2 沖縄を除く地域における在日米軍の駐留
防衛省は、沖縄を除く地域においても、在日米軍の抑止力を維持しつつ地元負担の軽減を図り、在日米軍の安定的な駐留を確保する施策を実施している。ここでは、米軍再編をはじめとするこのような施策が、沖縄を除く各地域においてどのように実施されているのか、その現状などについて説明する。
1 神奈川県における在日米軍施設・区域の整理など
神奈川県における在日米軍施設・区域については、地方公共団体などからの強い返還要望を踏まえ、日米間でそのあり方を協議した。この結果、横浜市内の上瀬谷(かみせや)通信施設など6施設・区域の返還に関する基本的な考え方と、「池子(いけご)住宅地区及び海軍補助施設」の横浜市域での700戸程度の米軍家族住宅などの建設について、04(平成16)年10月の日米合同委員会で合意した。その後、返還に関する基本的な考え方が合意された6施設・区域のうち2施設・区域(小柴貯油施設および富岡倉庫地区)については返還が実現した。一方、米軍家族住宅の建設については、日米間の合意から5年以上経過していることを踏まえ、建設戸数の再検討や池子住宅地区の逗子市域の一部土地の返還などについて米側へ要請し、日米間で協議を重ねた。その結果、10(同22)年9月、日米合同委員会
1において、住宅建設戸数は、当面の措置として、根岸住宅地区の移設分約400戸程度とし、また、逗子市域の一部土地の返還について引き続き検討するものの、返還までの措置として、要件が整った段階で共同使用することで合意した。
この米軍家族住宅などの建設については、1)横浜市内の残る4か所の在日米軍施設・区域の返還につながり、2)在日米海軍の当面の住宅不足を解消し、日米安保条約の目的達成のため必要不可欠なものである。このため、防衛省としては、米側および地方公共団体などとの間で調整を行いつつ、その実現に向け鋭意努力している。
(図表III-2-3-7参照)
2 ロードマップに示された米軍再編の現状など
(1)在日米陸軍司令部能力の改善
キャンプ座間(神奈川県)に所在する在日米陸軍司令部は、高い機動性と即応性を有し、かつ、統合任務が可能な司令部となるよう、07(同19)年12月に在日米陸軍司令部・第1軍団(前方)として発足し、08(同20)年9月末に改編
2された。これは、米軍全体の変革の中における米陸軍の世界的な改編を踏まえたものでもあるが、改編後の在日米陸軍司令部は、引き続き「日本国の防衛及び極東の平和と安全の維持」を中核的任務とするものである。
また、各種事態への迅速な対応のため、機動運用部隊や専門部隊を一元的に管理する陸自中央即応集団司令部を平成24年度までにキャンプ座間に移転
3し、改編された在日米陸軍司令部との連携強化を図ることとしている。
この改編にともない、相模総合補給廠(ほきゅうしょう)(神奈川県)内に戦闘指揮訓練センターその他の支援施設が米国の資金で建設される。さらに、キャンプ座間および相模総合補給廠のより効果的かつ効率的な使用のため、それぞれ一部返還などの措置が講じられることとなっており、08(同20)年6月には相模総合補給廠の一部土地(約17ha)の返還について、日米合同委員会において合意された。
(2)横田飛行場および空域
ア 共同統合運用調整所の設置
司令部間の連携向上は、統合運用体制への移行とあいまって、日米両部隊間の柔軟かつ即応性のある対応の観点からきわめて重要である。さらに、横田飛行場(東京都)に所在する在日米軍司令部は、「指針」のもとの各種メカニズム
4においても、重要な位置を占めている。これらを踏まえ、後述の空自航空総隊司令部の移転にあわせ、平成23年度末までに共同統合運用調整所
5を設置し、運用を開始する予定である。
イ 空自航空総隊司令部の移転
府中(東京都)に所在する空自航空総隊司令部は、わが国の防空のほか、弾道ミサイル防衛(BMD:Ballistic Missile Defense)における司令部機能も保持している。防空およびBMDにおいては、対処可能時間が短いため、特に日米間で必要な情報を迅速に共有する意義が大きい。そのため、平成22年度末から、米第5空軍司令部の所在する横田飛行場への空自航空総隊司令部および関連部隊の移転を開始した
