第III部 わが国の防衛に関する諸施策 

4 ゲリラや特殊部隊による攻撃への対応
高度に都市化・市街化が進んでいるわが国においては、少数の人員による潜入、攻撃であっても、平和と安全に対する重大な脅威となり得る。こうした事案には、潜入した武装工作員1などによる不法行為や、わが国に対する武力攻撃の一形態であるゲリラや特殊部隊による破壊工作など、さまざまな態様がある。
参照 資料25・26

1 ゲリラや特殊部隊による攻撃への対処
(1)基本的考え方
ゲリラや特殊部隊による攻撃の態様としては、1)不正規軍の要員であるゲリラによる施設などの破壊や人員に対する襲撃や、2)正規軍である特殊部隊による破壊工作、要人暗殺、作戦中枢への急襲などがあげられる。
ゲリラや特殊部隊により、わが国に対する武力攻撃が行われる場合には、防衛出動により対処する。

(2)ゲリラや特殊部隊による攻撃に対処するための作戦
ゲリラや特殊部隊による攻撃に対処するための作戦では、速やかに情報収集態勢を確立し、これらを早期に発見して、機動性を重視しつつ即応性の高い部隊により迅速かつ柔軟に対応する。特に、沿岸部での潜入阻止のための警戒監視、重要施設の防護ならびに進入した部隊の捜索および撃破を重視する。この際、攻撃による被害を最小限にして事態を早期に収拾することが重要である。

ア ゲリラや特殊部隊の捜索・発見など
護衛艦、航空機などにより周辺海域を哨戒2し、ゲリラや特殊部隊の輸送の一手段である各種艦船や潜水艦などの早期発見と洋上での阻止に努める。また、ゲリラや特殊部隊がわが国領土内に潜入するおそれがある場合、陸自の偵察部隊などにより沿岸部での警戒監視を行う。
ゲリラや特殊部隊が領土内に潜入した場合、偵察部隊や航空部隊などによる捜索・発見を行う。
さらに、必要に応じ、重要施設などに警護のための部隊を配置し、早期に警護態勢を確立する。

イ ゲリラや特殊部隊の捕獲・撃破
ゲリラや特殊部隊を発見した場合、速やかに戦闘部隊を集めてこれを包囲した上で、捕獲または撃破する。
(図表III-1-2-4参照)
 
図表III-1-2-4 ゲリラや特殊部隊による攻撃に対処するための作戦の一例

2 武装工作員などへの対処
(1)基本的考え方
武装工作員などによる不法行為には、警察機関が第一義的に対処するが、自衛隊は、生起した事案の様相に応じて対応する。
(図表III-1-2-5参照)
 
図表III-1-2-5 武装工作員などへの対処の基本的な考え方

(2)警察との連携強化のための措置
ア 連携強化のための枠組の整備
武装工作員などへの対処にあたっては、警察機関との連携が重要である。このため、00(平成12)年、治安出動の際における自衛隊と警察との連携要領についての基本協定(54(昭和29)年に締結)を改正し、暴動鎮圧を前提とした従来の協定を、武装工作員などによる不法行為にも対処できるようにした3ほか、02(平成14)年に、陸自の師団などと全都道府県警察との間で、治安出動に関する現地協定を締結した。
さらに、04(同16)年、治安出動の際における武装工作員等事案への共同対処のための指針を警察庁と共同で作成した。

イ 警察との共同訓練
武装工作員などへの対処に際し、現地レベルでの相互の連携を一層緊密なものとするため、05(同17)年7月までに、現地協定の締結主体である師団などと全都道府県警察との間で共同図上訓練を行った。これらの共同図上訓練の成果を踏まえ、同年10月に、陸自北部方面隊と北海道警察との間で共同実動訓練が行われたのを皮切りとして、平成21年度までに全ての師団・旅団が全都道府県警察との間でそれぞれ共同実動訓練を行った。これらの共同訓練は継続して行っており、治安出動の際の連携要領について確認している。
 
警察との共同訓練において自衛隊車両に乗車する警察官
警察との共同訓練において自衛隊車両に乗車する警察官

3 核・生物・化学兵器へ対応
近年、核・生物・化学(NBC)兵器とその運搬手段およびこれらの関連資器材が、テロリストや懸念国などに拡散する危険性が強く認識されている。このような大量破壊兵器が使用された場合、大量無差別の殺傷や広範囲な地域の汚染が生じる可能性がある。95(同7)年の東京での地下鉄サリン事件4や01(同13)年の米国での炭疽(たんそ)菌入り郵便物事案5の発生は、こうした兵器が使用された例である。

