第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

6 対外関係

(1)米国との関係
 米国は、他国と緊密に協力しつつ北朝鮮の核計画廃棄に取り組む姿勢を明らかにし、六者会合を通じた問題の解決を図ろうとしている。北朝鮮も、朝鮮半島の非核化は「金日成(キム・イルソン)主席の遺訓」であるとして、05(同17)年9月の第4回六者会合における共同声明において「すべての核兵器および既存の核計画」の放棄を約束した。しかしながら、北朝鮮は、米国が北朝鮮に対する「敵視政策」を放棄していないなどとして米国のさまざまな政策を非難し続けており、米朝の立場には依然隔たりがみられ、非核化のプロセスは進んでいない。また、米国は、北朝鮮による核兵器・核関連物質の拡散の可能性や弾道ミサイルの開発・配備・拡散に関する懸念を繰り返し表明している。
 なお、米国は、国別テロリスト報告書において、日本人拉致問題が未解決であること、「よど号」グループのハイジャック犯が依然として北朝鮮に居住していることを指摘しているが、08(同20)年10月、同年6月に提出された核計画の申告に対する一連の検証措置に北朝鮮が合意したなどとして、北朝鮮の「テロ支援国家」指定を解除した34

(2)韓国との関係
 南北関係においては、韓国で李明博政権が発足後、軍事的な分野を含め南北間の対話や交流に進展はみられなかったが、09(同21)年夏以降、南北間の往来制限が解除され、同年9月末には、南北離散家族再会事業が約2年ぶりに実施されるなどの動きがみられた35。他方、黄海側のNLL付近において、同年11月に北朝鮮艦艇と韓国艦艇との間で銃撃が行われ、また、10(同22)年3月に韓国哨戒艦沈没事件が発生するなど、南北間で軍事的な緊張をもたらす事案が発生している。

(3)中国との関係
 中国との関係では、61(昭和36)年に締結された「中朝友好協力および相互援助条約」が現在も継続している。92(平成4)年に中韓の国交が樹立されてから、冷戦期の緊密さとは異なる事象もみられたが、その後、中朝首脳が相互訪問するなど、関係の進展がみられ、中朝外交関係樹立60周年にあたる09(同21)年10月には、中国の温家宝総理が訪朝し、金正日国防委員会委員長と会談した36。中国は、北朝鮮の核問題に対しては、朝鮮半島の非核化を支持する旨繰り返し表明しつつ、六者会合の議長役として北朝鮮に対して六者会合への復帰を呼びかけるなど、この問題の解決に向けて積極的な役割を果たしている。他方で、中国と北朝鮮との関係に一定の距離がみられつつあるという指摘もある。

(4)ロシアとの関係
 ロシアとの関係は、冷戦の終結にともない疎遠になっていたが、00(同12)年2月、従前の条約と違い軍事同盟的な条項が欠落した37「露朝友好善隣協力条約」が署名された。その後、露朝首脳が相互訪問するなど、北朝鮮とロシアとの関係改善の動きが見られた38

(5)その他の国との関係
 また、北朝鮮は、99(同11)年来、相次いで西欧諸国などとの関係構築を試みており、欧州諸国などとの国交の樹立39やARF閣僚会合40への参加などを行ってきた。
 他方、EUやASEANなどは、従来から北朝鮮の核問題などに懸念を表明している。


 
34)09(同21)年4月に発表された「2008年版国別テロリスト報告書」では、直近の6か月間に北朝鮮政府が国際テロリズムに対するいかなる支援も提供しなかったという証明や、今後国際的なテロ行為を支援しないという同国政府による確約を含む米国内法の基準に基づき、北朝鮮のテロ支援国家指定を解除したと説明している。10(同22)年2月、オバマ大統領は、北朝鮮の09(同21)年11月までの行動を慎重に検証した結果、テロ支援国家に再指定する条件には合致しないとする書簡を米議会上下両院の議長あてに提出した。

 
35)李明博政権は、09(同21)年10月には韓国が北朝鮮の要請を受け、トウモロコシ1万トンなどの援助を同政権として初めて実施することを発表し、10(同22)年1月、北朝鮮側はその受入れを韓国側に通知した。

 
36)北朝鮮は、中国との間で経済協力に関する協定やその他の合意文書を調印した。

 
37)締約国(ロシア、北朝鮮)の一方に対する軍事攻撃の際には、他方の締約国は、直ちにその保有するすべての手段をもって軍事的またはその他の援助を与える旨の従前の条約に存在した規定がなくなった。

 
38)09(平成21)年8月、マカロフ・ロシア軍参謀総長は、ロシア軍が北朝鮮のミサイル発射が失敗した場合のロシアの安全確保を目的として新型地対空ミサイルS-400を展開させている旨発言したと伝えられた。

 
39)たとえば、英国は00(平成12)年、ドイツは01(同13)年にそれぞれ北朝鮮と国交を樹立した。フランスのサルコジ大統領は、09(同21)年10月に北朝鮮との国交樹立のための検討に向けた状況分析を行うための大統領特使を任命し、同特使は、同年11月に訪朝した。同年12月、北朝鮮は、フランスの事務所を平壌に開設することに同意した。

 
40)08(平成20)年7月のARF閣僚会合後、北朝鮮は、東南アジアにおける友好協力条約(TAC:Treaty of Amity and Cooperation in Southeast Asia)に署名した。


 

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