6。これにより、前述の共同統合運用調整所の設置とあわせて、防空やBMDにおける情報共有をはじめとする司令部組織間の連携を強化することが可能になる。
ウ 横田空域
米軍は、横田飛行場において、首都圏西部から新潟に広がる横田空域の進入管制を行っているが、その空域を飛行する民間航空機の運航を円滑化するため、次の措置を追求することが示された。
(ア)空域通過の手続に関する情報提供プログラムを平成18年度に立ち上げ
(イ)空域の一部について、軍事上の目的に必要でないときに航空管制業務の責任を一時的に日本側当局に移管する手続を平成18年度に作成
(ウ)空域の一部について、返還空域を06(同18)年10月までに特定の上、08(同20)年9月までに航空管制業務を日本に返還
(エ)横田空域全体のあり得べき返還に必要な条件の検討
7を平成21年度に完了
これを受けて、06(同18)年9月より上記(イ)の措置が開始されるとともに、同年10月には、上記(ウ)について、1)08(同20)年9月までに日本側に返還される空域の特定、2)横田ラプコン(RAPCON:Radar Approach Control)施設への自衛隊航空管制官の併置について、日米両政府で合意に達した。
上記・の措置については、08(同20)年9月25日に羽田空港西側に隣接する部分約40%が削減され、管制業務が日本に返還された。上記1)の措置についても、07(同19)年5月から空自航空管制官の併置が開始されている。また、(エ)の検討については、10(同22)年5月に完了した。
(図表III-2-3-8参照)
エ 横田軍民共用化
横田飛行場の軍民共用化については、03(同15)年5月の日米首脳会談において、その実現の可能性について、日米両国政府共同で検討していくこととなった。これを受け、政府関係省庁(内閣官房、外務省、国土交通省、防衛庁(当時)、防衛施設庁(当時))と東京都との実務的な協議の場として「連絡会」を設置し、累次議論が行われてきた。
また、日米両国政府は、共用化により横田飛行場の軍事上の運用や安全などを損なわないとの認識のもと、06(同18)年10月以降、スタディ・グループにおいて具体的な条件や態様に関する検討を実施してきたところである
8。今後のさらなる調整や検討の結果を踏まえ、日米両国政府で協議の上、適切な決定を行うこととしている。
(3)横須賀海軍施設、厚木飛行場および岩国飛行場に関する諸施策
ア 米空母の展開
米国の太平洋艦隊のプレゼンスは、アジア太平洋地域における海上交通の安全を含む地域の平和と安定にとり、重要な役割を果たしている。米空母は、その能力の中核となる役割を果たしており、空母や艦載機の長期にわたる前方展開能力を確保するため、わが国においてその拠点を確保する必要がある。現在は、原子力空母ジョージ・ワシントンが横須賀(神奈川県)にも前方展開している。
原子力空母は、原子炉から生み出されるエネルギーによって推進することから、燃料を補給する必要がない上、航空機の運用に必要な高速航行を維持できるなど、戦闘・作戦能力に優れている。原子力空母ジョージ・ワシントンの展開により、わが国周辺に米海軍の強固なプレゼンスが引き続き維持されることは、わが国の安全と地域における平和と安全の維持に役立つものであり、かつ、日米同盟への米国の深い関与を象徴的に示すものでもある。
なお、米海軍の原子力艦の安全性に関し、米海軍は原子力空母ジョージ・ワシントンを含めたすべての原子力艦について、港に停泊中は通常、原子炉を停止させることや、また、日本において原子炉の修理や燃料交換を行うことはないことなど、その安全面での方針を守り続けることを確約している。政府としても、引き続きその安全性確保のため、万全を期する考えである。
