第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 


 
概観

1 国際社会の動向

 今日の国際社会においては、近年の経済成長を背景とした国家の台頭、大量破壊兵器などの拡散、国際テロ組織をはじめとする非国家主体による活動、脆弱な国家が国際テロの温床となるおそれなどにより、国際的な安全保障環境は複雑で不確実なものとなっている。
 各国に安定と繁栄をもたらしてきた国家間の相互依存関係は、同時に、ある国で生じた経済的な問題や安全保障上の問題あるいは地域の不安定要素が国境を越えて世界中に広がり、他の国々に波及するという負の側面も持つ。このような相互依存関係の中において、各国は、より安定した国際安全保障環境を構築することで世界や地域の平和、安定と繁栄を確保していくことを共通の利益にしており、そのため、国際社会が直面する問題の解決に利益を共有している国家同士によって協力して取り組むことがますます重要になっている。
 米国については、将来的には、その相対的な優位性が軍事面を含め低下するとの指摘もあるが、今後とも、国際社会において、引き続き最も影響力を有する国家であることに変化はないものと考えられる。一方で、オバマ政権は、国際社会の平和と安定を確保するため、主要な同盟国やパートナー国との一層の協力を重視していく姿勢を示している。
 他方、近年の著しい経済成長により、中国やインドなどが台頭するとともに、ロシアについても90年代の社会・経済の混乱から脱却し、国力は回復基調にある。今後、多極化を志向しているこれらの国々の国際的な影響力は相対的に増していくとみられている。
 このような動きは、国際協調・協力に向けた大きな機会と捉えるべきものであるが、同時にこれらの大国の動向は安全保障環境に大きな影響を及ぼす可能性があることから、その動向、相互関係、国際・地域秩序に与える影響やこれらの国々といかなる関係を構築すべきかについての関心が高まりをみせている。

 

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