第III部 わが国の防衛に関する諸施策 

(VOICE)音楽による絆 −海上自衛隊のピアニスト−

東京音楽隊 2等海曹 太田 紗和子(おおた さわこ)

 防衛省・自衛隊には、取得の難しい国家資格免許や民間での実務経験を持ち、即戦力となる人材を採用するための制度があります。技術海曹制度もその一つです。
 私は、かねてから講師として招かれたり演奏会に出演するなど、音楽隊とかかわってきました。その中で、音楽に対する取組や隊員の真摯(しんし)な勤務姿勢にふれていく内に、音楽隊の一員となって一緒に音楽をやっていきたいという思いが強くなり、技術海曹への志願を決意しました。そして平成20年10月、2等海曹に任命され、横須賀教育隊で自衛官としての第一歩を踏み出しました。
 入隊以前は、多くの民間演奏者と同様に、夕方から夜にかけての演奏活動を中心とした生活を送っていました。そのため、早朝から分刻みで訓練や教務が組まれている教育隊の日課は衝撃で、教育が始まった直後は満足に食事をとれないこともありました。今では、そこで培った気力や体力といった自衛官の基礎が、演奏者としての自己管理などにも役立っていると感じます。また、赤帽と呼ばれる水泳未熟者に指定され特別訓練を課される中でも、時間を見つけては隣接する横須賀音楽隊のピアノで練習したことも思い出の一つです。
 
平成21年度自衛隊音楽まつりでの演奏

 東京音楽隊に配属されてからは、民間時代に経験してきたソロや少人数のアンサンブルに加え、大編成の吹奏楽の中で演奏することも増えました。そのため、演奏者としての視野が広がりとても充実しています。その一方で、一人の2等海曹として、演奏以外の要務処理能力や部下指導力なども当然求められます。ところが、自衛官としての知識や経験が足りず、まだまだ未熟な私には、階級に見合った成果が出せないことがあり、つらく感じたり、くやしい思いをすることもあります。これは、今の私にとって大きな課題ですが、必ず克服していきます。
 音楽隊の任務の一つに広報活動があります。演奏会には毎回満席になる程多くの方々が、私たちの演奏を楽しみに来場されます。時には、心温まるお手紙を頂くこともあります。また、母校の東京藝術大学の招待に演奏用の制服で出演した時には、「初めて音楽隊の存在を知った」「制服での演奏が新鮮」などと好評で、私たちが行う広報活動の持つ意義やその効果を実感できました。このように、音楽によって国民と自衛官の心が通い合った時、そこには確かな絆が生まれていると思います。そして、この絆こそ防衛省・自衛隊にとってかけがえのないものです。このことを忘れることなく、私はこれからも努力していきます。
 
音楽まつり直前の訓練〔MAMOR〕

 

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