第3節 国際テロリズムの動向
1 全般
01(平成13)年の9.11テロは、国際テロの脅威を全世界に改めて認識させ、米国をはじめとする各国によるテロとの闘いが始まる契機となった。
テロ発生直後に開始された米英軍主導のアフガニスタン攻撃などにより、9.11テロを主導したとされるアルカイダやそれを匿ったタリバーンは、指導部の多くが殺害または拘束された。11(同23)年5月には、パキスタンに潜伏していたアルカイダの指導者ウサマ・ビン・ラーディンが、米国の作戦により殺害された。しかしながら、同人の死亡によりアルカイダによる攻撃の可能性が根絶されたわけではなく、アルカイダの残党やタリバーンが潜伏しているとみられるアフガニスタン・パキスタン国境地域などでは、米国主導の多国籍軍、アフガニスタン国軍およびパキスタン軍などによる掃討作戦が続いている
1。
アルカイダの中枢は依然として西側諸国に対する耳目を引くような攻撃を実行する意図を有しており、様々な攻撃手法を追求し、西側諸国に精通した要員のリクルートに努めているとみられている。一方、経験豊かな要員を失っていることなどから、引き続き影響力を誇示するために、より小規模で簡易的な攻撃を、以前よりも高い頻度で実施することを目指す可能性があるとの指摘もある
2。
アルカイダとその関連組織の関係については、アルカイダのかかげるイスラム過激思想が世界規模で拡散している一方、アルカイダ中枢の指揮統制力は減退しつつあるとされる。また、アルカイダ中枢の指揮統制力減退により、大規模な組織的攻撃の可能性は減少しているが、関連組織が自ら攻撃手法の巧妙化を図るなど、関連組織の活発化につながっているとの指摘もある
3。ウサマ・ビン・ラーディンの死後、アルカイダの関連組織や共鳴者による報復攻撃の可能性も指摘されている
4。
「アルカイダ」を名称の一部に取り入れた関連組織は、主に北アフリカや中東を拠点としてテロを実行している
5が、これら関連組織の戦略的目標、拠点以外の地域への関与の程度、テロを実行する能力などは、組織ごとに大きく異なっているとされる
6。
また、近年、アルカイダネットワークとの交流は一切ないものの、アルカイダの思想を受け入れる急進的な個人やグループがテロ実行主体となる例が見られる
7。特に、05(同17)年に発生したロンドン地下鉄等同時多発テロ以降、いわゆる「ホームグローン・テロリスト」
8による脅威が懸念されている。例えば、米国においては、09(同21)年5月から10(同22)年11月までの期間に、 22人の「ホームグローン・テロリスト」が起訴されたとされる
9。そのような個人を暴力に駆り立てる要因としては、共通の動機を見出すことは困難であるものの、海外の紛争地域への過激主義的な見地からの関心、米国での生活への失望感、欧米の対外政策への怒り、英語による過激主義的なプロパガンダの増加などがあると指摘されている
10。
1)オバマ米政権は、11(平成23)年6月に発表した「国家対テロ戦略」において、依然としてアルカイダおよびその関連組織や支持者が米国に対する安全保障上の顕著な脅威であるとした上で、これらの打倒が究極の目標であることを明確にし、アフガニスタン・パキスタン地域などで掃討を継続する方針を示した。
2)国家情報長官(DNI)「世界脅威評価」(11(平成23)年2月)。
3)米下院国土安全保障委員会公聴会におけるマイケル・リーター国家対テロ・センター(NCTC: National Counterterrorism Center)所長の証言(11(平成23)年2月9日)。
4)オバマ政権高官によるウサマ・ビン・ラーディン殺害に関する記者会見での発言(11(平成23)年5月2日)など。
5)米国「2009年版国別テロリスト報告書」(10(平成22)年8月)。09(同21)年1月、「イエメンのアルカイダ(AQY: Al-Qaeda in Yemen)」と「アラビア半島のアルカイダ(AQAP: Al-Qaeda in Arabian Peninsula)」を統合し、「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」とする旨の声明がウェブサイトに掲示された。
6)DNI「世界脅威評価」(11(平成23)年2月)。なお、関連組織の中でも、アラビア半島のアルカイダ(AQAP)は、10(同22)年6月、英語で記述された同組織の機関紙「インスパイア」をインターネット上で公開するなどといった、新たな手法による勧誘活動を活発化させている。
7)米上院外交委員会報告書「イエメンおよびソマリアにおけるアルカイダ」(10(平成22)年1月21日)。
8)必ずしも明確な定義はないものの、米国では、「主として米国内に居住し、外国のテロ組織が推進する目標の達成を促すために暴力行為を行うが、外国のテロ組織の指示を受けることなく行動する者」との指摘がある(米上院国土安全保障政府問題委員会におけるロバート・ミューラー FBI長官による証言(10(平成22)年9月22日)。
9)米議会調査局報告書「米国のジハーディストによるテロ:複雑な脅威との戦い」(10(平成22)年12月7日)。同報告書によると、01(同13)年9月から09(同21)年4月までの8年間における「ホームグローンテロ」は21件。
10)米上院国土安全保障政府問題委員会におけるロバート・ミューラー FBI長官による証言(10(平成22)年9月22日)。