第II部 わが国の防衛政策の基本と新防衛大綱、新中期防など 

4 防衛力の役割
本節1で述べたとおり、新防衛大綱は、今後の防衛力について、従来の「基盤的防衛力構想」によることなく、「動的防衛力」を構築するという考えのもと、「実効的な抑止及び対処」、「アジア太平洋地域の安全保障環境の一層の安定化」、「グローバルな安全保障環境の改善」という防衛力の役割を適切に果たし得るものとし、その際、平素からの関係機関との連携を確保することとしている。

1 実効的な抑止及び対処
わが国周辺においては、朝鮮半島や台湾海峡などをめぐる問題が存在すること、多数の国が軍事力を近代化し、軍事的な活動を活発化させているなど、軍事情勢が複雑さを増していることなどを踏まえ、防衛力の運用を重視した動的な抑止力を重視することとしている。このような観点から、新防衛大綱においては、わが国周辺における各国の軍事動向を把握し、各種兆候を早期に察知するため、平素からわが国およびその周辺において常時継続的な情報収集・警戒監視・偵察活動(常続監視)による情報優越を確保するとともに、各種事態の展開に応じ迅速かつシームレスに対応することとしている。
この役割に関しては、1)周辺海空域の安全確保、2)島嶼(しょ)部に対する攻撃への対応、3)サイバー攻撃への対応、4)ゲリラや特殊部隊による攻撃への対応、5)弾道ミサイル攻撃への対応、6)複合事態への対応、7)大規模・特殊災害等への対応、を重視することとされている。
16大綱と比較すると、近年の安全保障環境を踏まえ、3)の「サイバー攻撃への対応」を重視することを明確にし、また、1)から5)の事態については単独で発生するとは限らないことから、6)のように複数の事態が連続的にまたは同時に生起すること(複合事態)も想定して事態に応じ実効的な対応を行うとの考え方を新たに盛り込んでいることが特徴である。
なお、16大綱で防衛力の役割の一つとされていた「本格的な侵略事態への備え」については、「実効的な抑止及び対処」の中で、不確実な将来情勢の変化への必要最小限の備えを保持することとしている。
参照 III部1章2節

2 アジア太平洋地域の安全保障環境の一層の安定化
アジア太平洋地域では、中国、インド、ロシアの国力の増大にともなうさまざまな変化や、非伝統的安全保障分野での協力の進展がみられ、こうした動向にわが国が米国をはじめとする関係国と協力して適切に対応することが求められている。 16大綱においては、この地域における協力は「国際的な安全保障環境改善のための主体的・積極的な取組」の一部として位置づけられていたが、新防衛大綱においては、こうした状況を踏まえ、「アジア太平洋地域の安全保障環境の一層の安定化」を防衛力の役割の柱の1つと位置づけている。
具体的には、まず、「動的防衛力」の考え方のもと、わが国周辺において、常時継続的な情報収集・ 警戒監視・偵察活動や訓練・演習などの各種活動を適時・適切に実施することにより、わが国周辺の安全保障環境の安定を目指すこととしている。これは、こうした活動が、わが国周辺の環境が望ましくないものへと変化することの防止にも寄与するとの考え方に立っている。
また、アジア太平洋地域の安定化を図るため、日米同盟関係を深化させつつ、二国間・多国間の防衛協力・交流、共同訓練・演習を多層的に推進することとしている。また、非伝統的安全保障分野において、地雷・不発弾処理などを含む自衛隊が有する能力を活用し、実際的な協力を推進するとともに、域内協力枠組の構築・強化や域内諸国の能力構築支援1に取り組むこととしている。
参照 III部3章1節・2節

3 グローバルな安全保障環境の改善
国際社会では、国際テロ、貧困や統治機構の脆弱化といった複数の問題が複雑にからみ合いながら、国境を超えた安全保障問題に発展する傾向が強まっており、こうした問題に対しては、各国が協力して取り組むことが必要である。新防衛大綱は、このような認識のもと、「グローバルな安全保障環境の改善」を防衛力の役割としている。
具体的には、人道復興支援をはじめとする平和構築や停戦監視を含む国際平和協力活動に引き続き積極的に取り組み、また、国際連合などが行う軍備管理・軍縮、不拡散などの分野における諸活動や能力構築支援に積極的に関与するとともに、同盟国などと協力して、国際テロ対策、海上交通の安全確保や海洋秩序の維持のための取組などを積極的に推進することとしている。
参照 III部3章3節・4節
 
ヘリボン訓練を行う陸自部隊
ヘリボン訓練を行う陸自部隊
 
潜水艦「はくりゅう」と乗員
潜水艦「はくりゅう」と乗員
 
早期警戒機E-2C
早期警戒機E-2C


 
1)III部3章1節5参照


 

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