第II部 わが国の防衛政策の基本と新防衛大綱、新中期防など 

3 「平成17年度以降に係る防衛計画の大綱」(16大綱)
16大綱は、大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散の進展、国際テロ組織の活動などの新たな脅威や多様な事態への対応が課題となる中で、わが国の安全保障および防衛力のあり方について新たな指針を示す必要があるとの判断のもとで策定された。その特徴は、以下のとおりである。
1)安全保障の基本方針(2つの目標、3つのアプローチ)
防衛力のあり方の前提となる安全保障の基本方針として、1)わが国に直接脅威が及ぶことを防止し、脅威が及んだ場合にはこれを排除するとともに、その被害を最小化すること、2)国際的な安全保障環境を改善し、わが国に脅威が及ばないようにすること、の2つを安全保障の目標とするとともに、これらの2つの目標を達成するため、「わが国自身の努力」、「同盟国との協力」および「国際社会との協力」の3つのアプローチを統合的に組み合わせることとした。
2)新たな防衛力の考え方(「抑止効果」重視から「対処能力」重視へ)
16大綱では、新たな安全保障環境のもと、1)新たな脅威や多様な事態は予測困難で突発的に発生する可能性があり、従来のような抑止効果が必ずしも有効に機能しないこと、2)わが国の平和と安全を確固たるものとするためには、国際社会の平和と安定が不可欠であり、国際平和協力活動に主体的・積極的に取り組む必要があること、を踏まえ、防衛力の存在による抑止効果を重視し、わが国の防衛を中心とした基盤的防衛力構想の考え方のみに基づいて、今後の防衛力を構築することは困難になっていると判断した。
今後の防衛力については、「基盤的防衛力構想」の有効な部分1は継承しつつ、新たな脅威や多様な事態に実効的に対応できるものとするとともに、国際平和協力活動に主体的・積極的に取り組むことができるものとする必要があるとした。
また、このように防衛力の果たすべき役割が多様化する一方、少子化による若年人口の減少、格段に厳しさを増す財政事情などに配意する必要があるとした。
こうしたことを踏まえ、即応性、機動性、柔軟性および多目的性を備え、軍事技術水準の動向を踏まえた高度な技術力と情報能力のもとに、限られた資源でより多くの成果を達成するため部隊や装備などに多様な機能を持たせて弾力的な運用を行い、これによって様々な事態に実効的に対応する「多機能で弾力的な実効性のある防衛力」が必要であるとした。
なお、わが国に対する本格的な侵略事態の生起の可能性は低下しているとの判断のもと、本格的な侵略事態の備えについては、装備・要員について抜本的な見直しを行い、縮減を図ることとした。同時に、防衛力の本来の役割が本格的な侵略事態への対処であり、その整備が短期間になし得ないものであることにかんがみ、最も基盤的な部分を確保することとした。
3)その他
51大綱および07大綱においては、大綱が定める防衛力の目標水準の達成時期や、大綱そのものの見直しについて特段の定めはなかったが、16大綱においては、防衛力のあり方はおおむね10年後までを念頭に置くと明示するとともに、大綱について、策定の5年後または情勢に重要な変化が生じた場合に、検討の上必要な修正を行うこととした。2
以上のとおり、16大綱では、わが国の安全保障の基本方針を明らかにした上で、それを前提とした新たな防衛力のあり方を示し、基盤的防衛力構想の有効な部分は継承するとしつつ、「対処能力」をより重視することとしたことに大きな特徴がある。


 
1)1)軍事的脅威に直接対抗するものではないこと、2)侵略を未然に防止するため、戦略環境や地理的特性などを踏まえた防衛力を保持するという点は、引き続き有効であり継承するということ。

 
2)加えて、16大綱策定の際に発出された官房長官談話の中では、武器輸出管理に関する事項として、BMDシステムに関する案件については、日米安保体制の効果的な運用に寄与し、わが国の安全保障に資するとの観点から、共同で開発・生産を行うこととなった場合には、厳格な輸出管理を行う前提で武器輸出三原則等によらない旨言及された。
あわせて、米国との共同開発・生産案件やテロ・海賊対策支援などに資する案件については、今後、国際紛争などの助長を回避するという平和国家としての基本理念に照らし、個別の案件ごとに検討の上、結論を得ることとされた。(資料13参照)


 

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