2 国際社会における安全保障上の主な課題
核・生物・化学(NBC:Nuclear, Biological and Chemical)兵器などの大量破壊兵器およびそれらの運搬手段である弾道ミサイルなどの拡散問題が、依然として、国際社会にとっての大きな脅威となっている。特に北朝鮮による核兵器・弾道ミサイルの拡散や、イランによる核開発が懸念されるとともに、抑止が有効に機能しにくい国際テロ組織をはじめとする非国家主体による大量破壊兵器などの取得・使用や、大量破壊兵器を保有する国家の不安定化といった懸念も指摘されている。
他方で、09(平成21)年4月のオバマ大統領によるプラハでの演説などを契機として、核兵器のない世界を目指す機運の高まりが見られており、10(同22)年4月の米露間の第1次戦略兵器削減条約(STARTI:Strategic Arms Reduction Treaty I)後継条約の署名、同月の核セキュリティ・サミット、同年5月の核兵器不拡散条約(NPT:Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons)運用検討会議といった各種の機会を通じて、核不拡散・核軍縮に向けた国際社会による取組が進められてきている。
各地に分散した国際テロ組織の分子およびそのイデオロギーに共鳴した地域のテロ組織や個人がテロ活動を行う傾向が継続し、引き続き安全保障上の脅威となっている。こうした国際テロ組織などは、アフガニスタンやイエメンなどといった統治能力の脆弱な国家を活動や訓練の拠点として利用しているとの指摘も見られる。また、東南アジア、南アジア、中東、アフリカなどにおいては、依然としてテロが発生している。
軍事科学技術の一層の進展や近年の情報通信技術(ICT:Information and Communications Technology)の著しい進展などを反映して、宇宙空間やサイバー空間といった従来の地理的な視点では捉えきれない領域における活動が、安全保障上の問題とみなされるようになっている。情報通信ネットワークに対するサイバー攻撃は人々の生活に深刻な影響をもたらしうるものであり、サイバー戦への取組については、諸外国の軍隊のネットワークに対するサイバー攻撃の事例などを念頭に置きつつ、各国において、国防組織の改編なども含めた具体的な取組が進められている。
背景や態様が複雑で多様な地域紛争が世界各地に依然として存在しており、中東やアフリカ地域を中心として、国際連合(国連)平和維持活動(PKO:Peacekeeping Operations)や地域的枠組、多国籍軍による紛争の対処・解決の努力が活発に行われている。一方、主権国家間のエネルギー資源の獲得競争や気候変動の問題が今後一層顕在化し、地域紛争の原因となることにより、世界の安全保障環境に影響を与える新たな要因となる可能性があると指摘されている。
従来、国際的な物流を支える基礎として重視されてきた海上交通の安全確保についても、最近の海賊行為の多発を受けて、ますます重要となっており、ソマリア沖やアデン湾における海賊対処のため各国が艦艇や航空機を派遣するなど、国際社会の取組が行われている。また、大規模災害や新型インフルエンザなどの疫病の流行に対しても、迅速な救援活動などのため軍が持つさまざまな機能を活用することが指摘されつつある。
このように、今日の国際社会は、伝統的な国家間の関係から新たな脅威や多様な事態に至るまでさまざまな課題に直面している。これらの課題は同時に、また、複合して生じることもあり得る。これらに対応するための軍事力の役割は、武力紛争の抑止と対処に加え、紛争の予防から復興支援に至るまで多様化している。また、軍事力のみならず、外交、警察・司法、情報、経済などの手段とも連携のとれた総合的な対応が必要になっている。このような状況を踏まえ、各国においては、多様化した役割・任務に適切に対応するため、優先順位を判断しつつ国力・国情に応じて軍事力の整備を図るとともに、国際社会における安全保障上の問題に関する国際協力・各種連携を図っている。