第3節 国際平和協力活動への取組
今日の国際社会は、大量破壊兵器などの拡散、国際テロ、複雑で多様な地域紛争、国際犯罪といった問題に直面しており、情報通信網の発達や経済のグローバル化などにともなう各国・地域の相互依存の深まりなどにより、わが国から遠く離れた地域で発生した事態であっても、わが国にその脅威や影響が及ぶことが懸念されるようになった。
グローバルな脅威への対応は、一国のみでの解決が困難であり、また、軍事面のみならず、さまざまな分野でのアプローチが必要であることから、国際社会が一致、協力して取り組むことが重要であると認識されている。
このような状況を踏まえ、新防衛大綱では「グローバルな安全保障環境の改善」を、わが国の防衛力の役割の一つとして位置づけたところであり、防衛省・自衛隊としては、紛争・テロなどの根本原因の解決などのための政府開発援助(ODA:Official Development Assistance)を含む外交活動とも連携しつつ、国際平和協力活動に積極的に取り組むとしている。
本節では、防衛省・自衛隊における国際平和協力活動への取組について説明する。
(図表III-3-3-1参照)
参照
資料25・26・59
1 国際平和協力活動への積極的な取組
1 国際平和協力活動の本来任務化の意義
新たな安全保障環境においては、国際社会の平和と安定がわが国の平和と安全に密接に結びついているという認識を踏まえ、自衛隊が国際平和協力活動に積極的に取り組むためには、教育訓練、所要の部隊や待機態勢、輸送能力の向上といった体制整備を進めることが必要である。これらの体制整備は、従来は付随的な業務
1とされていた国際平和協力活動を本来任務
2として位置づけた上で行うことが適切であり、こうした考え方を踏まえ、07(平成19)年、国際平和協力活動は周辺事態に対応して行う活動などとともに、わが国の防衛や公共の秩序の維持といった任務と並ぶ自衛隊の本来任務と位置づけられた。
2 わが国の国際平和協力活動の変遷
湾岸戦争は、わが国による国際協力における軍事面での人的貢献の必要性について認識させられる大きな転換点となる出来事であった。湾岸戦争後の91(同3)年、わが国の船舶の航行の安全を確保するため、海上自衛隊(海自)の掃海部隊がペルシャ湾に派遣された。本派遣は、わが国船舶の航行の安全確保という趣旨に加えて、被災国の復興という平和的、人道的な目的を有する人的な国際貢献策の一つとしての意義を有していた。また、翌92(同4)年には、国際平和協力法
3が制定され、同年9月、初の自衛隊による国際連合(国連)平和維持活動(いわゆるPKO:Peacekeeping Operations)として、陸上自衛隊(陸自)の施設部隊がカンボジアに派遣された。以来、防衛省・自衛隊は、さまざまな国際平和協力業務などに参加しており、11(同23)年5月30日現在、国連東ティモール統合ミッション(UNMIT:United Nations Integrated Mission in Timor-Leste)に2名、国連ハイチ安定化ミッション(MINUSTAH:United Nations Stabilization Mission in Haiti)に約330名、国連スーダン・ミッション(UNMIS:United Nations Mission in Sudan)に2名、国連兵力引き離し監視隊(UNDOF:United Nations Disengagement Observer Force)に46名の計約380名が任務についている。
また、01(同13)年の9.11テロを受けて旧テロ対策特措法
4(同法の失効後は旧補給支援特措法
5)が制定され、海自は中断をはさみながらも、約8年にわたりインド洋において補給活動を行った。さらに、03(同15)年には旧イラク特措法
6が制定され、陸自はイラクのサマーワにおいて医療、給水、学校・道路など公共施設の復旧・整備を行い、航空自衛隊(空自)はクウェートを拠点にイラク国内への人道復興関連物資などの輸送を行った。
こうした国際平和協力活動への自衛隊の参加は、わが国を含む国際社会の平和と安全の維持に資するとともに、国連などの国際機関、諸外国の軍隊などと共に活動することにより、諸外国などに自衛隊の能力を示す機会にもなり、わが国に対する信頼向上に資するという側面も有している。
(図表III-3-3-2参照)
3 国際平和協力活動を迅速、的確行うための平素からの取組
自衛隊が国際平和協力活動に積極的に取り組むためには、引き続き、各種体制の整備を進めるなど平素からの取組が重要である。陸自は07(同19)年7月より各方面隊などから持ち回りで派遣の候補となる要員をあらかじめ指定し、派遣ニーズに迅速かつ継続的に対応できる態勢を維持している。また、08(同20)年3月には、陸自の中央即応集団の隷下に中央即応連隊を新編し、国際平和協力活動への派遣が決定された場合に速やかに先遣隊が派遣予定地に展開し、準備を行うことができる体制を整えた。
同年以来、毎年1回、国際平和協力活動派遣に関する一連の活動の訓練などを行うことにより、迅速な海外展開能力や海外における的確な任務遂行能力などの維持・向上を図っている。10(同22)年1月にハイチで発生した大地震にともなうPKO派遣において、国連の派遣要請からわずか2週間余りという短期間で派遣できたことは、このような訓練をはじめとする体制の整備の成果であったと言える。
