3 対外関係
オーストラリアは、米豪同盟を重視しているほか、地域の安定を維持するため、地域諸国との間で安全保障政策における協力を強化するとしている
1。
1 米国との関係
オーストラリアは、アジア太平洋地域の戦略的安定は米国のプレゼンスに大きく依存すると認識しており、ANZUS(Security Treaty between Australia, New Zealand and the United States of America)条約
2に基づく米国との同盟関係を重視している。アフガニスタンで豪軍が活動する理由として米国との同盟関係の重要性を挙げるほか、米国のアフガニスタンおよびパキスタンに対する戦略の見直しや「4年毎の国防計画の見直し」(QDR:Quadrennial Defense Review)策定の過程に関与し協議を重ねるなど、緊密な同盟関係を維持している。外相・国防相による閣僚協議(AUSMIN:Australia United States Ministerial Consultations)を毎年実施しており、10(平成22)年11月に開催されたAUSMINでは、米豪同盟の重要性やアフガニスタンなどにおける両国共通の課題を再確認するとともに、宇宙空間の監視やサイバーセキュリティといった新たな安全保障上の課題についても、協力を強化することに合意した。また、新たに戦力態勢作業部会を設置し、アジア太平洋地域における両国の軍の態勢について、共同で議論することにも合意した
3。両国は、「タリスマン・セーバー」
4を始めとする共同訓練を実施するほか、人道支援・災害救援任務に共同で対処するためのインターオペラビリティの向上に努めている
5。オーストラリアは、米国の主導するF-35統合攻撃戦闘機(JSF:Joint Strike Fighter)計画への参加を表明しているほか、ミサイル防衛における協力
6も行うこととしている。さらに、情報・監視・偵察(ISR:Intelligence Surveillance Reconnaissance)、軍事衛星通信、情報における協力も推進している。
2 中国との関係
オーストラリアは、中国について、東アジアを越えて戦略的影響力を持ち、米中関係がアジア太平洋地域の戦略的安定に最も重要と認識している
7。経済成長に伴い国防費を増大させている中国について、十分な説明がなされなければ近隣諸国に懸念を与える可能性があり
8、透明性を求める圧力に直面しているとし
9、相互理解と利益の共通する分野における協力を増進するため、豪中防衛戦略対話を継続的に実施している
10。また、艦艇の相互訪問を実施しているほか、豪中の防衛関係を発展させるための
11交流も行われている
12。10(同22)年9月には、中国を訪問した豪海軍艦艇と中国海軍艦艇との間で、実弾射撃、ヘリコプターの運用および捜索救難訓練を含む共同演習が実施された。
3 東南アジア諸国との関係
オーストラリアは、地域におけるテロや犯罪に取組むためにも東南アジア諸国との協力を重視しており、インドネシア、シンガポール、マレーシア、フィリピン、タイ、ブルネイ、ベトナム、カンボジアおよびラオスと安全保障協力を行っている
13。
オーストラリアは、インドネシアを、隣接した地域における最も重要な防衛関係にあるとしており
14、02(同14)年と05(同17)年のバリ島での爆弾テロや04(同16)年9月のジャカルタの豪大使館前での爆弾テロの発生を受け、対テロ協力を緊密化した
15ほか、06(同18)年11月には、両国は、幅広い防衛分野における協力を謳うたった安全保障協力枠組みに関する協定を結んだ
16。また、09(同21)年1月には、対テロ、海上安全保障、情報、人道支援、災害救援、平和維持に焦点をあてた「豪インドネシア防衛協力共同宣言」に署名した。マレーシアおよびシンガポールとは、「5か国防衛取決め」(FPDA:Five Power Defence Agreement)
17の枠組で、伝統的脅威への対処能力の発展に努めるとともに、海洋安全保障、人道支援、災害救援など非伝統的な安全保障課題に主眼を置いた共同統合演習を行っている
18。
「5か国防衛取決め」の枠組で実施された共同演習「ベルサマ・パドゥ」(10(平成22〕年10月)の一場面〔豪国防省〕
4 その他の国との関係
豪州は、11(同23)年1月、英国との間で06(同18)年、08(同20)年に続き第3回目となる外相・国防相による閣僚協議(AUKMIN:Australia-United Kingdom Ministerial Dialogue)を開催した。AUKMIN 2011共同声明においては、テロ対策の観点から、両国が関与するアフガニスタンやパキスタンに対する支援を継続する必要性等を確認したほか、サイバーセキュリティに関する協力関係を進展させることに合意した。また、閣僚協議の定例化にも合意するなど、両国は伝統的な2国間関係を強化している。
1)09年「国防白書」。
2)52(昭和27)年に発効したオーストラリア・ニュージーランド・米国間の三国安全保障条約。ただし、ニュージーランドが非核政策をとっていることから、86(同61)年以来、米国は対ニュージーランド防衛義務を停止している。
