第II部 わが国の防衛政策の基本と新防衛大綱、新中期防など 

5 具体的な防衛力の内容
16大綱においては、自衛隊の体制が各自衛隊ごとに別個に導かれるというよりは、統合運用を基本とした事態対応から導き出されるものであるとの考え方に基づき、「防衛力の役割」の項目において、事態ごとにその果たすべき役割・対応のみならず自衛隊の体制の考え方も含めて包括的に示し、別表において自衛隊の主要な部隊編成や装備の具体的な規模を示していた。
新防衛大綱においては、「防衛力の役割」に加え、その役割を実効的に果たすための「自衛隊の態勢」および「自衛隊の体制」の考え方を独立して明記した上で、別表において自衛隊の主要な部隊編成や装備の規模を示している。以下では、新防衛大綱における自衛隊の具体的な態勢および体制について説明する。

1 自衛隊の態勢
防衛力の役割を適切に果たすためには、情報収集・警戒監視・偵察活動などの活動の適時適切な実施、事態に際しての迅速かつシームレスな対応、多様化・複雑化・重層化する安全保障問題に対応するための国際協力を一層重視して防衛力を運用するために必要な態勢をとらなければならない。そのような観点から、新防衛大綱は、各種事態などへの対応に必要な態勢を保持することとしているほか、次のとおり自衛隊が保持すべき態勢を明示している。

(1)即応態勢
待機態勢の保持、機動力の向上、練度・可動率の維持向上などを通じ、迅速かつ効果的に活動を行い得るようにする。また、基地機能の抗たん性を確保するとともに、燃料、弾薬(訓練弾を含む)を確保し、維持整備に万全を期する。

(2)統合運用態勢
迅速かつ効果的な対処に必要な情報収集態勢を保持するほか、衛星通信を含む高度な情報通信ネットワークを活用した指揮統制機能および情報共有態勢ならびにサイバー攻撃対処態勢を保持する。

(3)国際平和協力活動の態勢
多様な任務、迅速な派遣、長期の活動にも対応し得る能力、態勢などの充実を図る。

2 自衛隊の体制
(1)基本的考え方
自衛隊は、「1 自衛隊の態勢」で述べた態勢を保持しつつ、防衛力の役割を効果的に果たし得る体制を効率的に保持することとしている。その際、効果的・効率的な防衛力整備を行う観点から、各種事態への対応や国際平和協力活動などの各種の活動に活用し得る機能、非対称的な対応能力を有する機能および非代替的な機能1を優先的に整備することとし、具体的には、冷戦期から整備されてきた戦車や火砲を削減するなど冷戦型の装備・編成を縮減し、部隊の地理的配置や各自衛隊の運用を適切に見直すとともに、南西地域も含め、警戒監視、洋上哨戒、防空、弾道ミサイル対処、輸送、指揮通信などの機能を重点的に整備し、防衛態勢の充実を図ることとしている。
そして、これを裏付ける各自衛隊への予算配分について、安全保障環境の変化に応じ、前例にとらわれず、縦割りを排除し、総合的な見地から思い切った見直しを行うこととしている。
また、統合運用の推進や日米共同による対処態勢構築の推進などの観点から、陸上自衛隊の作戦基本部隊(師団・旅団)および方面隊のあり方について、指揮・管理機能の効率化にも留意しつつ、総合的に検討することとしている。
なお、本格的な侵略事態が生起する可能性は低いとの認識のもと、かつて着上陸侵攻などを想定して装備されてきた陸上自衛隊の戦車および火砲は、今後その総数を削減し、これらを装備した部隊の編成も見直していくこととなる。他方、将来にわたり、戦車や火砲などを用いなければ対処し得ないような本格的な侵略事態が生起する可能性を否定することは、わが国の防衛に万全を期す上で不適切である。このため、本格的な侵略事態への備えについて、不確実な将来情勢の変化に対応するための必要最小限の専門的知見や技能の維持に必要な範囲に限り、引き続き保持することとしている。戦車や火砲については、近年のネットワーク技術など軍事科学技術の進展を取り入れ、特殊部隊への対応や市街地における戦闘など、さまざまな事態における活用を図るほか、戦車を主体とした機動打撃力により敵の侵入を阻止・撃破する戦闘や、火砲による敵陣地への打撃を加える戦闘などに関する専門的知見や技能を、必要最小限の範囲で維持していく。