また、09(同21)年には、わが国は、国連PKOへのより積極的な参加を目指し、国連待機制度(UNSAS:U.N. Stand-by Arrangements System)
7への登録を行った。11(同23)年6月末現在、わが国は、1)医療(防疫上の措置を含む。)、2)輸送、3)保管(備蓄を含む。)、4)通信、5)建設、6)機械器具の据付け、検査または修理、の後方支援能力を有する自衛隊の部隊、および、・軍事監視要員、・司令部要員、のポストに就く要員を提供する用意がある旨を登録している。
自衛隊は、国際平和協力活動のための装備品の改善・充実も進めている。陸自は、防弾ガラスやランフラットタイヤ
8などを装備した各種車両や、インフラの未整備な場所でも活動ができるよう大容量発電機などを装備するとともに、多様な環境下での活動を可能とするため、輸送ヘリコプター(CH-47JA)のエンジン能力向上などを推進している。また、狙撃(そげき)銃、小銃などの射撃位置を探知する装備の研究も行っている。海自は、海外でのヘリコプター運用の基盤ともなる輸送艦およびヘリコプター搭載護衛艦を装備するとともに、固定翼哨戒(しょうかい)機を海外で効果的に運用するための海上航空作戦指揮統制システムの可搬化および機動運用に関する運用研究などを推進している。空自は、多様な環境下で航空機と地上との指揮通信機能を保持するため、航空機用衛星電話などの整備や輸送機用自己防御装置の整備を推進している。これらの装備は、わが国における事態発生時などにもきわめて有効である。
また、陸自では、平素より部隊と家族および家族同士のコミュニケーションを促進して、部隊・隊員が安心して国際平和協力活動の任務に即応できる環境を構築するため、部隊と家族の交流施策も行っている。
さらに、駒門(こまかど)駐屯地(静岡県)の国際活動教育隊(中央即応集団隷下)において、国際平和協力活動へ派遣される陸自要員の育成、国際平和協力活動にかかわる訓練の支援などを行っている。加えて、10(同22)年3月、統合幕僚学校に新設された国際平和協力センターでは、平成23年度から国際平和協力活動などに関する基礎的な講習を開始するとともに、平成24年度以降には、国際平和協力活動などに関する施策および運用にかかわる企画・立案を担当する要員や国連派遣部隊の司令部で勤務する要員を養成するための専門的な教育を行っていく予定である。また、これらの教育を自衛隊員だけではなく、関係省庁職員や国際機関およびNGOなどの国際平和協力活動関係者なども受けることができるようにすることを検討している。
4 派遣部隊の福利厚生やメンタルヘルスケア
国や家族から遠く離れ、困難な勤務環境下において任務を遂行することを求められる派遣隊員が、心身の健康を維持して任務を支障なく遂行できる態勢を整えることは、非常に重要である。
このため、防衛省・自衛隊は、国際平和協力活動などで海外に派遣される隊員が安心して職務に専念できるよう、隊員と留守家族の精神的不安を緩和する各種施策を行っている。
具体的には、派遣部隊の福利厚生施策として、隊員と留守家族の絆を維持するため、テレビ電話などにより派遣隊員と家族が直接会話できる手段の確保や、隊員および留守家族間のビデオレターの交換などを行っている。また、隊員の家族に対しては、家族説明会を開催してさまざまな情報を提供するとともに、家族支援センターや家族相談室などを設置して各種相談に応じる態勢をとっている。
テレビ電話により家族と会話する派遣隊員
さらに、メンタルヘルスケアの施策も行っており、派遣前の隊員にストレスの軽減に必要な知識を与えるための講習を行うとともに、現地では、カウンセリング教育を受けた隊員を配置するなど、隊員の精神面のケアに十分配慮している。加えて、派遣部隊に医官を配置するとともに、定期的に本国からの専門的知識を有する医官などを派遣(メンタルヘルス診療支援チームなど)し、現地でのストレス対処方法や、帰国後の家族および所属部隊の隊員とのコミュニケーションにおける注意点などについて教育を行っている。また、派遣を終えて帰国した後には、臨時の健康診断、メンタルヘルスチェックを行っている。
5 いわゆる「一般法」をめぐる議論
近年、国際平和協力活動のためのいわゆる「一般法」の整備をめぐる議論が国会などの場において行われてきている。
現時点において、「一般法」の整備について、政府として具体的な作業に着手しているわけではないが、わが国が国際社会の平和と安定のため積極的な協力を行うに際し、どのような活動を行うべきかを含めさまざまな課題につき研究していく必要があると考えている。
1)自衛隊法第8章(雑則)あるいは附則に規定される業務。
2)自衛隊法第3条に定める任務。主たる任務は「わが国の防衛」であり、従たる任務は「公共の秩序の維持」、「周辺事態に対応して行う活動」および「国際平和協力活動」である。
7)国連PKOの機動的展開を可能にする目的で、94(平成6)年に国連が導入した制度。国連加盟各国が、国連PKOの軍事部門に提供可能な能力、要員数、派遣に要する期間などを予め国連に登録しておくことにより、国連PKOの展開に際して、国連から各国への派遣の打診の迅速化・円滑化を図るもの。なお、登録に基づき国連から派遣要請がある場合も、実際に派遣するか否かは、各国が個別に判断することとなる。
8)被弾などにより空気が抜けても安定走行が可能なタイヤ。