原子力空母ジョージ・ワシントンに関しては、06(同18)年9月以降、原子力空母に関する防災・安全対策についての日米の実務者協議が継続的に行われている。また、07(同19)年からは、政府機関、横須賀市、米海軍などが参加する日米合同訓練が行われており、08(同20)年以降は原子力空母ジョージ・ワシントンも参加している。
イ 空母艦載機の移駐など
空母艦載機については、空母の横須賀入港時の拠点として、厚木飛行場(神奈川県)が現在利用されているが、厚木飛行場は市街地の中心に位置し、特に空母艦載ジェット機の離発着にともなう騒音が、長年にわたり問題となっていた。
今後、日米安保体制のもとで空母の運用を安定的に維持していくためには、こうした問題を早期に解決することが必要である。
また、岩国飛行場については、滑走路を1,000m程度沖合へ移設する滑走路移設事業終了後には、周辺地域の生活環境への影響がより少ない形で、安全な航空機の運用が可能となる。
これらを考慮し、第5空母航空団は、厚木飛行場から岩国飛行場に移駐することとした。この移駐は、F/A-18、EA-6B、E-2CとC-2機(計59機)から構成され、1)必要な施設が完成し、2)訓練空域および岩国レーダー進入管制空域の調整が行われた後、14(同26)年までに完了する。
この移駐にともない、岩国飛行場における運用の増大による影響を緩和するため、1)移駐が滑走路の沖合移設後に行われることに加え、2)岩国飛行場の海自EP-3機などの厚木移駐、3)普天間飛行場から岩国飛行場に移駐するKC-130機の海自鹿屋基地とグアムへの定期的なローテーションでの展開、4)岩国飛行場の米海兵隊CH-53Dヘリのグアム移転などの関連措置がとられる。
これらにより、岩国飛行場周辺の騒音は、住宅防音の対象となる第一種区域の面積が約1,600haから約500haに減少するなど、現状より軽減されると予測される。また、滑走路の沖合移設により、離着陸経路が海上に設定されることとなり、安全性も今以上に確保される。
空母艦載機着陸訓練については、ロードマップにおいては恒常的な空母艦載機着陸訓練施設について検討を行うための二国間の枠組を設け、恒常的な施設をできるだけ早い時期に選定することが目標とされ、また、11(同23)年6月の「2+2」では、新たな自衛隊施設のため、馬毛島が検討対象となる旨地元に説明することとしており、同施設は、大規模災害を含む各種事態に対処する際の活動を支援するとともに、通常の訓練などのために使用され、あわせて米軍の空母艦載機離発着訓練の恒久的な施設として使用されることになるとされた。なお、05(同17)年の「共同文書」においては、空母艦載機着陸訓練のための恒常的な訓練施設が特定されるまでの間、現在の暫定的な措置に従い、米国は引き続き硫黄島で空母艦載機着陸訓練を行う旨確認されている。
参照
資料43
ウ 岩国飛行場滑走路移設事業
岩国飛行場については、政府に対する岩国市などの要望を受け、同飛行場の運用や安全、騒音をめぐる問題を解決し、その安定的な使用を確保するため、滑走路を東側(沖合)へ1,000m程度移設する事業を進めてきたところであり、10(同22)年5月に新滑走路の運用が開始され、平成22年度末には事業全体の施設整備が完了したところである。本事業の結果、周辺地域の生活環境への影響がより少ない形で、安全な航空機の運用が可能となる。
エ 岩国飛行場民間航空再開
山口県や岩国市といった地元地方公共団体などが一体となって民間航空再開を要望していることを踏まえ、05(同17)年10月、米軍の運用上の所要を損なわない限りにおいて、1日4往復の民間航空機の運航を認めることについて合意された。
その後、ロードマップにおいて「将来の民間航空施設の一部が岩国飛行場に設けられる」とされ、さらに11(同23)年6月の「2+2」においては、2012年度の民間航空の再開に向けて作業することとされた。
(4)弾道ミサイル防衛(BMD)
BMDに関しては、役割・任務・能力に関する検討でも確認されたように、日米双方が、それぞれのBMD能力の向上に応じ、緊密な連携を継続することとされた。
