第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

5 地域内の協力
東南アジア諸国では、地域の多国間安全保障の枠組みとしてASEANの活用が図られている。アジア太平洋地域における政治・安全保障分野を対象とする対話のフォーラムであるASEAN地域フォーラム(ARF:ASEAN Regional Forum)に加え、06(平成18)年以降、ASEAN国防相会議(ADMM:ASEAN Defence Ministers’ Meeting)が年1回のペースで開催されている。また、07(同19)年の第13回ASEAN首脳会議においては、15(同27)年までのASEAN共同体設立に向け、基本原則となるASEAN憲章1が採択され、全加盟国の批准手続きの完了を受けて、08(同20)年12月に発効した。09(同21)年10月に開催された第15回ASEAN首脳会議において、域内の人権問題に関する「人権に関する政府間委員会」が正式に発足し、15(同27)年の共同体構築へ向けた動きが進んでいる。
また、ASEANは、域外国との関係拡大を重視しており、10(同22)年には米国およびロシアを含む対話国との間で首脳会議を開催したほか、同年10月、ASEAN国防相会議(ADMM)にわが国を含むASEAN域外国8か国を新たなメンバーとする拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)の第1回会議を開催する2など、引き続き域外国との関係強化に努力している3
東南アジア地域においては、テロや海賊のような国境を越える問題など安全保障上の幅広い問題へ対応するため、ASEAN以外の枠組においても多国間の協力が進展している。この地域における主な海賊対策としては、インドネシア、マレーシア、シンガポールおよびタイによる「マラッカ海峡パトロール(Malacca Strait Patrols)」が実施されている4。また、わが国が提案・主導した「アジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP:Regional Cooperation Agreement on Combating Piracy and Armed Robbery against Ships in Asia)」が06(同18)年に発効しており、海賊に関する情報共有および協力体制の構築を進めている5
 また、04(同16)年以降、マレーシア、シンガポール、英国、オーストラリア、ニュージーランドは「5か国防衛取決め(FPDA:Five Power Defence Arrangements)」の枠組で、海上阻止訓練などを内容とする共同統合演習を行っている。


 
1)内政不干渉をかかげ、コンセンサス方式をとるASEANでは、これまでミャンマーなどに対して実効性のある措置が取られてこなかったことから、その機構改革の行方が注目されていたが、ASEAN憲章では、従来どおり全会一致を原則とし、一致が得られない場合には首脳会議が意思決定の方法を決めるとした。また、重大な憲章違反や憲章不遵守があった場合に、問題を首脳会議に付託することや、人権機関を設立することなどが盛り込まれ、ASEANの組織・制度強化が図られた。

 
2)10(平成22)年5月の第4回ADMMにおいて、ADMMプラスを創設することが決定された。

 
3)10(平成22)年10月の第17回ASEAN首脳会議に合わせて開催された第5回東アジア首脳会議(EAS:East Asia Summit)において、11(同23)年からの米国およびロシアのEASへ参加が正式に決定された。

 
4)同パトロールは、「マラッカ海峡海上パトロール(Malacca Strait Sea Patrol)」(04(平成16)年、インドネシア、マレーシアおよびシンガポールの3か国がマラッカ・シンガポール海峡の海賊などの警戒のため、各国の海軍が互いに連携を取りつつ、自国領域のパトロールを開始した「調整されたパトロール(Trilateral Coordinated Patrol)」に08(同20)年タイが加わったもの)、05(同17)年に開始された航空機による共同パトロール(Eyes in the Sky)、および06(同18)年からの「情報交換グループ(Intelligence Exchange Group)」からなる。

 
5)海賊に関する情報共有体制と各国協力網の構築を通じ、海上保安機関間の協力強化を図ることを目的としている。11(平成23)年3月末現在、同協定の締約国は、バングラデシュ、ブルネイ、カンボジア、中国、デンマーク、インド、日本、韓国、ラオス、ミャンマー、オランダ、ノルウェー、フィリピン、シンガポール、スリランカ、タイ、ベトナムの17か国である。


 

前の項目に戻る     次の項目に進む