第III部 わが国の防衛に関する諸施策 

6 隊員の処遇と人事施策など
自衛隊が対応すべき事態は、昼夜の別なく起こるものである。特に自衛官の職務は、各種の作戦を行うための航空機への搭乗、長期間にわたる艦艇や潜水艦での勤務、落下傘での降下など厳しい側面がある。このため、防衛省・自衛隊は、隊員が誇りを持ち、安心して職務に専念できるよう、職務の特殊性を考慮した俸給と諸手当の支給、医療や福利厚生などの充実を図っている。なお、東日本大震災での災害派遣については、従来の災害派遣活動などよりも厳しい状況での活動であったことから、新防衛大綱にもあるように、過酷または危険な任務の遂行に対し適切な処遇が確保されるよう、災害派遣等手当などの支給額の大幅な増額や支給範囲の拡大などの充実を図った。
(図表III-4-1-5参照)
 
図表III-4-1-5 主な人事施策

1 人的基盤に関する改革など
防衛省では、人的基盤の重要性を認識し、新しい時代に向けてさまざまな施策を推進している。
新防衛大綱および新中期防においては、人事制度の抜本的な見直しを図り、人件費の抑制・効率化とともに、若年化による精強性の向上などを推進し、人件費の比率が高く、自衛隊の活動経費を圧迫している防衛予算の構造改革を図ることとし、人的資源の効果的活用について各種の方向性が示された。これらの方向性および公務員制度改革の議論などを踏まえ、自衛隊の人的基盤について総合的な施策の検討および実施を図るため、同月、防衛省は、防衛副大臣を長とする「人的基盤に関する改革委員会」を設置するとともに、防衛力の実効性向上のための構造的な改革を推進するため、防衛大臣指示により、「防衛力の実効性向上のための構造改革推進委員会」を設置した。
現在、省内においては、これらの委員会が相互に連携をしつつ、自衛隊の精強性を向上させるため、防衛力の人的側面に関する従来の検討1を発展させ、自衛官の階級別定数などを管理し、「士」の増勢など各自衛隊の特性に応じた階級・年齢構成の見直し、新たな任用制度、幹部・准曹・士の各階層の活性化のための施策、早期退職制度および募集・再就職援護に関する諸施策などについての検討を行っている。
参照 II部3章2節

2 女性自衛官の一層の活用など
わが国の平和と国民の安全を確保することを目的とする防衛省・自衛隊の活動は、国民の広範な支持に基づくものでなくてはならない。そのような支持のもと、防衛省・自衛隊は、男性のみならず、女性にも広く門戸を開放し、任務を遂行している。女性自衛官については、母性の保護、プライバシーの確保などの制約により、一部の配置には制限があるものの、さまざまな業務を行っており、各幕僚監部や司令部などの自衛隊の中枢においても、活躍の場が拡大してきている。
防衛省としては、引き続き、女性自衛官の採用・登用の更なる拡大を図るため、11(同23)年3月、「防衛省における男女共同参画に係る基本計画(平成23年〜平成27年度)」2を策定した。同計画においては、女性自衛官が途中で退職することなく、仕事と家庭生活が両立でき、さらに活躍の場が広がるようなさまざまな施策を検討・実施することとしている。その具体例として、防衛大学校における訓練補導要領の見直し、意欲と能力を有する女性自衛官の計画立案業務への積極的な参画、将来における国連などの海外勤務も念頭においた国際平和協力活動への女性自衛官の更なる活用、育児休業代替要員制度の積極的な運用、目標となるロールモデルの発掘・紹介、各種の機会を捉えた意識啓発の実施などである。
今後とも、国民が求める防衛省・自衛隊の諸活動において、女性自衛官をより一層活用するため、これらの施策をはじめ考えつく限りの取組を粘り強く重層的に行っていく。

3 隊員の子育て支援への取組
わが国における少子化の進行を踏まえ、次代の社会を担う子供たちが健やかに生まれ、かつ育成される社会の形成に資するため、03(平成15)年、「次世代育成支援対策推進法」が成立した。これを受け、防衛庁(当時)でも、04(同16)年、防衛庁次世代育成支援対策推進委員会を設置し、05(同17)年、同年4月1日から10(同22)年3月31日までを計画期間とする「防衛庁特定事業主行動計画」を策定した。
10(同22)年3月には、同計画が終了することにともない、同年4月1日から15(同27)年3月31日までを計画期間とする「防衛省特定事業主行動計画(平成22年度〜平成26年度)」3を策定し、特に男性職員の育児休業や特別休暇の取得促進などに取り組んでいる。

