(イ)ロードマップにおける代替施設に関する検討の考え方
在沖米海兵隊は、航空、陸上、後方支援の部隊や司令部機能から構成されており、実際の運用において、これらの機能が相互に連携し合うことが必要である。このため、普天間飛行場に現在駐留する回転翼機が、訓練、演習など日常的に活動をともにするほかの組織の近くに位置するよう、代替施設についても、沖縄県内に設ける必要があるとされた。
このような認識のもと、05(同17)年10月の「共同文書」において「キャンプ・シュワブの海岸線の区域とこれに近接する大浦湾の水域を結ぶL字型に普天間代替施設を設置する。」との案が承認された。その後、名護市をはじめとする地元地方公共団体との協議および合意を踏まえて、ロードマップにおいて、代替施設を「辺野古(へのこ)崎とこれに隣接する大浦湾と辺野古湾の水域を結ぶ」形で設置することとされ、この代替施設の建設について、06(同18)年5月、沖縄県知事と防衛庁長官(当時)との間で「基本確認書」が取り交わされた。
参照 資料41
(ウ)普天間飛行場移設先の見直し
09(同21)年9月の政権交代にともない、在日米軍再編に関する過去の日米合意などの経緯について検証が行われることになった。特に、普天間飛行場の代替施設については、抑止力を維持しつつ、普天間飛行場周辺住民に対する危険性の除去を図り、沖縄の負担を軽減する観点から、現在に至るまで、政府全体として精力的に検討を重ねてきた。
政権交代後、政府部内においてはロードマップで示された普天間飛行場代替施設の案が決定された過程の検証が進められてきた。また、同年11月10日に開催された岡田外務大臣とルース駐日米国大使との会談において、日米両国による本検証に関するプロセスとして「普天間飛行場の代替施設に関する閣僚レベルのワーキング・グループ」
1(WG)の設置が合意された。閣僚レベルのWGは同年11月17日と12月4日に開催され、抑止力を維持しつつ沖縄をはじめとする地元の負担を軽減するという、在日米軍再編全体を貫く基本的考え方を踏まえ、日本国内における政治状況などに関する説明なども交えて検証作業に関する協議が行われた。
このWGで行われた議論を踏まえ、過去の日米合意の重みを政府としても認識する一方、ロードマップで示された代替施設案に基づいた移設の実施を強行した場合の国政などに与える影響を勘案すれば、移設の完了がさらに遠のくことが予想されたことから、本問題については政府全体としてさらに検討することとされた。
以上の経緯を踏まえ、同年12月28日には、内閣官房長官を委員長とし、与党三党の委員を構成員とする沖縄基地問題検討委員会が、基本政策閣僚委員会
2のもとに設けられた。同委員会は、普天間飛行場の移設について、ロードマップで示された代替施設案が決定された経緯に関する検証などを行うとともに、特定の前提を置かず、あらゆるオプションをゼロベースで幅広く検討するなど、精力的な議論を行った。同委員会は、10(同22)年3月8日までに8回開催されているほか、同年2月10日から11日までの間、同委員会はグアムを訪問し、現地を視察した。こうした検討を経て、同年5月28日、「2+2」共同発表において、普天間飛行場の代替の施設をキャンプ・シュワブ辺野古崎地区およびこれに隣接する水域に設置する意図を確認するとともに、さまざまな沖縄の負担軽減策について今後具体的な措置をとっていくことで米国と合意した。普天間飛行場の代替の施設の位置、配置、工法などの詳細については、同年8月末までの日米両政府の専門家による検討を経て、次回の「2+2」までに検証・確認を完了させることとなっている。
このような結論に至る検討過程では、まず、東アジアの安全保障環境に不安定性・不確実性が残る中、海兵隊を含む在日米軍の抑止力を現時点で低下させることは、安全保障上の観点からできないとの判断があり、その上で、普天間飛行場に所属する海兵隊ヘリ部隊を、沖縄所在の他の海兵隊部隊から切り離し、国外・県外に移設すれば、海兵隊の持つ機能を損なう懸念があることから、普天間飛行場の代替地は沖縄県内とせざるを得ないとの結論に至ったものである。
さらに、普天間飛行場の代替の施設をキャンプ・シュワブ辺野古崎地区およびこれに隣接する水域に設置するとの決定については、普天間飛行場の代替の施設を決めない限り、普天間飛行場が返還されることはないといった現実のもと、沖縄県民の負担軽減と危険性の除去を優先したものである。
また、「2+2」の共同発表と同じ日、「2+2」で承認された事項に関する当面の政府の取組について、閣議決定が行われた。その概要は、次のとおりである。
○ 政府としては、この共同発表に基づき、普天間飛行場の移設計画の検証・確認を進めていくこと
○ また、沖縄県に集中している基地負担を軽減し、同盟の責任をわが国全体で受け止めるとともに、日米同盟をさらに深化させるため、基地負担の沖縄県外または国外への分散および在日米軍基地の整理・縮小に引き続き取り組むこと
○ さらに、沖縄県外への訓練移転、環境面での措置、米軍と自衛隊との間の施設の共同使用などの具体的措置を速やかに実施すること
○ その際、沖縄県を始めとする関係地方公共団体などの理解を得るべく一層の努力を行うこと
を明らかにした。
今後は、政府として、沖縄県民の負担軽減と普天間飛行場の危険性の除去のために、全力を尽くしていくこととなる。
参照 資料48、
49
イ 空中給油機を運用する機能
普天間飛行場に所在する空中給油機KC-130(12機)については、ロードマップにおいてSACO最終報告と同様、岩国飛行場(山口県)に移駐することとなっている。
KC-130は、訓練および運用のため定期的にローテー