06(同18)年6月、弾道ミサイルに関する高い探知・追尾能力を持つ新たな米軍のBMD用移動式レーダー(AN/TPY-2:いわゆる「Xバンド・レーダー」)・システムが、空自車力(しゃりき)分屯基地(青森県)に配備され、運用が開始された
9。このレーダーにより得られるデータは日米で共有され、これによりわが国に飛来するミサイルを迎撃する能力や国民保護、被害対処のための能力が向上した。
また、06(同18)年10月、米軍のペトリオットPAC-3(Patriot Advanced Capability-3)が嘉手納飛行場と嘉手納弾薬庫地区に配備されたほか、同年8月以降、順次西太平洋地域に前方展開しているイージス艦にBMD能力が付与されている。
このように米軍のミサイル防衛能力がわが国に配備されることは、弾道ミサイル攻撃に対する防御能力が向上し、在日米軍の抑止力も維持され、わが国国民の安全の確保にもつながるものである。
(5)訓練移転
訓練移転
10については、当分の間、嘉手納飛行場、三沢飛行場(青森県)および岩国飛行場の3つの在日米軍施設からの航空機が、千歳(北海道)、三沢、百里(茨城県)、小松(石川県)、築城および新田原といった自衛隊施設において、自衛隊との共同訓練に参加することとされた。これに基づき07(同19)年3月以降、米軍の嘉手納、三沢、岩国飛行場から自衛隊の千歳、三沢、百里、小松、築城、新田原基地への訓練移転を行っている。また、防衛省は、実地調査を行った上で、必要に応じて、自衛隊施設における訓練移転のためのインフラの改善を行っている。
空自小松基地へ訓練移転中の米空軍戦闘機(F-16)(右)
なお、訓練移転の実施にあたっては、空自と協力して米軍を支援するとともに、訓練期間における周辺住民の安心、安全を図るため、関係地方防衛局が現地連絡本部を設置し、関係行政機関との連絡や周辺住民への対応にあたるなど、訓練移転の円滑な実施に努めているところである。
さらに、10(同22)年5月28日の「2+2」共同発表に基づき、11(同23)年1月20日、日米合同委員会11において、航空機訓練の移転先として新たにグアムなどを追加し、従来の訓練より規模を拡大することが合意された。これにより、米軍の活動の沖縄県外への移転が拡充されることになる。また、当該合意は、三沢および岩国飛行場の航空機が、嘉手納飛行場に飛来し実施している空対地訓練も含めて対象としていることから、嘉手納飛行場への外来機の飛来減少につながると考えられる。なお、この合意の財政的手当を可能とする在日米軍駐留経費負担特別協定が同年1月21日に署名され、同年4月1日に発効した。
加えて、11(同23)年の「2+2」では、日本国内およびグアムなどの日本国外において、二国間および単独の訓練の拡大も含め訓練移転の更なる選択肢を検討することを決定した。
2)米側によれば、08(平成20)年9月末の段階で要員は約70名である。
3)09(平成21)年3月5日、陸自中央即応集団司令部庁舎などの用地の共同使用について、日米合同委員会において合意された。
4)1節2参照。
5)共同統合運用調整所は、防空およびBMDに関し、日米の司令部組織間での情報の共有や緊密な調整、相互運用性(インターオペラビリティ)の向上など、日本の防衛のための共同対処に資する機能を果たすものである。
6)平成23年度予算においては、空自航空総隊司令部庁舎などの工事、装備品などの取得といった経費として、契約ベースで約36億円、歳出ベースで約38億円を引き続き計上している。
7)この検討は、日本における空域の使用に関する民間および軍事上の将来のあり方を満たすような、関連空域の再編成や航空管制手続の変更のための選択肢を包括的に検討する一環として行われた。
8)ロードマップにおいて、本スタディ・グループによる検討は、開始から12か月以内に終了することとなっている。
9)レーダーは、その後、隣接する米軍車力通信所に移設された。
10)日米間の相互運用性(インターオペラビリティ)を向上させるとともに、在日米軍飛行場の周辺地域における訓練活動の影響を軽減することを目的として、在日米軍航空機が自衛隊施設において共同訓練を行うこと。