第II部 わが国の防衛政策の基本と防衛力整備 

(Q&A)10式戦車

Q:新戦車(10式戦車)について教えてください。

A:「『護られている。』少なくともそう信じている者にとって、それはどれほど心強いことか!どれほど武徳を発揮できることか!」これは、かのシャルル・ド・ゴールの言葉です。
 「戦場における安心感」。それを体現したのが、戦車です。戦車は、もともと第1次世界大戦時、塹壕戦(ざんごうせん)などの膠着(こうちゃく)した戦局を、主として装甲(防護力)と無限軌道(機動力)により打開する、いわば救世主的存在として登場しました。高い「防護力」と「機動力」、さらに強い「火力」。その三つをあわせ持つ圧倒的な存在感こそが、恐怖と孤独に包まれている戦場での兵士たちの安心の源となるのです。
 冷戦が終結し、いったんは戦車を保持することをやめたカナダは、アフガニスタンにおける市街地戦闘や治安維持の教訓から、作戦上の意義を見直し、改めて戦車の導入を決めました。また、シンガポールは市街地戦に有効な装備だとして戦車を導入し続けており、さらに、フランスは国連平和維持活動にも戦車を運用しています。このように、戦車のもともとの意義は現在も失われておらず、将来にわたり、無くてはならない装備であるというのが各国の共通認識です。
 翻って、10式戦車は、この「防護力」、「機動力」、「火力」に加え、高いC4I**能力をも兼ね備えています。これにより、単独でも能力の高い戦車が、さらに複数で、データ画像により状況をリアルタイムで共有しながら、より密接に連携した行動ができるようになったのです。
 また、10式戦車は、砲身も国産となったことで名実ともに国産戦車となりました。戦車は、高度で精密な技術を駆使して初めて生産できるものであり、戦車を国産できる国は、世界でも米国、ロシア、イギリス、フランス、ドイツ、イスラエルなど数えるほどしかありません。戦車は戦場での安心を象徴するだけでなく、その国の総合的な産業技術力の成果とも言えます。
 いろいろな意味で、今後も10式戦車は要注目です。

 * シャルル・ド・ゴール: フランスの陸軍軍人で第5共和政初代大統領
** C4I: 指揮・統制・通信・コンピュータ・情報を示す
 
走行する10式戦車

 

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