(1)基本的考え方
わが国でNBC兵器が使用され、これが武力攻撃に該当する場合、防衛出動により武力攻撃の排除や被災者の救援などを行う。また、これが武力攻撃に該当しないが一般の警察力で治安を維持することができない場合、治安出動により関係機関と連携して武装勢力などの鎮圧や被災者の救援を行う。さらに、防衛出動や治安出動に該当しない場合であっても、災害派遣や国民保護等派遣などにより、陸自の化学科部隊や各自衛隊の衛生部隊を中心に被害状況に関する情報収集、除染活動、傷病者の搬送、医療活動などについて関係機関を支援する。

(2)NBC兵器への対応にかかわる防衛省・自衛隊の取組
防衛省・自衛隊では、NBC兵器による攻撃への対処能力の向上を図っている。具体的には、陸自の中央即応集団に中央特殊武器防護隊を置くとともに、化学科部隊の人的充実や、NBC偵察車、化学剤監視装置、除染車、個人用防護装備、携帯生物剤検知器、化学防護衣などの整備、NBC警報器、除染セットなどの研究開発を行ってきている。また、特殊な災害に備えて初動対処要員を指定し、約1時間で出動できる態勢を維持している。また海自および空自においても、艦船や基地などにおける防護器材の整備を行ってきている。なお、11(同23)年1月には、放射性物質を含む爆弾テロを想定した国民保護共同実動訓練が初めて実施されるなど、自治体、警察、消防といった部外関係機関との連携も含め、自衛隊として対処能力の向上に努めている。
参照 1節3
 
NBC対処訓練(放射線量の測定と除染)
NBC対処訓練(放射線量の測定と除染)

(3)核・放射線兵器に関連する物質への対処
核・放射線兵器に関連する物質は、外見上は傷害が発生しない場合であっても、被曝(ひばく)により身体にさまざまな影響が及ぶことから、その特性を踏まえた適切な防護と被曝管理が必要である。
このような物質に対処する場合、関係機関と連携しつつ、自衛隊は防護マスクや化学防護車なども活用し、放射性物質による汚染状況の測定、傷病者の搬送などを行う。

(4)生物兵器への対処
生物兵器にも使用される生物剤は、一定の潜伏期間を有し、また、初期症状だけでは原因が生物剤かどうかの判定が困難であるといった特徴がある。このため、密かに生物剤が散布された場合には、被害が発生・拡大した段階に至って初めて何らかの人為的な原因が推測されるなど、被害が拡大する前に認知することは極めて困難である。
こうした被害が発生した際の対応は、第一義的には医療機関、警察、消防が行う。自衛隊は、生物剤の検知、識別、除染活動、患者の輸送、医療活動を行う。
(図表III-1-2-6参照)
 
図表III-1-2-6 将来の生物兵器対処(イメージ図)

(5)化学兵器への対処
化学兵器にも使用される化学剤は、生物剤と異なり、一般に傷害の発生が早く、被害発生時の迅速な初動対処が極めて重要である。
化学剤に対処する場合、化学防護衣、化学防護車での対応が可能であり、陸自の化学科部隊や衛生科部隊などが、汚染地域で、化学検知器材による化学剤の検知、識別、除染活動、患者の輸送、医療活動を行う。また、自衛隊の部隊による対応に至らない事態では、自衛隊は、必要に応じ、関係機関への個人用防護装備などの貸与、化学科部隊の連絡要員の派遣などを行う。


 
1)殺傷力の強力な武器を保持し、わが国において破壊活動などの不法行為を行う者や、その協力者などをいう。

 
2)敵の奇襲を防ぐ、情報を収集するなどの目的を持って、ある特定の地域を計画的に見回ること。

 
3)防衛庁(当時)と国家公安委員会との間で締結された「治安出動の際における治安の維持に関する協定」。

 
4)通勤客で混雑する地下鉄車内にオウム真理教信者が猛毒のサリンを散布し、死者12名(オウム心理教教祖麻原彰晃こと松本智津夫に対する判決で示された死者数)などを出した事件。自衛隊は、車内、駅構内の除染、警察の鑑識支援を行った。

 
5)01(平成13)年9月以降、米国で、炭疽菌入りの郵便物が、上院議員、マスコミ関係者などに郵送された。


 

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