第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

2 マレーシア

 マレーシアは、周囲をASEAN各国に囲まれていることなどから、自らの戦略的利益が周辺諸国のそれと不可分であるとし、ASEANおよびその構成国への脅威は、マレーシアへの脅威とみなすと認識している8
 このため、マレーシアは、周辺諸国との二国間関係の強化、ASEANの強化、イスラム諸国との協力、南々協力、内政不干渉原則の維持などを外交政策の基本とし、国防政策については、「自立(Self-Reliance)」、「域内協力(Regional Cooperation)」および「域外からの支援(External Assistance)」を原則としている9。防衛構想としては「抑止」と「総力防衛(Total Defence)」を掲げ、侵略を拒否できる戦略と信頼性の高い軍事力の養成が重要であるとし、軍のみならず全国民の関与が必要であるとしている。
 マレーシアは二国間での演習を実施し、米国やオーストラリア、インドなど他国との軍事協力を進めているものの、「5か国防衛取決め(FPDA:Five Power Defence Arrangements)」以外の多国間演習には参加せず10、FPDAを中心とした安全保障体制を維持している。
 また、インドネシアやフィリピンといった他の東南アジア諸国同様、マレーシアもPKOに積極的に参加しており11、アデン湾の海賊対策活動にも部隊を派遣している12


 
8)マレーシア国防省HPによる。

 
9)マレーシア国防省は「自立」、「域内協力」および「域外からの支援」について、以下のように説明している。
・「自立」とは、戦闘部隊のみならず、兵站支援体制や防衛産業も自立できるようにすること。
・「域内協力」とは、ASEAN諸国内での強力な二国間防衛協力を推進すること。
・「域外からの支援」とは、特に脅威のレベルが自らの能力を超えるときに域外からの支援を求めることであり、「5か国防衛取決め(FPDA:Five Power Defence Arrangements)」の枠組を活用するもの。

 
10)ムハンマド・イスマイル・ジャマルディン陸軍参謀長は、09(平成21)年4月、マレーシア陸軍はFPDA以外のいかなる多国間合同演習にも参加しないと発言している。

 
11)マレーシアは10(平成22)年4月末現在、UNIFIL(国連レバノン暫定隊)に741名、UNMIT(国連東ティモール統合ミッション)に215名など、合計1,084名をPKOに派遣している。

 
12)マレーシアは08(平成20)年8月、同国船籍のケミカルタンカー2隻が相次いでアデン湾において海賊に襲撃されたことから、同海域を航行するマレーシア商船を護衛するため、海軍艦艇および特殊部隊を派遣し、救出作戦を実施した。その後も、09(同21)年6月、マレーシアの民間船会社のコンテナ船を海軍が徴用し、海賊対策としてアデン湾に派遣している。


 

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