第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

3 中東和平をめぐる情勢

 イスラエルとパレスチナの間では、93(同5)年のオスロ合意を通じて、本格的な交渉による和平プロセスが開始されたが、00(同12)年以降に始まった第2次インティファーダ(民衆蜂起)が双方の暴力の応酬に発展し、交渉が中断した。03(同15)年に、イスラエル・パレスチナ双方が、二国家の平和共存を柱とする和平構想実現までの道筋を示す「ロードマップ」を受け入れたが、その履行は進んでいない。パレスチナにおいては、06(同18)年3月、イスラエルを承認せず対イスラエル武装闘争継続を標榜する、イスラム原理主義組織ハマス主導の自治政府内閣が成立した。その後、パレスチナ解放機構(PLO:Palestine Liberation Organization)主流派のファタハとハマスの間での抗争が激化し、07(同19)年6月、ハマスはガザ地区を制圧した。これを受け、アッバース大統領が自治区全域に緊急事態を宣言し、非ハマス系閣僚からなる緊急内閣が成立したが、ガザ地区においてハマスによる事実上の支配が継続するなど、政治的混乱が続いている。同年11月には、米国主催のアナポリス中東和平国際会議が開催され、イスラエルとパレスチナが08(同20)年末までに両者間の和平条約を締結すべく努力することに合意した。しかしその後、08(同20)年末から09(同21)年初めにかけて、ガザ地区からのイスラエルに対するロケット攻撃を受けて、イスラエル軍が同地区に対して空爆や地上部隊の投入などの軍事行動を行ったことにより、両者間の交渉は中断した。10(同22)年5月、米国の仲介でイスラエル・パレスチナ間の間接交渉が開始されたが、現時点で和平条約の締結には至っていない。
 イスラエルとシリア、レバノンとの間では、いまだに平和条約が締結されていない。イスラエルとシリアの間には、第三次中東戦争でイスラエルが占領したゴラン高原の返還などをめぐる立場の相違があり、ゴラン高原には、イスラエル・シリア間の停戦および両軍の兵力引き離しに関する履行状況を監視する国連兵力引き離し監視隊(UNDOF:aUnited Nations Disengagement Observer Force)が展開している11
 イスラエルとレバノンの間では、06(同18)年のイスラエルとイスラム教シーア派組織ヒズボラとの紛争後、規模を拡大した国連レバノン暫定隊(UNIFIL:United Nations Interim Force in Lebanon)が展開し12、両国間では目立った衝突は発生していないが、ヒズボラが再び戦力を増強しているとの指摘がある。


 
11)同地域においては、国連休戦監視機構(UNTSO:United Nations Truce Supervision Organization)の軍事監視要員も活動を行っている。

 
12)同上。


 

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