(2)体制整備に当たっての重視事項
自衛隊の体制整備に当たっての重視事項は、以下のとおりとしている。
ア 統合の強化
統合幕僚監部の機能の強化をはじめ、指揮統制、情報収集、教育訓練などの統合運用基盤を強化する。また、輸送、衛生、高射、救難、調達・補給・整備、駐屯地・基地業務など、各自衛隊に共通する横断的な機能について、整理、共同部隊2化、集約・拠点化などにより、統合の観点から効果的かつ効率的な体制を整備する。
イ 島嶼部における対応能力の強化
自衛隊配備の空白地域となっている島嶼部に、必要最小限の部隊を新たに配置するとともに、部隊が活動を行う際の拠点、機動力、輸送能力および実効的な対処能力を整備することにより、島嶼部への攻撃に対する対応や周辺海空域の安全確保に関する能力を強化する。
ウ 国際平和協力活動への対応能力の強化
各種装備品などの改修、海上および航空輸送力の整備、後方支援態勢の強化を行うほか、施設・衛生などの機能や教育訓練体制の充実を図る。
エ 情報機能の強化
各種事態の兆候を早期に察知し、情報収集・分析・共有などを適切に行うため、宇宙分野を含む技術動向などを踏まえた多様な情報収集能力や情報本部などの総合的な分析・評価能力などを強化し、情報・運用・政策の各部門を通じた情報共有体制を整備する。また、地理情報の収集能力を強化するなど、自衛隊の海外派遣部隊などの遠隔地での活動に対する情報支援を適切に行う体制を整備する。さらに、関係国との情報協力・交流の拡大・強化に取り組む。
オ 科学技術の発展への対応
高度な技術力と情報能力に支えられた防衛力を整備するため、各種の技術革新の成果を防衛力に的確に反映させる。特に、高度な指揮通信システムや情報通信ネットワークを整備することにより、確実な指揮命令と迅速な情報共有を確保するとともに、サイバー攻撃対処を統合的に実施する体制を整備する。
カ 効率的・効果的な防衛力整備
格段に厳しさを増す財政事情を勘案し、一層の効率化・合理化を図り、経費を抑制するとともに、国の他の諸施策との調和を図りつつ防衛力全体として円滑に十全な機能を果たし得るようにする。このため事業の優先順位を明確にして選択と集中を行うとともに、6の「防衛力の能力発揮のための基盤」に述べる取組を推進する。

(3)各自衛隊の体制
次のとおり各自衛隊の体制について考え方を明示するとともに、主要な編成、装備などの具体的規模を別表において示している。
ア 陸上自衛隊
陸上自衛隊は、各種の機能を有機的に連携させ、各種事態に有効に対応し得るよう、高い機動力や警戒監視能力を備え、各地に迅速に展開することが可能で、かつ国際平和協力活動などの多様な任務を効果的に遂行し得る部隊を、地域の特性に応じて適切に配置することを基本とし、自衛隊配備の空白地域となっている島嶼部の防衛についても重視するとともに、効率化・合理化を徹底することとしている。
また、航空輸送、空挺、特殊武器防護、特殊作戦、国際平和協力活動などに有効に対応できるよう、これらの専門的機能を有する中央即応集団などを引き続き保持するほか、作戦部隊や重要地域の防空を有効に行えるよう、地対空誘導弾部隊を、現在の8個部隊から1個部隊を削減し、7個部隊を保持することとし、これらの部隊には能力を向上させた地対空誘導弾を導入することとしている。
その結果、陸上自衛隊は、16大綱と比較して、
1)常備自衛官の定数を14万8千人から14万7千人、編成定数を15万5千人から15万4千人とする
2)戦車を約600両から約400両、火砲(16大綱では主要特科装備3)を約600門/両から約400門/両とする
3)地対空誘導弾部隊を8個高射特科群から7個高射特科群/連隊(6個高射特科群および1個高射特科連隊)に効率化・合理化することとしている。8個師団および6個旅団ならびに1個機甲師団という作戦基本部隊の体制は、引き続き保持することとしている。
(図表II-2-3-1・2参照)
 
