第4節 複雑で多様な地域紛争と国際社会の対応
1 国際社会の安定化のための努力
近年、世界各地で発生している地域紛争の性格は必ずしも一様ではなく、民族、宗教、領土、資源などのさまざまな問題に起因し、それぞれの地域において重層的に絡み合っているものもあり、その態様も、武力紛争から軍事的対峙の継続までさまざまである。さらに、気候変動のような地球規模の問題による影響が紛争の要因になる可能性もあるという指摘もあり
1、また、紛争にともない発生した人権侵害、難民、飢餓、貧困、テロなどが国際問題化する場合なども見られる。そのため、国際社会にとっては、このような複雑で多様な紛争の性格を見極め、それぞれの性格に応じた国際的枠組や関与のあり方を検討し、適切な対処を模索することがより重要となっている。
冷戦終結後、それまで十分に機能していなかった国連による平和維持の制度に対する期待が高まり、多くの国連平和維持活動(PKO:Peacekeeping Operations)が設立された。その任務は、停戦や軍の撤退などの監視といった伝統的な任務に加え、武装解除の監視、治安部門の改革、選挙や行政監視、難民帰還などの人道支援など、文民の活動を含む幅広い分野にわたるようになった。また、近年では、紛争に適切に対処するための方法として、欧州連合(EU:European Union)やアフリカ連合(AU:African Union)のような地域的枠組による取組や、国連安保理決議により権限を与えられ、多国籍軍が治安維持や人道復興支援などにあたる例もみられる。さらに、平和維持のみならず、紛争防止や平和構築に向けた取組も活発化している
2。
一方で、近年のPKOをめぐる環境は厳しさを増している。国連憲章第7章のもとでの強力な権限を与えられる活動も設立されるようになったが、社会基盤が整備されていない地域で活動を効果的に行う観点からも、機材の確保や要員の安全確保、部隊の能力向上などが課題となっている。国連PKO局・フィールド支援局は、09(平成21)年7月、国連PKOが直面する政策面および戦略面の主要なジレンマを評価し、関係者の間で解決策を論じるために「新たなパートナーシップ・アジェンダ:国連PKOのニュー・ホライズン計画」を作成した
3。国連はこの文書を土台にいわゆるニュー・ホライズン・プロセスと呼ばれる検討を開始し、10(同22)年10月、同プロセスの進捗状況に関する報告書を発表した。この報告書の中で、これまで規模が拡大してきたPKOが整理・統合に向かっている可能性があること
4、PKO改革の課指針の策定、任務実施に必要な能力の向上などの分野に題として、文民保護
5や平和構築など重要分野における関し、集中的に取組が行われたことなどが指摘された。
1)07(平成19)年4月、国連安保理において、気候変動が安全保障に与える影響を検証するための公開討論会が開催され、非理事国を含む55か国が参加するなど、近年、気候変動が安全保障環境に影響を与え得るとの認識が急速に共有されつつある。また、10(同22)年2月に米国防省が公表した「4年ごとの国防計画の見直し」(QDR)では、気候変動が将来の安全保障環境を形成する上で重要な要因の一つとしており、水や食糧の不足や病気の蔓延などを引き起こすことで不安定な状態や紛争を加速させうるとしている。
2)07(平成19)年10月に紛争防止を担う国連政務局の強化が提案されたほか、紛争後の平和構築のための統合戦略を助言する平和構築委員会が、06(同18)年以降本格的な活動を開始し、現在、ブルンジ、シエラレオネ、ギニアビサウ、中央アフリカ、リベリアおよびギニアの6か国を正式議題に取り上げている。
3)国連PKOの任務の多様化、拡大が進み、国連PKOがその能力の限界に達するという困難な状況に直面する中、PKOの現状分析および改善の方向性を示した。また、関係者間での継続的な協議の必要性、PKOマンデート実施の方策に関する指針および戦略構築の必要性などを指摘し、さらに、国連PKOに決定的に不足しているものとして、ヘリコプターなどの機動力、兵站輸送部隊、情報収集能力、専門化された警察、女性の要員などをあげている。
4)派遣人員数は、バルカン半島やソマリアへの大型PKO派遣が行われていた93(平成5)年以降、一時は約1万2,000人にまで減少したが、00(同12)年頃からアフリカ、中東を中心に大型ミッションが増加したことにより再び上昇に転じ、10(同22)年には展開規模が史上最高となった(同年3月末時点:15ミッションに約10万2,000人派遣)。しかし、同年12月末に国連中央アフリカ・チャド・ミッション(MINURCAT:United Nations Mission in the Central African Republic and Chad)のマンデートが終了したことなどにより減少に転じ、11(同23)年5月末現在、全世界で14のPKOが展開し、114か国、約9万9,000人が参加している。
5)近年、PKO活動における文民保護の重要性は増している。たとえば、コートジボワールにおいては、10(平成22)年11月に実施された大統領選挙の結果を受け入れず、退陣を拒否するバグボ前大統領派が、国際社会が認めた当選者であるワタラ元首相支持派や国連コートジボワール活動(UNOCI:United Nations Operation in Cote d’Ivoire)に対して攻撃を行った。これに対し、国連安保理は11(同23)年3月、決議第1975号を採択し、文民への重火器の使用阻止を含め、文民保護実施のために必要なあらゆる手段を講じるUNOCIの権限を確認した。この決議および決議第1962号に基づき、UNOCIとコートジボワール駐留仏軍は、文民への重火器の使用を阻止するため、バグボ氏側が重火器を使用している拠点に対する攻撃を実施した。その後バグボ氏はワタラ元首相派の部隊によって拘束された。