ションで海上自衛隊(海自)鹿屋(かのや)基地(鹿児島県)とグアムに展開することとなっており、海自鹿屋基地での訓練と運用について、日米間で協議中である。
ウ 緊急時に航空機を受け入れる基地機能
緊急時における航空自衛隊(空自)新田原(にゅうたばる)基地(宮崎県)と空自築城(ついき)基地(福岡県)の米軍による使用が強化される。このための施設整備は、実地調査実施の後、普天間飛行場の返還の前に必要に応じて実施される。また、役割・任務・能力に関する検討において、日米の共同訓練を拡大するとしているが、整備後の施設は、このような訓練活動のためにも活用されることを想定している。
さらに、緊急時における米軍による民間施設の使用の改善について、日米間の計画検討作業において検討されるとともに、普天間飛行場の返還を実現するための適切な措置がとられるとしている。
エ 普天間飛行場の危険性除去に向けた取組
07(同19)年8月、防衛省は、普天間飛行場の危険性の除去に向けた取組策として、1)住宅高密集度区域を極力避けるなどの離着陸経路の改善、2)クリヤーゾーン
3の拡充など、エンジントラブルの際、同飛行場の場周経路
4から安全に帰還するための施策、3)夜間に滑走路を見えやすくするための施設の改善、4)目視から自動への航空管制システムの改善などの諸施策を発表し、その着実な実施を図っているところ、09(同21)年5月、同取組策のすべてが完了した。
また、防衛省は、同取組策に記載されている場周経路などを守っていないとの普天間飛行場周辺の住民などからの指摘などを踏まえ、航空機航跡観測装置およびカメラなどを購入・設置し、10(同22)年1月、継続的なヘリコプターの飛行状況調査を開始した。
(2)兵力の削減とグアムへの移転
アジア太平洋地域における米海兵隊の能力の再編に関連し、現在沖縄に所在する第3海兵機動展開部隊
(IIIMEF:Marine Expeditionary Force)の要員はグアムに移転
5され、また、残りの在沖米海兵隊部隊は、再編される。この沖縄における再編により、IIIMEF要員約8,000名とその家族約9,000名が部隊としての一体性を維持するような方法で14(同26)年までに沖縄からグアムに移転され、沖縄に残る米海兵隊の兵力は、司令部、陸上、航空、戦闘支援および基地支援能力といった海兵空地任務部隊の要素から構成されることになっている。
グアムへの移転経費については、日米双方が応分の分担を行うとの観点から米国との協議を行い、06(同18)年4月に行われた日米防衛相会談において、移転にともなう施設・インフラ整備に係る経費について、図表III-2-4-5のとおり分担することで合意に至った。
(3)土地の返還と施設の共同使用
ア 嘉手納飛行場以南の相当規模の土地の返還
嘉手納飛行場以南の人口が集中している地域に、在日米軍施設・区域が所在しており、その合計は約1,500haである。前述の普天間飛行場の移設・返還およびグアムへのIIIMEF要員の移転に続いて、沖縄に残る施設・区域が統合され、嘉手納飛行場以南の相当規模の土地の返還が可能となる。
ロードマップでは、6つの候補施設(キャンプ桑江(くわえ)、キャンプ瑞慶覧(ずけらん)、普天間飛行場、牧港補給地区、那覇港湾施設、陸軍貯油施設第1桑江タンク・ファーム)について、統合のための詳細な計画を作成するとしており、現在、日米間で協議中である。
参照 3節3
イ SACO最終報告の着実な実施
96(同8)年のSACO最終報告は、在日米軍の能力および即応態勢を十分維持しつつ、沖縄県民に対する米軍活動の影響を軽減するものであり、その着実な実施は重要である。一方、SACOによる移設・返還計画については、ロードマップにより、再評価が必要となる可能性があるとされた。
ウ 沖縄における在日米軍施設・区域の共同使用
沖縄における自衛隊施設は、那覇基地をはじめ限られており、その大半が都市部にあるため、運用面での制約がある。沖縄にある在日米軍施設・区域の共同使用は、沖縄における自衛隊部隊の訓練環境を大きく改善するとともに、共同訓練や自衛隊と米軍間の相互運用性(インターオペラビリティ)を促進するものである。また、即応性をより向上させ、災害時における県民の安全性の確保に資することが可能となる。
このような考えのもと、キャンプ・ハンセンは、陸上自衛隊(陸自)の訓練に使用することとされ、08(同20)年3月から訓練が実施されている。また、空自は、地元への騒音の影響を考慮しつつ、米軍との共同訓練のために嘉手納飛行場を使用することとしている。
(4)再編間の関係
ロードマップにおいては、全体的な再編パッケージの中で、沖縄に関連する再編は、相互に結びついており、
特に、嘉手納飛行場以南の統合および土地の返還は、
IIIMEF要員およびその家族の沖縄からグアムへの移転に懸っている。また、沖縄からグアムへのIIIMEFの移転は、1)普天間飛行場代替施設の完成に向けた具体的な進展、2)グアムにおける所要の施設およびインフラ整備のための日本の資金的貢献に懸っているとされている。
2)09(平成21)年9月の三党連立政権合意書では、「調整が必要な政策については、三党党首クラスによる基本政策閣僚委員会において議論し、その結果を閣議に諮り、決していくことを確認をする。」とされている。
5)移転する部隊は、IIIMEFの指揮部隊、第3海兵師団司令部、第3海兵後方群(戦務支援群から改称)司令部、第1海兵航空団司令部および第12海兵連隊司令部を含む。対象となる部隊は、キャンプ・コートニー、キャンプ・ハンセン、普天間飛行場、キャンプ瑞慶覧(ずけらん)および牧港(まきみなと)補給地区といった施設から移転する。