第III部 わが国の防衛に関する諸施策 

4 防衛大学校改革

1 改革の背景と経緯
本節の冒頭で述べたとおり、近年の安全保障環境下における任務の多様化・国際化などに対応していくためには、質の高い人材の確保が必要である。特に、自衛隊が真に信頼され、内外で発展していくためには、人的基盤の充実が急務であり、その中心となるのは、自衛隊のリーダーたる幹部自衛官の獲得と育成である。
防衛大学校は、幹部自衛官となるべき者の育成を図り、その卒業生は陸・海・空各幹部候補生学校を経て、自衛隊幹部の中核となって各地で活躍している。しかしながら、少子化に伴う18歳人口の急激な減少、さらに大学進学率は年々上昇する一方で防衛大学校の応募倍率は低下傾向である。このため、いかにして質の高い学生を確保し続け、自衛隊の高等教育機関として高い規律を維持しつつ、優秀な幹部自衛官を育てていくかについては、きわめて重要な問題である。これらについて検討するため、10(平成22)年9月、防衛大臣指示により「防衛大学校改革に関する検討委員会」が設置された。
 
卒業式の様子
卒業式の様子
 
菅内閣総理大臣による訓示
菅内閣総理大臣による訓示

2 検討委員会の概要
防衛大臣指示を受け、10(同22)年10月5日の第1回目以降、「防衛大学校改革に関する検討委員会報告書」を大臣へ提出(11(同23)年6月1日)するまで9回の委員会を開催した。
検討委員会では、防衛副大臣(委員長)のもと、防衛大臣政務官(副委員長)、防衛大臣補佐官(委員長補佐)、事務次官、各幕僚長、防衛大学校長などが一同に会して、大臣から示された以下の検討項目について議論した。
1)自衛隊における防衛大学校の使命と役割の再確認
2)建学の精神に照らした自己評価
3)幹部自衛官に相応しい素地を持つ質の高い受験生を確保していくための施策
4)21世紀に自衛隊が担う役割に対応する優れた知力および体力と豊かな人間性を備えた幹部自衛官を育成するための教育訓練と研究のあり方
5)上記の課題を適切に果たし続けるための態勢のあり方

3 検討結果
このような検討を経て防衛大臣に報告した結論および改革の方向性の主なポイントは次のとおりである。
(1)新たな防衛大学校の役割
自衛隊を巡る新たな環境のもとで必要とされる幹部自衛官の資質も変化していることから、防衛大学校の教育は新たな時代の要請に応えるべく、建学以来の伝統の上に改良を行うことが必要である。
このため、防衛大学校の新たな役割を以下のように整理した。
1)「知」「徳」「体」のバランスの良い発展を目指す教育、「廉恥・真勇・礼節」の学生綱領の実践は不変
2)幅広い任務をグローバルな環境下で遂行するのに不可欠な柔軟な思考力・知的基盤のかん養
3)公開講座や講演、出版などを通じた安全保障に関する知識の社会的発信
4)防衛大学校が地域の誇りとして認識され、その理解のもと、高等教育機関・研究機関としての役割を果たしていくための地域社会との連携

(2)教育理念の明示
防衛大学校は、上記の役割を果たし、幹部自衛官となるべき人材を輩出し、わが国における防衛・安全保障分野の第一級の高等教育・研究機関として発展していく必要がある。このため「建学の精神」に立ち返りつつ、新たな時代の要請に応えていくために教育理念を次のとおりとした。
1)わが国の平和と独立を守り、国際社会の安定に寄与する自衛隊のリーダーを養成する。
2)「真の紳士淑女にして、真の武人」というように、リーダーに相応しい豊かな人間性をかん養する。「廉恥・真勇・礼節」の学生綱領をその中軸とする。
3)伸展性のある「知」・「徳」・「体」のバランスのとれた基盤的素養を養う。広い視野と科学的思考力を特に重視する。
4)国際社会の中での日本の防衛力を担う強い志と使命感を確立し、幹部自衛官として必要な基本的識能を身につける。

(3)人材確保のための施策
幹部自衛官となるべき優秀な若者を集めるため、以下の施策を実施する。
1)入試制度改革
ア AO(アドミッション・オフィス)方式による総合選抜入試を平成24年度試験から導入し、「知」のみならず「徳」「体」に優れた実績、入校意思、自衛官への任官意欲も重視した選抜を実施する。
イ 現行一般入試に加え、2月から3月にかけて実施する新型一般入試を平成24年度試験から導入し、より多くの受験生に受験機会を提供する。
ウ 平成24年度試験より、一般入試の一次試験(現在11月に実施)を可能な限り後ろ倒しして実施し、受験準備に合致させるほか、平成23年度試験より、面接を重視し、資質・入校意欲を従来以上に考慮する。
2)多様な人材の確保
さらに、理工系の高い水準の教育を実施している高等専門学校の卒業生を、一般の大学で行われているように一般教育に関しては理系の3学年相当程度に編入させる施策を、早ければ平成25年度の導入を目指し検討する。

(4)教育訓練、研究の充実
基盤教育を充実させるため、基礎学力と基礎体力の指導を強化するほか、資質人格教育を充実させる。また、防衛・安全保障に関する教育研究の中心拠点としての成果を発信する。さらに教育内容をグローバル化、国際化に対応させ、外国語教育を強化するほか、外国士官学校との交流を強化する。女子学生に配慮した訓練管理の実施など、訓練の充実・改善を図る。
さらに防衛医科大学校第1学年に対し、リーダーシップ教育として防衛大学校において約1か月間教育を行うほか、類似分野を研究している両校の研究者の協働についても更なる深化を図る。

(5)防衛大学校の運営、態勢などの改革
防衛大学校の教務・訓練などの部内を横断する機能を強化するほか、教授などの任期付採用や客員教授の任用拡大を行う。また、一般の大学生との公平の観点から、任官辞退者からの償還制度を導入するとともに、学位審査手数料を学生の負担とするほか、入学試験の手数料徴収を検討する。

 

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