2 安全保障・国防政策
オーストラリアは、09(平成21)年5月に、00(同12)年以来9年ぶりに「アジア太平洋の世紀におけるオーストラリアの防衛:2030年の軍」と題する国防白書
1を発表し、戦略的展望を踏まえた30(同42)年までの国防政策を示した。その中で、オーストラリアの戦略的利益として、第1に武力攻撃に対する自国防衛、第2にインドネシアやニュージーランドなどと共有する近隣地域の安全、安定や結束、第3に北アジアから東インド洋にまたがる広範なアジア太平洋地域の安定、第4に国家間の対立を抑制し、大量破壊兵器の拡散、テロリズム、脆弱国家や破綻国家、国内紛争、気候変動や資源不足による安全保障上の影響などのリスクや脅威を効果的に管理できる国際秩序の維持を挙げている。
国防政策については、自国の直接防衛および固有の戦略的利益に関して自主防衛の原則に基づくこととしているが、他国と共有する戦略的利益に合致する場合は必要に応じて、資源の範囲内で、さらなる能力を持つこととしている。このため、軍事力については、・固有の戦略的利益が危機にさらされていて、他国の軍に依存することを望まない場合に、独立して行動する、・他国と共有する戦略的利益が危機にさらされていて、進んで主導的役割を引き受ける場合に、多国籍軍を主導する、・他国とより広範な戦略的利益を共有しており、進んで負担の配分を受け入れる場合に、多国籍軍に適切な貢献をする、といった能力が必要であるとしている。
その上で、軍の任務について、1)他国に頼らず独立した軍事作戦の遂行により自国に対する武力攻撃を抑止および撃破すること、2)南太平洋および東ティモールにおける安定と安全に貢献すること、3)アジア太平洋地域における有事に際して貢献すること、4)世界の他の地域における有事に際して貢献すること、と優先順位をつけている。
こうした任務に対応するため、豪軍は特に、水中戦、対潜水艦戦、対水上戦、航空優勢、戦略打撃、特殊部隊、警戒監視、サイバー戦の分野における能力を向上させる必要があるとしている。具体的には、12隻の新型潜水艦、3隻の新型防空駆逐艦
2、約100機のF-35統合攻撃戦闘機(JSF:Joint Strike Fighter)、海上発射型対地攻撃巡航ミサイルなどを導入するとしている。また、国防費については、1)17-18(同29-30)年まで年3%、2)18-19(同30-31)年から29-30(同41-42)年まで年2.2%増加させるとしている
3。なお、11(同23)年6月、スミス国防相は、現在および将来の戦略上および安全保障上の課題に対応する豪軍の適切な地理的配置を検討するため、基地の再配置に関する検討などを含む戦力態勢見直しに着手することを明らかにした
4。
3)以上2点の原則に加えて、09-10(平成21-22)年から29-30(同41-42)年まで、国防費の増加率を物価上昇率に合わせて毎年2.5パーセント増の割合とすることが定められたが、09(同21)年5月に発表された国防予算において、その適用は13-14(同25-26)年以降へと延期された。11(同23)年5月に発表された国防予算では、前年度予算総額から約0.9パーセント減少した。豪国防省は、新規導入予定の装備品納入の遅れなどを背景に、現状に合わせた予算の効率化および再編を打ち出している。
4)同見直しは、アジア太平洋地域や環インド洋地域が、世界的にも戦略的重要性を有する地域として台頭しつつあることや、アジア太平洋地域各国の戦力投射能力の増大、オーストラリア北西部および北部の資源保護に関連する安全保障上の問題などに対処するためのものとされる。また、同見直しは、現在米国と共同で進めている米軍のグローバルな軍事態勢の見直し(GPR:Global Posture Review)の作業を補完するものであり、14(平成26)年に刊行が予定されるオーストラリアの次期国防白書に反映される予定である。