図表II-2-3-1 目標とする編成定数および主要装備数量の変遷
 
図表II-2-3-2 基幹部隊の体制(新防衛大綱策定時)

イ 海上自衛隊
海上自衛隊は、平素からの情報収集・警戒監視、対潜戦などの各種作戦の効果的な遂行による周辺海域の防衛や海上交通の安全確保、国際平和協力活動などを実施し得るようにすることを主眼とすることとしている。
1)護衛艦部隊については、従来、各種事態や国際平和協力活動に即応し得る機動運用部隊(32隻)と、沿岸海域の警戒および防備を行う地域配備部隊(5警備区に3隻ずつの計15隻)を保有することとしていた。しかしながら、国際平和協力活動の増大などにより機動運用部隊の運用が逼迫している現状などを踏まえ、地域配備部隊については、警備区を越えて効率的に活動できるように体制を変更し、南西方面への警戒監視や国際平和協力活動などにおいても運用することとしている。その結果、護衛艦部隊については、護衛艦8隻からなる護衛隊群を基本単位とする4個護衛隊群(32隻)のほか、新たに護衛艦4隻からなる護衛隊を基本単位とする4個護衛隊(16隻)をそれぞれ保持することとし、護衛艦を計48隻とすることとしている。
(図表II-2-3-3参照)
 
図表II-2-3-3 地域配備部隊の体制移行

2)潜水艦部隊については、引き続き東シナ海および日本海の海上交通の要衝などに潜水艦を配備するとともに、南西方面をはじめわが国周辺における常時継続的な情報収集・警戒監視を平素から広域にわたり実施し、情報優越を確保し、各種の兆候を早期に察知できる態勢を強化するため、作戦海域と基地との地理的関係などを考慮して、22隻保有することとしている。
(図表II-2-3-4参照)
 
図表II-2-3-4 潜水艦部隊の体制

3)哨戒機部隊については、洋上における情報収集・警戒監視を平素からわが国周辺海域で広域にわたり実施するとともに、周辺海域の哨戒や海上交通の安全確保などを有効に行い得るよう、引き続き、固定翼哨戒機部隊を4個航空隊、回転翼哨戒機部隊を5個航空隊の合計9個航空隊を保有することとしている。
4)掃海部隊については、海上輸送に依存する国民生活の安全を確保するため、わが国周辺海域の掃海を有効に行い得るよう、引き続き1個掃海隊群を保有することとしている。

ウ 航空自衛隊
航空自衛隊は、周辺海空域における常時継続的な警戒監視、総合的な態勢のもとでの全般防空、重要地域の防空などを実施し得るようにすることを主眼とすることとしている。
1)周辺海空域において常時継続的に警戒監視を行う航空警戒管制部隊については、従来8個警戒群および20個警戒隊を保持してきたが、人的資源の制約に配慮しつつ、可能な限り効率的に総合的な防空態勢を強化するため、8個警戒群のうち4個を縮小して警戒隊に改編し、4個警戒群および24個警戒隊を保有することとしている4。また、地対空誘導弾部隊については、政治、経済、防衛などの重要地域の防空に当たるため、引き続き6個高射群を保有することとしている。
(図表?-2-3-5参照)
 
図表II-2-3-5 航空警戒管制部隊の体制(新防衛大綱策定時)

2)わが国の防空などを総合的な態勢で行い得るよう、引き続き、戦闘機部隊(能力の高い新戦闘機を保有する部隊を含む)を12個飛行隊、航空偵察を実施する航空偵察部隊を1個飛行隊、各種の事態において部隊を機動的に輸送し、国際平和協力活動にも積極的に取り組み得る航空輸送部隊を3個飛行隊、空中給油機能および国際平和協力活動にも利用できる輸送機能を有する空中給油・輸送部隊を1個飛行隊、それぞれ保有することとしている。
主要装備については、わが国を取り巻く安全保障環境や厳しい財政事情などを総合的に勘案し、作戦用航空機を約350機から約340機に効率化する一方、戦闘機については、約260機を維持することとしている。
(図表II-2-3-6参照)
 
