第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

2 軍事に関する透明性

 中国は、従来から、具体的な装備の保有状況、調達目標および調達実績、主要な部隊の編成や配置、軍の主要な運用や訓練実績、国防予算の内訳の詳細などについて明らかにしていない。
 中国は、98(同10)年以降2年ごとに、国防白書である「中国の国防」を発表してきており、外国の国防当局との対話も数多く行われている10。07(同19)年8月には、国連軍備登録制度への復帰および国連軍事支出報告制度への参加を表明し、それぞれの制度に基づく年次報告を提出した。
 このように、中国が、自国の安全保障についてまとまった文書を継続して発表していることや軍備と軍事支出に関する国連の制度に復帰・参加したことなど11は、軍事力の透明性向上に資する動きとして評価できる。
 他方で、たとえば、国防費の内訳の詳細については、基本的に、人員生活費、活動維持費、装備費に三分類し、それぞれの総額と概括的な使途を公表しているのみであり、「2008年中国の国防」では情報開示の面でわずかな進展は見られたものの12、主要装備品の調達費用などの基本的な内訳も示されておらず、国際社会の責任ある大国として望まれる透明性は依然として確保されていない。また、中国が09(同21)年に提出した国連の軍事支出報告制度の報告も、わが国を含む多くの国が使用している軍事支出の内訳を詳細に記載する標準様式による報告ではなく、既に中国が国防白書で公表している内容とほぼ同様の簡略な報告であった。
 04(同16)年11月に発生した中国原子力潜水艦による国際法違反となるわが国領海内潜没航行事案については、その詳細な原因は明らかにされていない。また、07(同19)年1月に中国が対衛星兵器の実験を行った際も、中国政府から実験の内容や意図などについてわが国の懸念を払拭するに足る十分な説明がなされなかった。さらに、同年11月に、中国は米空母キティホークなどの香港寄港を寄港予定日になって認めないことを通知し、その後寄港を認めることを通知し直したが、米海軍艦艇は既に寄港を断念し転針していた。これらの事案は、中国の軍事に関する意思決定や行動に懸念を生じさせるものである。
 中国は、政治、経済的に大国として着実に成長し、軍事に関しても各国がその動向に注目する存在となっている。中国に対する懸念を払拭するためにも、中国が国防政策や軍事力の透明性を向上させていくことがますます重要になっており、今後、国防政策や軍事力に関する具体的な情報開示などを通じて、中国が軍事に関する透明性を高めていくことが望まれる。


 
10)「2008年中国の国防」では、中国は「2年間で、人民解放軍の高級軍事代表団は40余か国を訪問し、60余か国の国防大臣、参謀総長が来訪した。」とされている。

 
11)中国が、09(平成21)年に行った海軍成立60周年記念行事(4月)や空軍成立60周年記念行事(11月)において、これまで一般には公開していなかった一部の戦闘機や潜水艦をわが国を含む外国代表団に公開したことは、軍事力に関する透明性向上に取り組む姿勢の表れとも考えられる。

 
12)たとえば、「2008年中国の国防」では、2007年度の国防費の支出に限り、人員生活費、活動維持費、装備費のそれぞれについて、現役部隊、予備役部隊、民兵別の内訳が明らかにされた。


 

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