第III部 わが国の防衛に関する諸施策 

3 「2+2」会合(11(平成23)年6月21日)
このような政治リーダーシップのもとで、同盟深化にかかる日米協議をあらゆるレベルで行ってきた結果、11(平成23)年6月21日、日本側から北澤防衛大臣、松本外務大臣、米側からゲイツ国防長官(当時)、クリントン国務長官が出席する形でワシントンDCにおいて、07(同19)年以来4年ぶりとなる「2+2」会合を開催し、本協議プロセスの安全保障・防衛面での成果を確認した。今回の「2+2」共同発表においては、05(同17)年および07(同19)年の「2+2」共同発表において定めた共通の戦略目標の見直しおよび再確認を行い、日米間の安全保障・防衛協力を深化・拡大させることとした。あわせて、06(同18)年の「再編の実施のための日米ロードマップ」(ロードマップ)を補完し、着実な実施を確認するとともに、東日本大震災および原発事故における自衛隊と米軍との連携・協力を踏まえ、日米の多様な事態へ対処する能力強化を図ることで一致した。さらに在日米軍駐留経費負担の日米合意も確認した。これらの合意の概要は次のとおりである。
参照 資料42、45、51

1 共通の戦略目標
変化する安全保障環境に関する評価に基づき、05(同17)年および07(同19)年の日米同盟の共通の戦略目標を見直し、再確認を行った。その概要は以下のとおりである。
○日本の安全の確保、アジア太平洋地域における平和と安定の強化、多様な事態に対処する能力の向上
○北朝鮮による挑発の抑止、完全かつ検証可能な非核化の達成、拡散、弾道ミサイル、不法活動および北朝鮮による拉致問題を含む人道上の懸案に関連する問題の解決、平和的統一の支持
○豪州および韓国それぞれとの間における三か国間の安全保障および防衛協力の強化
○地域の安定および繁栄における中国の責任ある建設的な役割、グローバルな課題における協力ならびに国際的な行動規範の遵守の促進、軍事上の近代化および活動に関する開放性および透明性の向上、信頼醸成措置の強化など
○これまでの進捗を歓迎しつつ、両岸問題の対話を通じた平和的解決の促進
○アジア太平洋地域におけるロシアの建設的な関与の促進、北方領土問題の解決を通じた日露関係の完全な正常化の実現
○地域の安全保障環境を不安定化し得る軍事力の追求・獲得をしないよう促進
○日本、米国および東南アジア諸国連合(ASEAN)間の安全保障協力の強化、民主的価値および統合された市場経済の促進のためのASEANの努力の支援。
○インドの更なる地域への関与および地域的枠組への参加、日米印三か国間の対話促進
○ASEAN地域フォーラム(ARF)、拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)、アジア太平洋経済協力(APEC)および東アジア首脳会議(EAS)を含む開放的かつ多層的な地域のネットワークおよびルール作りのメカニズムを通じた効果的な協力の促進
○脆弱な国家を支援し、人間の安全保障を促進するための人道支援、ガバナンスおよび能力構築、平和維持活動ならびに開発援助の分野における日米協力の強化
○テロの防止、根絶
○必要な抑止力を維持しつつ、核兵器のない世界における平和および安全を追求、大量破壊兵器およびその運搬手段の不拡散および削減の推進など
○海賊の防止および根絶、航行の自由を守ることによる海上交通の安全および海洋における安全保障の維持
○宇宙およびサイバー空間の保護ならびにそれらへのアクセスに関する日米の協力の維持など
○災害予防および災害救援における国際的な協力の強化、民生用原子力計画における安全の促進、原子力事故に対処するための能力の向上、重要資源および原料の供給の多様化についての対話の促進
○日本を常任理事国として含む国連安全保障理事会の拡大の期待など
○中東および北アフリカにおける安定および繁栄の促進、イランの国際的義務の完全な遵守および核計画に関する交渉への復帰の確保、アフガニスタンにおける治安部隊への継続的な支援および効果的なガバナンスと開発を促進するための民生面での努力の強化、文民統治の強化および経済改革の実施のためのパキスタンの努力の支持など

