第II部 わが国の防衛政策の基本と新防衛大綱、新中期防など 

6 防衛力の能力発揮のための基盤
動的防衛力を構築し、その能力を十全に発揮できるようにするためには、人的・物的な基盤、地方公共団体との協力や防衛施設周辺地域との調和といった社会的基盤の充実が重要となる。新防衛大綱ではこれらについて次のような取組を重視することとしている。

1 人的資源の効果的な活用
本節1で述べたとおり、新防衛大綱は、各種の任務を実効的かつ能動的に行い得る動的防衛力の整備に向けて、真に必要な機能に資源を選択的に集中することとしている。
他方、自衛隊の人的構成については、07大綱の策定以降、部隊改編や人員削減を進める一方、任務の多様化・国際化などに対応するため、人的構成に当たって考慮すべき重点を熟練性・専門性へとシフトさせてきたほか、任期制自衛官の採用・再就職環境が厳しくなったことも考慮し、「非任期制自衛官」(一般曹候補生など)の採用拡大や、士から曹への昇任数確保などが図られ、その結果、幹部・曹の充足水準は高い一方で、士、特に任期制士が減少してきた。士は若年者が多いことから、その減少により結果として自衛隊全体として年齢構成が高齢化してきているという現状がある。
こうした中、新防衛大綱においては、自衛隊全体の人員規模および人員構成を適切に管理し、精強性を確保することとし、次のような具体的な取組を挙げている。
1) 自衛隊が遂行すべき任務や、体力、経験、技能などのバランスに留意しながら士を増勢し、幹部および准曹の構成比率を引き下げ、階級および年齢構成のあり方を見直す。
2) 人員配置の適正化の観点から、自衛官の職務を再整理し、体力要素の重要性が高い第一線部隊などには、士を中心とする若年隊員を優先的に充当するとともに、その他の職務について最適化された給与などの処遇を適用するなど、国家公務員全体の人件費削減の方向性に沿った人事施策の見直しを含む人事制度改革を実施する。
3) 民間活力の一層の有効活用などにより、自衛隊の駐屯地・基地業務などの 後方業務などについても効率化するなど、人員の一層の合理化を進め、人件費を抑制することにより、厳しい財政事情の中で有効な防衛力を確保する。
4) 1)のとおり階級および年齢構成を見直すにあたり、社会における退職自衛官の有効活用を図り、公的部門での受入れを含む再就職援護や、退職後の礼遇などに関する施策を推進し、これらと一体のものとして早期退職制度などの導入を図り、任務にあたる隊員が退職後の懸念なく安心して業務にまい進できる環境の整備を図る。あわせて、官民の協力や人的交流も積極的に進める。
同時に、新防衛大綱では、隊員の高い士気および厳正な規律の保持のため、1)社会の少子化・高学歴化と自衛隊の任務の多様化などに的確に対応し得るよう、質の高い人材の確保・育成を図り、必要な教育訓練を実施する、2)隊員の壮健性維持に資する 衛生基盤などを整備する、3)安全保障問題に関する研究・教育を推進し、知的基盤を充実・強化する、4)過酷または危険な任務の遂行に対して適切な処遇が確保されるよう、制度全般について見直しを行う、などの各種施策を推進することとしている。

2 物的基盤の充実・強化のための施策
(1)装備品などの運用基盤の充実・取得の一層の効率化
近年、装備品は高性能化にともない高価格化し、同時に装備品を維持するための経費も増加傾向にある。
新防衛大綱は、こうした中で装備品の維持整備を効率的かつ効果的に行い、可動率を高い水準で維持するなど、防衛力の運用に不可欠な装備品などの運用基盤の充実を図ることとしている。また、契約にかかる制度全般の改善や、短期集中調達・一括調達など効率的な調達方式の一層の採用を図るなど、調達価格を含むライフサイクルコストの抑制を更に徹底し、費用対効果を高めるとともに、外部監査制度の充実を進め、調達の透明性を向上させることなどを通じ、装備品取得の一層の効率化を図ることとしている。
(2)防衛生産・技術基盤の維持・育成
防衛生産・技術基盤の維持・育成のためには、防衛関連企業にとっての予見可能性を高め、その収益リスクを抑制し、中長期的な視点からの投資、研究開発、人材育成を行うことが必要である。こうした観点から、防衛生産・技術基盤について、真に国内に保持すべき重要なものを特定し、その分野の維持・育成に注力して、選択と集中の実現により安定的かつ中長期的な防衛力の維持整備を行うため、防衛生産・技術基盤に関する戦略を策定することとしている。このような戦略は、効果的かつ効率的な防衛力の維持・整備を図るための資ともなるものである。
(3)防衛装備品をめぐる国際的な環境変化に対する方策の検討
平和への貢献や国際的な協力において、自衛隊が携行する重機などの装備品の活用や被災国などへの装備品の供与を通じて、より効果的な協力ができる機会が増加している。また、国際共同開発・生産に参加することで、装備品の高性能化を実現しつつ、コストの高騰に対応することが先進諸国で主流になっている。このような大きな変化に対応するための方策について検討することとしている。
なお、新防衛大綱策定の際に発出された官房長官談話の中で、武器輸出三原則等については、国際紛争などを助長することを回避するという平和国家としての基本理念に基づくものであり、政府としては、この基本理念は引き続き堅持する、とされている。

3 防衛施設と周辺地域との調和
関係地方公共団体との緊密な協力のもと、 防衛施設の効率的な維持および整備を推進するため、当該施設の周辺地域とのより一層の調和を図るための諸施策を引き続き実施することとしている。

 

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