第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

2 世界各地で発生するテロの動向

イエメンでは、近年、外交団などに対する累次のテロ事件が発生してきている。また、10(平成22)年10月には、米国向けの複数の航空貨物から爆発物が発見され、これらの貨物がイエメンから発送されたものであることが判明した。こうした事件はアルカイダ関連組織が実行したものとみられており、イエメン政府による統治状況の悪化が、今後、アルカイダ関連組織による更なる攻撃の計画・実行を許す可能性があるとの指摘がある1。現在、イエメンには数百のアルカイダメンバーがいるとも指摘されており、勢力を拡大させているものとみられている2
ソマリアでは、05(同17)年に暫定連邦「政府」が樹立した後も、全土を実効的に支配する政府が存在しない状態が続き、イスラム過激派組織「アル・シャバーブ」と政府軍の戦闘が継続している。「アル・シャバーブ」の指導者は、思想的にアルカイダに共鳴してウサマ・ビン・ラーディンを賞賛する声明を発表し3、さらに10(同22)年1月にはアルカイダとの連携を表明するなど、アルカイダとの一定の関連が指摘されている。
アルジェリアでは、07(同19)年、政府や軍を標的とするテロが相次いで発生しており、「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ組織(AQIM:Al-Qaeda in the Islamic Maghreb)」4がこれらのテロに関して犯行声明を出した5。AQIMの分派は、近年、アルジェリアのみならず、サハラ以南(マリ、ニジェール、モーリタニア)においても活動しているとの指摘がある。同組織はこれまで欧米人を標的としており、08(同20)年以降、同組織によるとみられる欧米人の誘拐事件が発生している6
南アジアは、以前からテロが頻発している地域であり、インドでは、08(同20)年11月のムンバイ連続テロにおいて、日本人を含め外国人にも多数の犠牲者を出したほか、東部を中心にナクサライトと呼ばれる過激派組織が活動し、治安上の脅威となっている7。また、パキスタンにおいても、07(同19)年以降、ブット元首相の暗殺や、武装勢力などによる政府機関および軍・警察などの治安機関を標的としたテロが多発している。
東南アジアは依然として、イスラム過激派などによるテロの脅威が存在している地域であるが、テロ組織の取締りなどに一定の進捗が見られる。インドネシアでは、07(同19)年にイスラム過激派組織「ジュマ・イスラミーヤ(JI:Jemaah Islamiya)」の最高幹部であるザルカシおよびアブ・ドゥジャナが逮捕され、09(同21)年には、JIの分派組織のリーダーで、同年7月のジャカルタの外資系ホテル同時爆破テロに関与したとみられるヌルディン容疑者が射殺されるなど、テロリストに対する取締りの面で一定の成果が見られる。フィリピンでは、共産主義勢力である新人民軍(NPA:New People's Army)やイスラム過激派組織「アブ・サヤフ・グループ(ASG:Abu Sayyaf Group)」、「モロ・イスラム解放戦線(MILF:Moro Islamic Liberation Front)」などが国内治安上の最大の懸案となっており、政府はその対応に力を注いでいる。11(同23)年2月、アキノ政権は、NPAおよびMILFと和平交渉の再開に正式に合意するなど、話し合いの機運も生まれている8
(図表I-1-3-1 参照)
 
図表I-1-3-1 地域別テロ発生件数


 
1)DNI「世界脅威評価」(11(平成23)年2月)。

 
2)10(平成22)年1月3日米ABCテレビでのブレナン米大統領補佐官の発言。

 
3)米国「2009年版国別テロリスト報告書」(10(平成22)年8月)。

 
4)同組織は、「布教と戦闘のためのサラフィスト集団」として98(平成10)年に設立したアルジェリアのイスラム過激派組織だが、06(同18)年9月にアルカイダへの正式加入を表明し、その後現在の名称に変更した。

 
5)90年代にアルジェリアで活発に活動していた反政府イスラム過激派組織による活動は、現在は収束している。

 
6)米国「2009年版国別テロリスト報告書」(10(平成22)年8月)。

 
7)米国「2009年版国別テロリスト報告書」(10(平成22)年8月)。

 
8)11(平成23)年2月10日付フィリピン政府とMILFとの共同声明および同月21日付フィリピン政府とフィリピン共産党との共同声明(フィリピン政府和平問題大統領補佐官室発表)。


 

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