2 日米同盟の安全保障および防衛協力の強化
変化する地域および世界の安全保障環境に対処するため、日本における新防衛大綱と米国における2010年の「4年ごとの米国国防政策の見直し(QDR:Quadrennial Defense Review)を踏まえ、二国間の安全保障および防衛協力の更なる向上を次の分野で追求することを決定した。

(1)抑止および緊急時の対処の強化
○計画検討の精緻化、役割・任務・能力の継続的検討、非戦闘員退避活動における二国間の協力の加速
○共同訓練・演習の拡大、施設の共同使用の更なる検討、情報共有や共同の情報収集・警戒監視・偵察(ISR)活動の拡大といった協力の促進
○SM-3ブロックIIAの共同開発事業に関し、生産および配備段階に移行する場合に備え、将来の課題を検討。この観点から、SM-3ブロックIIAの第三国への移転について、当該移転が日本の安全保障に資する場合や国際の平和および安定に資する場合であって、かつ、当該第三国がSM-3ブロックIIAのさらなる移転を防ぐための十分な政策を有しているときには、2006年6月23日の交換公文に従い認められ得るとし、武器・武器技術共同委員会(JAMTC:Joint Arms and Military Technology Commission)を将来の第三国移転に関する協議の機関に指定(1章2節5参照)
○定期的な二国間の拡大抑止協議、宇宙における安全保障に関するパートナーシップの深化、サイバー・セキュリティに関する二国間の戦略的政策協議の歓迎など
参照 1章2節5
 
「2+2」共同発表
「2+2」共同発表

(2)地域およびグローバルな場での日米同盟の協力
○共同演習および相互の後方支援を通じた人道支援・災害救援およびその他の活動での三か国間および多国間の協力の促進
○地域の人道支援・災害救援分野の後方支援の拠点を日本に設置することの重要性につき一致
○災害救援、平和維持、復興およびテロ対策を含む国際的な活動における更なる協力
○航行の自由およびシーレーン確保のための海洋安全保障および海賊対処における更なる協力
○自衛隊および米軍に関連する環境面での課題についての協力

(3)日米同盟の基盤の強化
○情報保全制度の更なる改善の重要性の強調など
○運用面での協力について、より効果的で、顕在化しつつある安全保障上の課題により適合したものとし、様々な事態により良く対応することができるよう二国間の枠組を継続的に検討、強化
○日米間のより緊密な装備・技術協力。特に、日本は国際共同開発・生産の流れに対応するために行っている検討を促進。米国はかかる日本の努力を奨励

3 在日米軍の再編の進展
現下の変化する地域の安全保障環境にかんがみ、抑止力を維持し、日米同盟の能力を強化するために、沖縄を含む日本における米軍のプレゼンスの重要性は高まっていることを強調するとともに、沖縄を含む地元への影響を軽減するとのコミットメントを再確認した。06(平成18)年のロードマップの目的の実現に向けた進展を継続していくことで合意した上で、次のような事項が示された。
(1)沖縄における再編
○普天間飛行場の代替の施設にかかる専門家検討会合の分析に基づき、位置、配置および工法の検証および確認を完了。代替の施設を、海面の埋立てを主要な工法とし、V字型に配置される2本の滑走路を有するものとすることを決定。滑走路部分は、オーバーランを含み、護岸を除いて、均一の加重支持能力を備えた、1,800mの長さを有することとする。また、環境影響評価手続および建設が著しい遅延なく完了できる限り、計画の微修正を考慮し得ることを決定。
○第三海兵機動展開部隊の要員約8,000人およびその家族約9,000人の沖縄からグアムに移転するとのコミットメントを再確認。さらに、ロードマップおよびグアム協定の規定および条件に従って移転を着実に実施するために必要な資金を確保するとのコミットメントを確認。米側は、沖縄に残留する第三海兵機動展開部隊の要員の部隊構成を引き続き検討。
○普天間飛行場の代替の施設および海兵隊の移転の完了が従前に目標時期とされていた2014年には達成されないことに留意するとともに、日米同盟の能力を維持しつつ、普天間飛行場の固定化を避けるために、2014年より後のできる限り早い時期に完了させるとのコミットメントを確認。
○嘉手納以南の施設および区域の返還の着実な実施を再確認。できるだけ早く、統合のための詳細な計画を完成し、公表することを決定。
○沖縄からグアムへの第三海兵機動展開部隊の要員およびその家族の移転は、普天間飛行場の代替の施設の完成に向けての具体的な進展にかかっていることを再確認。グアムへの移転は嘉手納以南の大部分の施設の統合および返還を実現するものであることに言及。
○ホテル・ホテル訓練区域に関する更なる措置を含む沖縄における影響の緩和のための更なる方法を引き続き探求することを決定。
○嘉手納における騒音の軽減についてのコミットメントを再確認。

