第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

第2章
諸外国の国防政策など
 
バイデン副大統領、ゲイツ国防長官らと会議を開くオバマ大統領〔Official White House photo by Pete Souza〕
 
海自護衛艦に対して近接飛行を行った中国の艦載ヘリコプター(ka-28)

第1節 米国

1 安全保障政策・国防政策

 09(平成21)年1月に発足したオバマ政権は、10(同22)年に入り、2月に「4年ごとの国防計画の見直し」(QDR:Quadrennial Defense Review)を、4月に「核態勢の見直し」(NPR:Nuclear Posture Review)を、5月に「国家安全保障戦略」(NSS:National Security Strategy)を公表し、オバマ政権の安全保障政策と国防政策を明らかにした1
 NSSは、米国が追求する国益は、1)米国、米国民、同盟国およびパートナー国の安全、2)力強く、革新的で、成長する米国経済による繁栄、3)米国内と世界中における普遍的な価値観の尊重、4)平和、安全、機会を促進する国際秩序の4つであるとしている。その上で、これらの国益を実現するためには、軍事力、外交、開発支援といった米国の国力の全ての要素の活用と統合が必要であるとするとともに、同盟国や国際機関などと協調して取り組んでいく必要性を強調している。
 また、10(同22)年2月に公表されたQDRは、国防省の役割は米国と同盟国を守り、米国の国益を増進するために軍事力を維持、使用することであるとしている。その上で、米国と同盟国は必要な場合は武力を行使する意思と能力を示し、適切な場合には単独で行動する能力も保持するとしている。また、米国は最も強力な主体であり続けるが、平和と安定を維持するためには主要な同盟国及びパートナー国との一層の協力が必要であるとしている。
 
「核態勢の見直し」(NPR)を発表するゲイツ国防長官とクリントン国務長官〔米国防省〕


 
1)合衆国法典第50篇第404a条により、大統領は国家安全保障戦略を毎年議会に提出することが義務づけられているが、実際には必ずしもそのとおり提出されているわけではなく、例えばブッシュ政権(当時)では、02(平成14)年9月および06(同18)年3月の2度公表されている。オバマ政権下での同戦略の公表はこれが初めてである。
国家防衛戦略(NDS:National Defense Strategy)は、国家安全保障戦略を実施していく上での指針であるとともに、国家軍事戦略(NMS:National Military Strategy)を始めとする国防省の戦略文書などの枠組を示すものであり、05(同17)年3月および08(同20)年7月に公表された。08(同20)年のNDSは、米国の国益は、米国および同盟国を攻撃あるいは威圧から守り、紛争を抑制し経済成長を促すために国際安全保障を促進し、国際公共財(Global Commons)とそれを通じた世界市場および資源へのアクセスを確保することにあるとした。また、これらを追求するために、外交や経済的手段などとともに、軍事能力を発展させ、必要に応じてそれを行使してきたとしている。なお、ゲイツ国防長官は、08(同20)年の国家防衛戦略の前文において、「米国は間もなく新たな大統領を迎えるが、米国が直面する複雑な脅威は残存する。本戦略は来るべき将来における青写真となるべきものである」としている。
QDRは、国防長官が合衆国法典第10篇第118条に基づき4年ごとに議会へ提出することが義務づけられている文書で、今後20年の安全保障環境を見据えた上で、国防戦略、戦力構成、戦略近代化計画、国防インフラ、予算計画などに関する方針を明らかにするものである。10(同22)年2月に国防省は議会へ報告した。
NPRは、今後5〜10年間の米国の核態勢の包括的な見直しを実施し、議会への報告が義務づけられているもので、これまで94(同6)年および02(同14)年に発出されており、今回が3回目となる。


 

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