4 規律の維持
実力組織である防衛省・自衛隊は、社会全般と比較しても、より厳格な規律の維持が求められている。そうした規律の維持こそが国民からの信頼を確立するための拠り所である。国民からの信頼を得ることなくして、わが国の平和と安全を守るという崇高な任務を遂行することはできない。
しかしながら、ひとたび不祥事が起これば、長年にわたり努力し、積み上げてきた信頼は、一瞬にして損なわれ、回復には長い時間と努力が必要となる。そのため、防衛省・自衛隊では、日頃から隊員に対して、幹部隊員が率先垂範しながら、法令などのさまざまな規則の遵守とその意識の高揚に務め、組織風土としての定着を図り、規律の維持の徹底を期している。
例えば、部隊などにおいては、平素から規則遵守の教育を実施するとともに、国民からの信頼を失いかねない不祥事案が起きた場合は、法令を再確認し、速やかに再発防止のための教育を行っている。また、各部隊などの指揮官は、上司と部下、隊員同士のコミュニケーションの強化を図るとともに、隊員の人間関係、言動に常に注意を払い、隊員の身上(心情)把握に努め、適時適切な相談・指導を実施することで、問題の未然防止を心掛けている。さらに、隊員一人ひとりに自発的な規則遵守意識を浸透させるとともに、部下の指導に活用できる各種資料を作成し、広く配布することで、隊員としての任務と使命を再認識させている。
なお、防衛省・自衛隊においては、近年の全国的な違反態様別の発生傾向を踏まえ、集中的な指導や教育を一体的に実施する期間を設けており、その主なものとして、4規律の維持「薬物乱用防止月間」、「自衛隊員等倫理週間」などがある。

(1)薬物事案への取組
05(平成17)年、自衛隊において隊員の違法薬物使用事案が続発した。これを重く受け止めた防衛庁(当時)は、防衛庁副長官(当時)を議長とする「薬物問題対策検討会議」を設置して問題点と再発防止策4をとりまとめ、この防止策を着実に実施していくこととした。
こうした取組にもかかわらず、その後も薬物にかかわる法令に違反した事案が継続して発生しており、平成22年度には3名の隊員が逮捕された。防衛省・自衛隊においては、平成18年度より、毎年6月を薬物乱用防止月間とし、全国の部隊などで啓発活動などを実施しているほか、近年の薬物事案の発生が若年の隊員によるものがほとんどであるという傾向を踏まえ、昨年度より、若年隊員を重点とした、1)教育の徹底、2)営舎内点検の強化、3)効果的な薬物検査体制の構築に取り組んでおり、前述の再発防止策とあわせて薬物犯罪の再発防止、根絶を図っている。

(2)自衛隊員倫理法等違反行為の防止
00(同12)年4月から施行された自衛隊員倫理法・倫理規定は、かつて公務員不祥事が相次いで発生し、厳しい社会的批判を招いたことを背景に、公務に対する国民の信頼を確保することを目的として、利害関係者の範囲を明確に定め、隊員が利害関係者から贈与や接待を受けることなど、国民の疑惑や不信を招くような行為の禁止などを規定している。
防衛省・自衛隊においては、平成17年度より毎年1月末に倫理週間を設定し、全隊員に対する教育を実施するとともに、広報や啓発活動を通じて、倫理意識の周知と浸透を図っている。しかしながら、一部の隊員による倫理法等違反行為が未だに生起しており、平成22年度には10名の隊員に対して懲戒処分等を実施した。

