第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

5 ベトナム

 ベトナムは、冷戦期においては旧ソ連が最大の支援国であり、02(同14)年までロシアがカムラン湾に海軍基地を保有していたが、旧ソ連の崩壊後、米国と国交を樹立するなど、急速に外交関係を拡大させた。現在、ベトナムは全方位外交を展開し、多国間参加型・多様性尊重といった外交政策を掲げ、全ての国家と友好関係を築くべく、積極的に国際・地域協力に参加するとしている。また、独立戦争の経験から、独立・国家主権・統一・領土保全などは他国から厳に尊重されなければならないと強調し、ベトナムはいかなる軍事同盟にも参加せず、国内において外国が軍事基地を保有することを認めないとしている。国防政策としては、全人民による国防(all-people national defence)25を旨とし、社会・経済発展のために平和で安定した環境を維持すること、工業化・近代化を達成すること、社会主義市場経済を建設することが重要な国益であり国防政策の目的であるとしている。
 ベトナムは、東南アジア地域について、武力紛争に発展しかねない緊張状態が未解決のまま存在しており、領有権問題は複雑化し、特に南シナ海における主権と国益に関する問題が顕在化しつつあると認識している26。また、ベトナムは、国連と平和維持活動を高く評価しており、テロ対策や、テロとの闘いといった国際協力については、国連の枠組の下で、国連憲章と国際法を遵守して行われるべきものであるとしている。
 ロシアとは冷戦期から国防分野を中心とした関係が深く、カムラン湾使用のほか、ベトナムはその装備品をほぼロシアに依存している。01(同13)年に、両国は「戦略的パートナーシップに関する宣言」に調印し、国防分野での協力を強化することで合意した。
 米国との関係では、05(同17)年6月に「国際軍事教育訓練(IMET)」に関する署名が行われ、両国の軍事協力面において大きな進展が見られた。また、06(同18)年6月のラムズフェルド米国防長官(当時)によるベトナム訪問時に、両国は軍事交流を拡大することで合意しており、06(同18)年から07(同19)年にかけて、米国防長官のほか、米太平洋軍司令官など米国防関係者が頻繁にベトナムを訪問し、07(同19)年4月には、米国はベトナムに対する武器禁輸措置を部分的に解除した27。08(同20)年10月には、政治、安全保障、国防などを含む分野において協力関係を構築するために、ファン・ビン・ミン・ベトナム外務次官とマーク・キミット米国務次官補(当時)の間で初の戦略対話を行った。さらに、09(同21)年12月には、フン・クアン・タイン・ベトナム国防相が米国を訪問している。


 
25)全人民国防とは、ベトナム共産党の指導の下、国民の団結と政治システムを結合し、国防力を構築するものであるとされる。

 
26)「ベトナムの国防2009」による。

 
27)武器国際取引規則を修正し、ベトナムに対する非殺傷性武器の輸出が、個別の許可・承認の条件の下で可能になった。


 

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