第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

4 戦力構成

 冷戦終結以降、二つの大規模な地域紛争を戦い、勝利するという考え方をもとに米軍の戦力が構成されてきたが4、今回のQDRは、現在の安全保障環境はこの考え方が採用された頃よりも複雑になっており、米軍は多様な事態に対処しなくてはならないため、この考え方で米軍の戦力構成を決定することはもはや適切ではないとしている。今回のQDRは、米軍の戦力構成は前述の四つの戦略的優先事項及び六つの任務領域から導かれるものであり、その上で、米軍は二つの国家による攻撃に対処する能力は保持しつつも、多岐にわたる作戦を実施する能力を保有しなくてはならないとしている5。そのために、米軍は戦力バランスの修正(rebalance)を行う必要があるとしている。


 
4)01(平成13)年のQDRは、1)米本土を防衛すること、2)四つの重要な地域(欧州、北東アジア、東アジア沿岸部、中東・南西アジア)において前方抑止すること、3)同時に二つの戦域において敵を迅速に打破し、うち一つで決定的に打破すること、4)限定的な数の小規模緊急事態に対処すること、という四つの目的のために戦力を構成するとしていた。06(同18)年のQDRは、近年の作戦における経験などから、四つの重要な地域のみならず、世界中で作戦を行う必要があること、また、「迅速な打破」や「決定的な打破」という考え方は、長期にわたる非正規型戦闘などに必ずしもなじまないことなどが明らかになったとして、1)本土防衛、2)テロとの闘い・非正規型戦闘、3)通常作戦の三つの領域において必要な能力を備えた戦力を構成するとしていた。

 
5)ゲイツ国防長官は10(同22)年2月1日の記者会見において、「QDRを作成していた人々に与えた私の指令の一つは、私が二つの大規模正面における作戦という考え方は時代遅れだと感じてきたということ、そして我々は既に二つの大規模な軍事作戦を行っているということだった。もし米国本土で災害が起こったらどうするのか。もしもう一つの軍事衝突が起こったらどうするのか。もしハイチのような事案が発生したらどうするのか。二つの戦争を戦うという考え方が生まれた90年代前半よりも現在の世界は遥かに複雑なのである。」と述べ、二つの大規模な地域紛争に対処するという考え方では不十分であるとした。


 

前の項目に戻る     次の項目に進む