5 自衛隊員の自殺防止への取組
わが国では、98(平成10)年に年間自殺者数が3万人を超え、その後も高い水準で推移しており、深刻な社会問題になっている。自衛隊においても、自衛官の自殺者数は、平成16年度に94名と過去最多となったが、平成20年度は76名、平成21年度は80名、平成22年度は77名となっている。
自衛隊員の自殺は、隊員本人や残された御家族にとって不幸なことであると同時に、防衛省・自衛隊としても誠に悲しいことであり、有為な隊員を失うことはきわめて残念なことである。防衛省としては、03(同15)年7月、防衛庁長官政務官(当時)を本部長とする防衛庁自殺事故防止対策本部(当時)を設置し、自殺防止のため次のような施策を継続して行っている。
1)カウンセリング態勢の拡充(部内相談員、部内外カウンセラー、メンタルヘルス担当幹部、24時間受付の電話相談窓口)5
2)指揮官が部下隊員の不調に気づくことができるようになるための教育や、一般隊員へのメンタルヘルスに関する教育などの啓発教育の強化
3)春、夏の異動時期に合わせてメンタルヘルス強化期間を設置し、異動など環境の変化をともなう部下隊員に対する心情把握の徹底や、各種参考資料の配付、講演会の実施など

6 殉職隊員への追悼など
50(昭和25)年に警察予備隊が創設され、保安隊・警備隊を経て今日の自衛隊に至るまで、自衛隊員は、国民の期待と信頼に応えるべく日夜精励し、旺盛な責任感をもって、危険を顧みず、わが国の平和と独立を守る崇高な任務の完遂に努めてきた。その中で、任務の遂行中に、不幸にしてその職に殉じた隊員は1,800名を超えている。
防衛省・自衛隊では、殉職隊員が所属した自衛隊の各部隊において、殉職隊員への哀悼の意を表するため、葬送式を実施するとともに、殉職隊員の功績を永久に顕彰し、深甚なる敬意と哀悼の意を捧げるため、さまざまな形で追悼を行い、御遺族に対応している6
 
平成22年度自衛隊殉職者追悼式の様子
平成22年度自衛隊殉職者追悼式の様子


 
1)06(平成18)年9月に、安全保障環境および自衛隊の役割の変化、少子化・高学歴化をはじめとする社会構造の変化などを踏まえ、防衛力の人的側面については幅広く検討すべく、防衛庁長官(当時)を委員長とする「防衛力の人的側面についての抜本的改革に関する検討会」を設置、07(同19)年6月には検討結果をとりまとめ、報告書を作成した。
報告書については<http://www.mod.go.jp/j/approach/others/jinji/index.html>参照

 
2)同計画においては、女性自衛官のみならず、女性事務官などについても同様に採用・登用の拡大を図るとともに、男性職員の育児・介護にかかる施策なども検討することとしている。
男女共同参画への取組については<http://www.mod.go.jp/j/approach/others/jinji/gender/index.html>参照

 
3)次世代育成支援対策の推進については<http://www.mod.go.jp/j/approach/others/jinji/kosodate/index.html>参照

 
4)再発防止策として、1)服務指導および教育の徹底、2)入隊後における薬物検査(尿検査)の導入、3)各種相談・通報窓口の整備などの再発防止策を速やかかつ着実に実施していくこととした。なお、入隊時の薬物使用検査は、02(平成14)年から実施している。

 
5)<http://www.mod.go.jp/j/approach/others/jinji/mentalhealth/index.html>参照

 
6)自衛隊殉職者慰霊碑は、62(昭和37)年に建てられ、その後、風化による老朽化が進んだことから、80(同55)年に立て替えられた。その後、防衛庁本庁庁舎(当時)の市ヶ谷移転に伴い、98(平成10)年、自衛隊員殉職者慰霊碑や市ヶ谷に点在していた記念碑などを慰霊碑地区東方に移設し、「メモリアルゾーン」として現在の形に整理された。メモリアルゾーンでは毎年、自衛隊殉職隊員追悼式を行っている。この式は、殉職隊員の御遺族をはじめ、内閣総理大臣と防衛大臣以下の防衛省・自衛隊高級幹部のほか、歴代の防衛庁長官などが参列して営まれている。また、メモリアルゾーンにある自衛隊殉職者慰霊碑には、殉職した隊員の氏名などを記した銘板が納められている。この慰霊碑には、国防大臣などの外国要人が防衛省を訪問した際、献花が行われ、殉職隊員に対して敬意と哀悼の意が表されている。このほか、自衛隊の各駐屯地および基地において、それぞれ追悼式などを行っている。


 

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