第III部 わが国の防衛に関する諸施策 

5 日中防衛交流・協力
中国は、近年の目覚しい経済発展や軍事力の近代化などにより、国際社会における存在感を増している。わが国と中国との間では、軍事力の透明性の問題や東シナ海資源開発などの懸案事項が存在するものの、「戦略的互恵関係」1を包括的に推進し、友好協力関係をさらに深めることが両国の利益につながる。また、政治情勢の影響をできる限り受けることなく防衛交流を持続的かつ安定的に継続・推進することは、日中間の相互理解と信頼関係を強化し、防衛政策の透明性の向上を図るなどの観点から、アジア太平洋地域の平和と安定にとって必要不可欠である。
日中両国は、これまでさまざまなレベルにおいて信頼関係・相互理解の増進に努めるとともに、「戦略的互恵関係」を包括的に推進するとの考えのもと、協力分野の拡大の機運が高まりつつある。09(平成21)年3月には北京で、同年11月には東京で1年に2度の日中防衛相会談が実施された。11月の会談では、海上における捜索・救難に関する共同訓練の実施、人道支援・災害救援に関する経験の共有および協力、日中防衛当局間の海上連絡メカニズムの早期確立といった、両国間の具体的な協力の実施に向けた検討・意見交換を行うことで一致し、これらの合意事項を含む「共同プレス発表」2を発出するとともに、会談後、初めての共同記者会見も実施した。また、10(同22)年10月11日、ハノイにおける北澤防衛大臣と梁光烈(りょう・こうれつ)中国国防部長との懇談により、両国が原点に立ち戻って「戦略的互恵関係」を推進していくことが重要であるとの認識で一致した。さらに、11(同23)年6月、シンガポールにおいて開催されたIISSアジア安全保障会議の際に行われた日中防衛相会談では、両国の防衛当局間で冷静に対話を進め、日中防衛交流を安定的に推進することが「戦略的互恵関係」の基盤となり、両国の信頼・友好関係の強化と防衛政策などの透明性の向上につながるとの認識で一致し、引き続き日中防衛交流を発展させることを確認した。
 
IISSアジア安全保障会議の際に行われた日中防衛相会談
IISSアジア安全保障会議の際に行われた日中防衛相会談

防衛当局者間の定期協議については、11(同23)年1月、約2年ぶりに防衛・外務当局間の第12回日中安全保障対話が開催され、双方は、両国の防衛政策などに関する意見交換を行い、海上における不測事態を防止するための連絡メカニズムの早期構築などに向けて努力することで一致したほか、日中防衛当局間のさまざまなレベル・分野における交流が日中両国の相互理解や信頼強化に重要な役割を果たしているとの認識で一致した。
また、近年の中国海軍による活動の活発化を踏まえれば、日中防衛当局間の海上連絡メカニズムを構築することが急務であり、具体的な協議の実施を中国側に対して働きかけたところ、10(同22)年7月に本件に関する日中防衛当局の第2回実務者協議が行われた。また、11(同23)年6月の日中防衛相会談においては、北澤防衛大臣より、昨今の中国海軍機などによる海自艦隊への近接飛行事案に関し再発防止を要請し、日中双方が可能な限り早期に第3回実務者協議を実施することで一致した。
部隊間交流については、07(同19)年11月から12月にかけて中国海軍駆逐艦「深(土川:土偏に川)(しんせん)」が東京に寄港し、08(同20)年6月に護衛艦「さざなみ」が中国広東省・湛江(たんこう)を訪問したほか、09(同21)年11月に中国練習艦「鄭和(ていわ)」が江田島・呉を訪問した。同年11月の日中防衛相会談では、陸自方面隊と中国人民解放軍大軍区との交流などを新たに実施することで合意しており、10(同22)年6月に済南軍区司令官を代表とする代表団が訪日した。これらの取組を通じて、日中両国は、相互の信頼関係を強化し、防衛政策の透明性の向上などに努めている。
このほか、笹川平和財団の主催により、01(同13)年から日中佐官級交流が実施されている。本事業は、防衛分野のみならず、政治、経済、社会、文化、歴史などの多種多様なアプローチを盛り込んだ充実したプログラムを組み込んでおり、日中防衛当局間の中堅幹部の信頼関係・相互理解の増進のみならず、防衛交流の裾野を広げるという大きな役割を果たしている。
今後も、さまざまなレベル・分野において、日中間の信頼関係・相互理解の増進に努めるとともに、非伝統的安全保障分野などにおける具体的な協力を積極的に推進していくことが必要である。
(図表III-3-2-5参照)
 
図表III-3-2-5 最近の日中防衛交流・協力の主要な実績


 
1)<http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_abe/cn_kr_06/china_kpress.html>参照。

 
2)<http://www.mod.go.jp/j/press/kisha/2009/11/27b.html>参照。


 

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