(2)米陸軍司令部能力の改善
○第1軍団(前方)の発足を含めたキャンプ座間における米陸軍司令部の改編を歓迎。
○日本の2012会計年度までの陸上自衛隊中央即応集団司令部のキャンプ座間への移転についての進展を歓迎。

(3)横田飛行場
○共同統合運用調整所(BJOCC:Bilateral Joint Operations Coordination Center)が、日本の2011会計年度末までに運用を開始することに留意。
○横田空域の一部について、2008年に管制業務が日本側に返還されたことを歓迎。

(4)厚木飛行場から岩国飛行場への空母艦載機部隊の移駐
○空母艦載機の岩国飛行場への移駐に必要となる施設の整備などに関するこれまでの進展を歓迎。
○日本政府は、新たな自衛隊の施設のため、馬毛島(まげしま)が検討対象となる旨地元に説明。南西地域における防衛態勢の充実の観点から、右新たな施設は、大規模災害を含む各種事態に対処する際の活動を支援するとともに、通常の訓練などのために使用され、あわせて米軍の空母艦載機離発着訓練の恒久的な施設として使用。

(5)訓練移転
○移転先にグアムを含めることとした2011年1月の合同委員会合意を歓迎。日本国内およびグアムなどの日本国外において、二国間および単独の訓練の拡大も含め訓練移転の更なる選択肢を検討することを決定。

(6)施設の共同使用
○施設の共同使用に関する作業部会の設置を歓迎。

(7)環境
○環境に関する合意にかかる作業部会の設置を歓迎、返還前の環境調査のための米軍施設・区域への合理的な立入りに関する合意の検討を加速することを決定。

4 東日本大震災への対応における協力
震災対応における日米協力が二国間の特別な絆を証明し、同盟の深化に寄与したとの点で一致し、以下の分野における協力を強調した。この経験から学び、将来における多様な事態に対応するための能力を向上させる決意を共有した。
○「トモダチ」作戦のもとでの自衛隊と米軍との大規模な共同対処は、これまでの日米間の訓練・演習・計画の成果を実証。
○市ヶ谷、横田および仙台に設置された日米調整所を立ち上げた経験は、将来のあらゆる事態への対応モデル。
○原発事故への対応の経験は、リアルタイムの情報共有・効果的な調整・複合的な非常事態への包括的な政府全体での対応を促進するための二国間および多国間のメカニズムの重要性を示すもの。
○化学・生物・放射線・核(CBRN:Chemical,Biological,Radiological and Nuclear)防護作業部会強化の重要性を認識。
○地方公共団体による防災訓練への在日米軍の参加の有用性を確認。

5 在日米軍駐留経費負担
在日米軍駐留経費負担(HNS)に関する包括的な見直しの結果および現行特別協定の発効を歓迎し、また、駐留軍労働者の安定的な雇用維持に向け、引き続き最大限努力する旨一致した。

以上のように、今回の「2+2」は、ますます不透明・不確実になっている安全保障環境の中、日米両国が安全保障上共通の利益を有する包括的な分野において、日米同盟の深化に関する精力的な協議を実施し、一定の方向性を示したものである。今回の「2+2」共同発表における合意事項を着実に、また計画的に実現していくことが不可欠であり、それによりこれまで50年にわたって築いてきた強固な同盟関係を、今後、新たな半世紀に相応しいものに深化・発展させていくことが重要である。

 

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