第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

5 韓国哨戒艦沈没事件

 10(同22)年3月26日、韓国海軍の哨戒艦「天安[チョナン]」が北方限界線(NLL){Northern Limit Line}付近の黄海において沈没した。その後、米国、オーストラリア、英国、スウェーデンの専門家を含む軍民の合同調査団が、科学捜査、爆発類型分析、船体構造管理、情報分析の四つの分科会に分かれて調査を実施し、同年5月20日、同艦は北朝鮮の小型潜水艦艇から発射された魚雷による水中爆発によって発生した衝撃波とバブル効果により切断され沈没したとの調査結果を発表した30
 これを受けて、同月24日、李明博(イ・ミョンバク)大統領は談話を発表し、同艦の沈没は韓国を攻撃した北朝鮮の軍事的挑発であるとし、北朝鮮船舶による韓国海域の海上交通路の利用禁止、南北間の交易と交流の中断、北朝鮮による韓国の領海、領空、領土の武力侵犯に対する即刻の自衛権発動、国連安保理への付託などの断固とした措置を講じることを表明した31。北朝鮮は、同月20日、調査結果は捏造[ねつぞう]されたものであり、制裁に対しては全面戦争を含む強硬措置で応えるとの声明を発表し32、同月25日、すべての南北関係を断絶すると発表した33
 このような動きに対し、国際社会では、同年6月26日にG8ムスコカ・サミットにおいて首脳宣言が、また同年7月9日には国連安保理において議長声明が採択され、「天安」の沈没をもたらした攻撃を非難する声明が発出された。また、同月20日に開催された米韓国防長官会談において、両国は今後数か月にわたり黄海および日本海上で一連の合同軍事演習を実施することで合意し、同月25日から28日までの間、日本海上において対潜水艦訓練などを含む合同演習を行った。この際、海上自衛官4名をオブザーバーとして派遣した。

 
10(平成22)年7月に日本海で行われた米韓合同軍事演習に参加するため釜山を出港する米原子力空母ジョージ・ワシントン〔米国防総省〕

 
30)合同調査団は、沈没原因を魚雷による攻撃と判断した理由として、船体の損傷部位を精密に計測し、分析した結果、衝撃波とバブル効果により、船体の竜骨が艦艇建造当時と比較して上方に大きく変形しているほか、外板は激しく折れ、船体には破断した部分があったこと等を挙げ、また、同魚雷が北朝鮮の小型潜水艦艇から発射されたと判断した理由として、5月15日に爆発地域付近で底引き網漁船によって回収された魚雷の部品が、北朝鮮が海外に兵器を輸出するために作った北朝鮮製の兵器紹介冊子に提示されているCHT−02D魚雷の設計図面と正確に一致すること等を挙げている。

 
31)同日、金泰栄(キム・テヨン)国防部長官は、対北朝鮮心理戦の再開、米韓連合対潜水艦訓練の実施、域内外での海上遮断訓練の準備などを含む対北朝鮮措置を発表した。

 
32)10(同22)年5月20日付「国防委員会報道官声明」

 
33)10(同22)年5月25日付「祖国平和統一委員会報道官談話」


 

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