第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

3 インドネシア

 今後数年間、国外からの伝統的な軍事的脅威の兆候は見られないものの、近年、国境を越える安全保障上の脅威が増大してきているとの認識に立ち、インドネシアは非軍事的な安全保障上の問題も国防上の問題として扱うとしている13。このため、インドネシアは、全国民が全ての資源を用いてインドネシアの独立、国家主権、領土保全、国家統一を堅持するとの理念の下、「軍事防衛」と「非軍事防衛」それぞれの活動を通じた「総力防衛(Total Defence)」を推進している。また、軍人による政治・ビジネスへの関与の禁止、軍と警察の分離などの国軍改革も実行中である。
 外交政策としては、インドネシアは東南アジア諸国との連携を重視し、基本的理念として独立かつ能動的な外交を展開するとしている。国防政策においても、国家の安全を他国に依存することはなく、他国との間でいかなる防衛条約も結んでいないとしている。しかし、米国との防衛・軍事協力はインドネシアの国防力発展に重要であり、インドネシアの国益のみならず、地域の安全保障上の利益にとっても重要である14として、近年、軍事教育訓練や装備品調達の分野で協力関係を強化している。
 東ティモールでのインドネシア軍の活動をめぐって、一時的に米国との「国際軍事教育訓練(IMET:International Military Education and Training)」などは停止されていたが15、米国は、05(同17)年にこれを再開し、インドネシアに対する武器輸出の再開も決定した。08(同20)年2月、ゲイツ米国防長官はインドネシアを訪問し、ユドヨノ大統領およびユウォノ国防大臣(当時)と会談し、海賊やテロ対策での協力や軍事協力の強化で合意し、09(同21)年1月、両国海軍は、ジャワ島で特殊部隊の共同演習を行った。また、同年2月、クリントン米国務長官は、就任後初の海外訪問であるアジア歴訪の中で、インドネシアを訪問し、安全保障協力を含むさまざまな分野における包括的パートナーシップを構築し、二国間関係を一層進展させることでハッサン外相(当時)と合意した。
 インドネシアはPKOへの参加が、国際社会での地位向上につながると認識し、これまでにのべ43回部隊を派遣し、派遣人数はのべ約18,000名に上るとしている16。09(同21)年3月から11月末にかけては、国連レバノン暫定隊(UNIFIL)に対して、同国最新鋭のシグマ級コルベット17を含む海上部隊を初めて派遣した。


 
13)「インドネシア国防白書2008」による。

 
14)「インドネシア国防白書2008」による。

 
15)IMETとは、米国の同盟国および友好国の軍関係者に対し、米国の軍教育機関などへの留学・研修の機会を提供するものである。
インドネシア当局による東ティモール独立運動に対する弾圧への措置として、米国は、92(平成4)年にIMETを停止し、95(同7)年に一部制裁措置を解除したものの、99(同11)年に再び停止していた。

 
16)「インドネシア国防白書2008」による。

 
17)シグマ級はオランダで建造されたコルベットで、1番艦は07(平成19)年に就役した。満載排水量は約1,700トンで、全長約90m、全幅13m、喫水3.6mである。インドネシアは同型艦を4隻保有している。


 

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