難なテロリズムが一国の安全を脅かす可能性、弾道ミサイルなどが使用される可能性が現実味を帯びてきたことを踏まえ、これらの危機が実際に及んだ場合の「対処」に力点を置くことが必要となった。加えて、このような危機の未然防止のためには、不安定要因を除去すべく国際平和協力活動などを通じて安全保障環境を改善していくことが必要と考えられた。このため、基盤的防衛力構想の有効な部分は継承しつつ、「抑止」に加え、「対処」と「国際協力」を重視した「多機能で弾力的な実効性のある防衛力」を構築することとされた。

「動的防衛力」の考え方は、このような流れの中で、新たな安全保障環境において、事態が起こる前から行う情報収集・警戒監視などの平素の活動や、アジア太平洋地域などにおける国際協力の重要性が高まっていることを踏まえて、自衛隊の「運用」を重視し、「多機能で弾力的な実効性のある防衛力」を発展させたものである。

 

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