第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

3 軍事態勢

(1)全般
 北朝鮮は、全軍の幹部化、全軍の近代化、全人民の武装化、全土の要塞化という四大軍事路線20に基づいて軍事力を増強してきた。
 北朝鮮の軍事力は、陸軍中心の構成となっており、総兵力は約110万人である。北朝鮮軍は、現在も、依然として戦力や即応態勢を維持・強化していると考えられ、浸透21訓練も継続しているとみられているものの、その装備の多くは旧式である。
 他方、情報収集や破壊工作からゲリラ戦まで各種の活動に従事する大規模な特殊部隊を保有し、その勢力は約10万人に達すると考えられる22。また、北朝鮮の全土にわたって多くの軍事関連の地下施設が存在するとみられていることも、特徴の一つである。

(2)軍事力
 陸上戦力は、約100万人を擁し、兵力の約3分の2をDMZ付近に展開していると考えられる。その戦力は、歩兵が中心であるが、戦車3,500両以上を含む機甲戦力と火砲を有し、また、240mm多連装ロケットや170mm自走砲といった長射程火砲をDMZ沿いに常時配備していると考えられ、首都であるソウルを含む韓国北部の都市・拠点などがその射程に入っている。
 海上戦力は、約650隻約10.6万トンの艦艇を有するが、ミサイル高速艇などの小型艦艇が主体である。また、ロメオ級潜水艦約20隻のほか、特殊部隊の潜入・搬入などに使用されると考えられる小型潜水艦約60隻とエアクッション揚陸艇約140隻を有している。
 航空戦力は、約620機の作戦機を有しており、その大部分は、中国や旧ソ連製の旧式機であるが、MiG-29やSu-25といった、いわゆる第4世代機も少数保有している。また、旧式ではあるが、特殊部隊の輸送に使用されるとみられているAn-2を多数保有している。
 北朝鮮軍は、即応態勢の維持・強化などの観点から、現在も各種の訓練を活発に行っている。他方、深刻な食糧事情などを背景に、軍によるいわゆる援農活動なども行われているとみられている。


 
20)62(昭和37)年に朝鮮労働党中央委員会第4期第5回全員会議で採択された。

 
21)小部隊ごとに分散して隠密裏に敵地に潜入すること。

 
22)北朝鮮の特殊部隊には、軍関係のものと朝鮮労働党関係のものがあると言われている。たとえば、朝鮮労働党作戦部が工作員の輸送を行っていると言われている。なお、ベル在韓米軍司令官は、09(平成21)年3月の上院軍事委員会で「北朝鮮は、8万人以上の人員から構成される世界最大の特殊部隊を維持し続けている。」と証言したほか、韓国の「2008国防白書」は、「特殊戦兵力は約18万人に達する。朝鮮半島の作戦環境を考慮して、夜間・山岳・市街戦訓練を強化するなど、特殊戦遂行能力を集中的に向上させている。」と指摘している。


 

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