第III部 わが国の防衛に関する諸施策 

3 ASEAN地域フォーラム
ASEAN地域フォーラム(ARF)は、93(平成5)年のASEAN外相会議と同拡大外相会議において、17か国と欧州共同体(EC:European Community)(当時)によりアジア太平洋地域の政治・安全保障対話を行う場として創設が合意された。94(同6)年の第1回閣僚会合以来、徐々にその参加国を拡大しつつ、毎年閣僚会合が開催されており、現在では、26か国と1機関1が参加している。
ARFは、現状ではNATO、欧州安全保障協力機構(OSCE:Organization for Security and Co-operation in Europe)などの欧州においてみられるような安全保障機構ではないが、外務当局と防衛当局の双方の代表が出席する安全保障に関する各種政府間会合が開催されているという点で意義がある。
防衛省としては、ARFがアジア太平洋諸国の共同体意識を醸成し、地域の安全保障環境を安定化させる枠組となるためには、防衛当局間の信頼関係の増進が重要であると考えている。このため、ARFに継続的に参加し、わが国の政策や取組の積極的な紹介などを通じた防衛政策の透明性の向上、防衛当局間の率直な意見交換などを通じた相互理解を図るための努力を続けている。
一方、近年では、こうした取組にとどまらず、人道支援・災害救援活動、海上安全保障、平和維持・平和構築といった非伝統的安全保障分野においても、地域における共通の課題として活発に意見交換が行われるようになっている。毎年、外相級の閣僚会合のほかに、高級事務レベル会合(SOM:Senior Officials Meeting)や信頼醸成措置および予防外交に関する会期間支援グループ(IBM/PD:Inter-Sessional Support GroupSG oonn CConfidence Building Measures and Preventive Diplomacy)、ARF安全保障政策会議(ASPC:ARF Security Policy Conference)などが開催されている。また、02(同14)年の閣僚会合以降、全体会合に先立って、ARF防衛当局者会合(DOD:Defense Officials' Dialogue)などのほか、会期間会合(ISM:Inter-Sessional Meeting)が開催され、活発な議論が行われている。さらに、海上安全保障分野においては、09(同21)年3月以来、海上安全保障に関する会期間会合(ISM-MS:Inter-Sessional Meeting on Maritime Security)が開催されており、わが国は11(同23)年2月、インドネシア、ニュージーランドとともに第3回会期間会合を東京で共催した。このような場を通じて、さまざまな具体的協力やルールの策定などが模索されている。
こうした非伝統的安全保障分野においては、現在、より実際的な協力が模索され始めている。たとえば、人道支援・災害救援分野では、国際的な協力にあたって考慮すべき「一般ガイドライン」の作成に続き、より詳細な協力の手続を定めた「戦略指針」の作成が進められている。
また、09(同21)年5月には、ARFの枠組としては初めての実動演習であるARF災害救援実動演習(ARF-VDR)がフィリピンにおいて、フィリピンと米国との共催で開催された。わが国は、陸自の医療・防疫・給水部隊、海自救難飛行艇(US-2)1機および空自輸送機(C-130H)2機の合計約100名を派遣し、開催国のフィリピンに次ぐ規模の要員が参加した。
さらに、11(同23)年3月には、第2回ARF災害救援実動演習(ARF-DiREx2011)がインドネシアにおいて、わが国とインドネシアとの共催で行われた。防衛省・自衛隊は、陸・海・空自衛隊から約320名、輸送機など(C-130、KC-767)2機、ヘリ(UH-1、UH-60J)各2機、輸送艦(LST)1隻、LCAC 2隻を派遣する予定であったが、3月11日に発生した東日本大震災を受け、訓練参加予定部隊の派遣を国内の災害対応のために中止した。他方、国際社会に対し、共催国として責任をきちんと果たすというわが国政府の決意を示すため、これまで演習準備にインドネシア政府とともに携わってきた防衛省・自衛隊(約10名)、外務省および国際協力機構(JICA:Japan International Cooperation Agency)の要員が現地に留まり共催国の立場から演習に参加した。こうしたわが国の姿勢は、インドネシア政府側に高く評価されるとともに、国際社会に対して地震・津波災害における国際協力の重要性について強く訴える機会となった。
ARF災害救援実動演習は、ARFが意見交換の場から実動演習の段階にも踏み出したという点できわめて大きな意義を有するものであり、地域の実際的・具体的な安全保障協力の推進に大きな役割を果たしている。
このように、各種分野において、域内各国が具体的な協力・連携要領を議論し、一定のルールなどを策定した上で訓練・演習を行い、地域の各種協力・連携要領にフィードバックさせていくというプロセスを繰り返すことにより、地域内における災害などへの対処能力が向上するのみならず、参加各国の相互理解・信頼醸成も促進されることから、わが国としてもこうした取組をさらに進めていくことが重要である。
 
ARF-DiREx2011での共同調整所勤務
ARF-DiREx2011での共同調整所勤務


 
1)ASEAN10か国(ブルネイ、インドネシア、ラオス、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム、カンボジア(95(平成7)年から)、ミャンマー(96(同8)年から))、日本、オーストラリア、カナダ、中国、インド(96(同8)年から)、ニュージーランド、パプアニューギニア、韓国、ロシア、米国、モンゴル(98(同10)年から)、北朝鮮(00(同12)年から)、パキスタン(04(同16)年から)、東ティモール(05(同17)年から)、バングラデシュ(06(同18)年から)、スリランカ(07(同19)年から)の26か国および欧州連合(EU:European Union)。


 

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