3)AUSMIN2010共同声明では、・グローバルな課題としてアフガニスタン、パキスタンおよび核不拡散・軍縮問題、・21世紀の安全保障上の課題として宇宙およびサイバーセキュリティ、・世界経済および国際開発、・地域の課題および機会に関することとして東アジアサミット(EAS)等の地域的枠組、領域紛争、日本、朝鮮半島および中国、・防衛協力に関する事項として軍の態勢、ミサイル防衛、国防貿易協力条約および基地の共同使用についての方針が示されている。
4)「タリスマン・セーバー」は2年に1度行われている米豪共同訓練で、伝統的紛争から平和維持や人道支援に至る作戦分野における、即応性やインターオペラビリティの向上を目的とする。05(平成17)年に第1回を実施。09(同21)年開催時は、強襲揚陸訓練、市街戦訓練、空挺降下訓練などに、米豪合わせて24,000人以上が参加した。
5)09(平成21)年、共同訓練の価値を高めコストを削減する「統合共同訓練能力に関する了解覚書(Joint Combined Training Capability Memorandum of Understanding)」を締結した。
6)03(平成15)年12月、オーストラリアは米国のミサイル防衛計画への参加を表明し、04(同16)年のAUSMINにおいて、以後25年間にわたる「ミサイル防衛システムの開発および試験に関する覚書」が締結された(覚書の内容は非公表)。オーストラリアは、04(同16)年8月、新型防空駆逐艦の戦闘システムを米国製イージス・システムにすることを決定しており、同駆逐艦が弾道ミサイル防衛に対応可能なものとなる可能性も示唆されている。
7)09年「国防白書」。
8)09年「国防白書」では、「中国は、かなりの差をもってアジア最強の軍事力となる」、「中国の軍事力近代化のペース、範囲、構造が注意深く説明されなければ、また中国がその軍事計画について他国との信頼醸成に努めなければ、近隣に懸念の原因を与える可能性がある。近年中国はこうした説明や信頼醸成を開始したが、一層の努力を行う必要がある。そうしなければ、中国の軍事力増強計画の長期的な戦略目的について、特に軍事力近代化が台湾を巡る紛争に必要な範囲を超える可能性を持つように思われることから、近隣諸国に疑念が生じる」と指摘されている。
中国国防部は、08(平成20)年5月5日の定例記者会見において、「中国の軍事力の近代化はいかなる国にも脅威とならない。関係国は、客観的に、偏見を持たず扱うべきである」と述べている。
9)09(平成21)年3月10日フィッツギブン国防相(当時)のオーストラリア国防大学におけるスピーチ。
10)10(平成22)年12月、第13回豪中防衛戦略対話を実施。なお、同対話は08(同20)年に参謀長/国防次官レベルに格上げされている。
11)09年「国防白書」では、「中国との防衛関係を発展させることは優先課題である。さらなる関与は、中国の軍事能力とその意図について透明性を促し、相互のアプローチを理解し、利益を共有する分野でのさらなる協力を確保するために重要である」とされている。
12)04(平成16)年10月に青島において豪中間の初の海軍共同訓練として、捜索救難訓練を実施したほか、07(同19)年10月にはタスマン海においてニュージーランドも交えた3カ国の捜索救難訓練を実施した。
09(同21)年9月、豪国防軍司令官と米太平洋軍司令官が、中国に対し、3カ国による軍事演習を打診することで合意したと伝えられた。
13)04(平成16)年7月、オーストラリアとASEANの間で「国際テロと闘うための協力に関する共同宣言」が署名された。
フィリピンとは、03(同15)年3月、対テロに関する了解覚書に署名したほか、07(同19)年5月、訪問部隊に関する地位協定に署名した。また、約130人のフィリピン軍兵士がオーストラリアにおいて訓練を受けている。
ベトナムとは、二国間防衛協力計画のもと、ベトナム軍将校がオーストラリアで訓練を受けているほか、98(同10)年より、地域安全保障対話を実施している。
タイとは、02(同14)年10月、対テロに関する了解覚書を締結した。
ブルネイとは、02(同14)年2月、対テロに関する了解覚書に署名した。
14)09年「国防白書」。
15)オーストラリアとインドネシアは、02(平成14)年2月に対テロに関する了解覚書に署名したほか、07(同19)年3月、対テロに関する域内首脳会議を共同主催した。
16)安全保障協力枠組みに関する協定は「ロンボック協定」と呼ばれ、06(平成17)年11月署名、08(同20)年2月発効。テロや国境を越えた犯罪との闘い、防衛、法執行、対テロ、情報、海上および航空安全保障における協力、大量破壊兵器の拡散や緊急事態への対処などを目的としている。
17)71(昭和46)年発効。マレーシアあるいはシンガポールに対する攻撃や脅威が発生した場合、オーストラリア、ニュージーランド、英国がその対応を協議するという枠組。近年は、テロや海上安全保障などの非伝統的脅威への取組や、人道支援、災害救援に焦点が拡大されている。
18)マレーシアおよび南シナ海周辺で毎年、陸・海・空軍の合同演習「ベルサマ・シールド」を実施しているほか、06(平成18)年および10(同22)年には、「ベルサマ・パドゥ」を実施した。
マレーシアとは、02(同14)年8月、対テロに関する了解覚書に署名した。また、マレーシアのバタワース空軍基地に豪空軍が常駐しているほか、92(同4)年に策定された豪マレーシア共同防衛計画のもと、マレーシア軍がオーストラリアで訓練を受けており、毎年合同演習も実施されている。
シンガポールとは、08(同20)年8月、防衛協力に関する了解覚書に署名した。