図表II-2-3-6 戦闘機部隊の体制(新防衛大綱策定時)

エ 弾道ミサイル防衛にも使用し得る主要装備・基幹部隊
わが国の弾道ミサイル防衛(BMD)システムは、SM-3搭載イージス艦による上層防衛と、拠点防御のためのペトリオットPAC-3による下層防衛からなる多層防衛の考え方を採用している。
1)イージス艦については、16大綱で保持することとされた4隻体制では、定期整備や補給・休養、練成訓練などの必要性を勘案すると、常に任務に就くことのできる状態にある艦が原則として2隻となるため、常時継続的な待機態勢の維持に限界がある。また、迎撃回避能力を備えた弾道ミサイルといった将来脅威への対応を含め、弾道ミサイルの脅威からのわが国の防衛に一層万全を期すため、能力向上型の迎撃ミサイルが今後開発された場合にこれを運用することが可能な、拡張性の高いイージスBMDシステムを搭載する必要がある。
こうした状況のもと、厳しい財政事情や弾道ミサイル対処能力の早期向上の必要性などの要素も勘案し、新防衛大綱では、上記の能力向上型の迎撃ミサイルを運用することが可能な拡張性の高いイージスBMDシステムを搭載する2隻を含め、弾道ミサイル防衛機能を備えたイージス艦を計6隻保有することとしている5。なお、弾道ミサイル防衛関連技術の進展、財政事情などを踏まえ、別途定める場合には、護衛艦の総隻数の範囲内で、追加的な整備を行い得ることとしている。
2)弾道ミサイル防衛にも使用し得る航空警戒管制部隊については、ウ1)で述べた部隊改編により、7個警戒群および4個警戒隊から11個警戒群/隊とすることとしている。また、3個高射群を保持するとされていたペトリオットPAC-3についても、全国への迅速な展開を可能とするため、6個高射群全てにPAC-3を配備することとしている。この際、厳しい財政事情を踏まえ、新防衛大綱のもとで新規に整備するPAC-3は1個FU6に限定し、既存の16個FU(高射隊および教育所要分)とあわせた17個FUを全国にバランスよく配置し、できる限り効率的に体制整備を行うこととしている。
(図表II-2-3-7・8参照)
 
図表II-2-3-7 弾道ミサイル防衛の体制
 
図表II-2-3-8 防衛大綱別表の比較


 
1)これらについて、確立した定義は存在しないが、「非対称的な対応能力を有する機能」とは、たとえば相手方の水上艦艇による行動に対し隠密性の高い潜水艦によって行う警戒監視など、相手方の行動に対し効率的・効果的に優位性を保ちつつ対応しうる機能、「非代替的な機能」とは、たとえば弾道ミサイル防衛(BMD)システムなど、その機能がなければ甚大な被害を及ぼす相手方の攻撃などに対する対応能力に全く欠けてしまうような機能をいう。

 
2)統合運用による円滑な任務遂行上一体的運用を図る必要がある場合に、陸・海・空自共同のものとして置く防衛大臣直轄部隊をいう。

 
3)16大綱においては、りゅう弾砲、多連装ロケットシステムおよび地対艦誘導弾を「主要特科装備」と区分していたが、新防衛大綱では、これらのうち地対艦誘導弾を除外し、りゅう弾砲および多連装ロケットシステムを「火砲」と区分している。6大綱においては、りゅう弾砲、多連装ロケットシステムおよび地対艦誘導弾を「主要特科装備」と区分していたが、新防衛大綱では、これらのうち地対艦誘導弾を除外し、りゅう弾砲および多連装ロケットシステムを「火砲」と区分している。

 
4)警戒群を警戒隊に改編することにより定員規模は縮小するが、当該定員はレーダーサイトなどからの情報をもとに要撃管制などを行う防空指令所の強化などに充て、総合的に警戒管制機能を強化することとしている。

 
5)既存のイージス艦「あたご」および「あしがら」に拡張性の高いイージスBMDシステムなどを搭載するための改修を予定している。

 
6)Fire Unit(対空射撃部隊の最小射撃単位)。


 

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