第II部 わが国の防衛政策の基本と新防衛大綱、新中期防など 

3 わが国の安全保障の基本方針

1 わが国自身の努力
新防衛大綱は、2の「安全保障における基本理念」に示された3つの目標を達成するための根幹となるのは自らが行う努力であるとの認識に基づき、わが国防衛の基本方針のもと、同盟国などとも連携しつつ、平素から国として総力を挙げて取り組むとともに、わが国を取り巻く安全保障課題や不安定要因に起因する様々な事態(各種事態)の発生に際しては、事態の推移に応じてシームレスに対応することとしている。
また、以下について、国として総合的かつ戦略的に取り組むこととしている。
ア 関係機関における情報収集・分析能力の向上、政府横断的な情報保全体制の強化、情報収集および情報通信機能の強化などの観点からの宇宙の開発および利用の推進、サイバー攻撃への対処態勢および対応能力の総合的な強化
イ 平素からの関係機関の連携、事態発生時における政府一体となった対応、各種事態のシミュレーションや総合的な訓練・演習の実施など政府の意思決定および対処にかかる機能・体制の検証、法的側面を含めた必要な対応についての検討
ウ 安全保障会議を含む、安全保障に関する内閣の組織・機能・体制などを検証の上、官邸に国家安全保障に関する関係閣僚間の政策調整と内閣総理大臣への助言などを行う組織を設置
エ 各種災害への対応や国民の保護のための各種体制の整備、国と地方公共団体などの緊密な連携・万全の態勢の整備
オ グローバルな安全保障環境の改善のための取組における関係機関の連携、非政府組織との連携・協力などによる国際平和協力活動などへの効率的かつ効果的な対応、国連平和維持活動の実態を踏まえたPKO参加5原則1などわが国の参加のあり方の検討
カ わが国の安全保障・防衛政策をよりわかりやすくするための努力、国際社会におけるわが国の安全保障・防衛政策への理解促進のための対外情報発信の強化
わが国の安全保障の最終的な担保である防衛力については、わが国に直接脅威が及ぶことを未然に防止し、脅威が及んだ場合にはこれを排除するという国家の意思と能力を表すものであるとの認識のもと、本節1で述べたとおり「動的防衛力」を構築することとしている。

2 同盟国との協力
新防衛大綱においては、基本的な価値を共有する超大国である米国との日米安保体制を中核とする同盟関係は、わが国の平和と安全を確保するために今後とも必要不可欠であること、また、在日米軍の軍事的プレゼンスは、地域における不測の事態の発生に対する抑止および対処力として機能しており、アジア太平洋地域の諸国に大きな安心をもたらしていること、さらには日米同盟が多国間の安全保障協力やグローバルな安全保障課題への対応をわが国が効果的に進める上でも重要であるとの認識を示している。
また、こうした意義を踏まえ、日米同盟を新たな安全保障環境にふさわしい形で深化・発展させていくとし、
1)日米間で安全保障環境の評価を行いつつ、共通の戦略目標および役割・任務・能力に関する検討を引き続き行うなど、戦略的な対話および具体的な政策調整に継続的に取り組む
2)情報協力、計画検討作業の深化、周辺事態における協力を含む各種の運用協力、弾道ミサイル防衛における協力、装備・技術協力といった従来の分野における協力や、拡大抑止の信頼性向上、情報保全のための協議を推進する
3)地域における不測の事態に対する米軍の抑止および対処力の強化を目指し、日米協力の充実を図るための措置を検討する
4)共同訓練、施設の共同使用などの平素からの各種協力の強化を図るとともに、国際平和協力活動などを通じた協力や、宇宙、サイバー空間における対応、海上交通の安全確保などの国際公共財の維持強化、さらには気候変動といった分野を含め、地域的およびグローバルな協力を推進する
としている。
さらに、こうした取組と同時に、米軍の抑止力を維持しつつ、沖縄県をはじめとする地元の負担軽減を図るため、在日米軍の兵力態勢の見直しなどについての具体的措置を着実に実施し、また、接受国支援をはじめとする在日米軍の駐留をより円滑・効果的にするための取組を積極的に推進するとしている。

3 国際社会における多層的な安全保障協力
(1)アジア太平洋地域における協力
新防衛大綱では、アジア太平洋地域において、二国間・多国間の安全保障協力を多層的に組み合わせてネットワーク化することは、日米同盟ともあいまって、同地域の安全保障環境の一層の安定化に効果的に取り組むために不可欠であるとの認識を示している。
こうした点を踏まえ、特に、韓国およびオーストラリアとは、二国間および米国を含めた多国間での協力を強化するとしている。そして、ASEAN諸国との安全保障協力を維持・強化し、また、アフリカ、中東から東アジアにいたる海上交通の安全確保などに共通の利害を有するインドをはじめとする関係各国との協力を強化するとしている。
さらに、この地域の安全保障に大きな影響力を持つ中国やロシアとの間では、信頼関係を増進するとともに、協力関係の構築・発展を図ることとしている。特に中国との間では、戦略的互恵関係構築の一環として、さまざまな分野で建設的な協力関係を強化することが極めて重要との認識のもと、中国が国際社会において責任ある行動をとるよう、同盟国などとも協力して積極的な関与を行うとしている。
多国間の安全保障協力については、ASEAN地域フォーラム(ARF)や拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)の枠組などを通じ、域内の秩序や規範、実際的な協力関係の構築に向け、適切な役割を果たすこととしている。

(2)国際社会の一員としての協力
新防衛大綱では、グローバルな安全保障環境を改善し、わが国の安全と繁栄の確保に資するよう、紛争、テロなどの根本原因の解決などのために政府開発援助(ODA)を戦略的・効果的に活用するなど外交活動を積極的に推進するとした上で、このような外交活動と一体となって、国際平和協力活動に積極的に取り組むとしている。その際には、わが国の知識や経験などを生かした支援に努めるとともに、わが国が置かれた諸条件を総合的に勘案して、戦略的に実施するものとするとしている。
また、グローバルな安全保障課題への取組に関し、欧州連合(EU)、北大西洋条約機構(NATO)や欧州諸国とも協力関係の強化を図るとともに、海洋、宇宙、サイバー空間の安定的利用といった国際公共財の維持・強化、大量破壊兵器やミサイルなどの運搬手段に関する軍縮および拡散防止のための国際的な取組に積極的な役割を果たすこととしている。このほか、大規模災害やパンデミック2に際し、人道支援・災害救援などに積極的に取り組むこと、国連改革にわが国としても積極的に取り組むこととしている。


 
1)国連平和維持隊への参加に当たっての基本方針をいう(III部3章3節2、図表III-3-3-3参照)

 
2)限られた期間にある感染症が世界的に大流行する現象をいう。


 

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