第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

3 欧州・NATOとの関係

 ロシアは、旧ソ連諸国と中東欧諸国のNATOへの新規加盟については、原則として、反対姿勢を維持してきている。
 9.11テロ後は、NATOとの新たな協力関係を構築しようとする動きを見せ、NATO・ロシア理事会(NRC:NATO-Russia Council)の枠組で、ロシアは、一定の意思決定に参加し、共通の関心分野において対等なパートナーとして行動している13。一方で、グルジアとモルドバからロシア軍が撤退しないことなどを理由として、NATO諸国が欧州通常戦力(CFE:Conventional Armed Forces in Europe)適合条約14を批准していないことに対し、ロシアは不満を抱いているとみられる。こうした中、ロシアによるCFE条約の履行停止についてNRCの場などで協議が行われていたが、07(同19)年12月、ロシアはCFE条約の履行停止を行い、同条約に基づく査察などが停止された。また、08(同20)年4月、NATO首脳会議において、ウクライナとグルジアがNATOとの間で将来におけるNATO加盟で合意したことや15、09(同21)年4月、NATOによるグルジアでの多国間演習の発表にロシアは懸念を表明したが、09(同21)年6月、外相級NRCが再開され、グルジア紛争により滞っていたNATO・ロシア間の関係は一応通常の状態に戻ったものと考えられる。
 このほか、ロシアは、NATOを中心とする既存の安全保障の枠組みを脱却し、新たな欧州・大西洋地域における安全保障の基本原則を定める新たな欧州安全保障条約を提案している16


 
13)共通の関心分野として、1)テロとの闘い、2)危機管理、3)大量破壊兵器とその運搬手段の不拡散、4)軍備管理・信頼醸成措置、5)戦域ミサイル防衛、6)海洋における捜索・救助、7)軍相互の協力および防衛改革、8)民間緊急事態への対応、9)新たな脅威と課題の9項目が示されている。

 
14)99(平成11)年の欧州安全保障協力機構(OSCE:Organization for Security and Cooperation in Europe)イスタンブール首脳会議において、ブロック別保有上限の国別・領域別保有制限への変更、透明性・予測可能性の確保、信頼醸成および検証措置、CFE適合条約発効までの現行CFE条約の遵守などが合意された。現時点では、ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、ウクライナの4か国のみが批准しており、CFE適合条約は未発効である。

 
15)たとえば、08(平成20)年9月のロシア外務省声明は、「ウクライナのNATO加盟の動きは、ロシアの安全保障上の利益に矛盾している」と指摘している。

 
16)08(平成20)年6月、メドヴェージェフ大統領が訪独した際に提案した。


 

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