2 世界各地で発生するテロの動向
イエメンでは00(同12)年の米駆逐艦「コール」爆破事件、02(同14)年の仏船籍タンカー爆破事件など、アルカイダ関連分子によるとみられるテロ事件が発生している。近年では、07(同19)年にマアリブ州で観光客に対する自爆テロが発生したほか、08(同20)年には米国大使館を狙ったとみられるテロや09(同21)年には韓国人観光客を巻き込んだ自爆テロが発生している。10(同22)年4月にも、駐イエメン英国大使の車列を標的とした見られる自爆テロが発生している。これらの事件はアルカイダ関連組織が実行したものとみられており、イエメン政府の治安維持能力などの不足により、テロリストや武力勢力、特にアルカイダに対して、安全な活動拠点を提供しているとの指摘がある
1。現在、イエメンには数百のアルカイダメンバーがいるとも指摘されており、勢力を拡大させているものとみられている
2。
ソマリアでは、05(同17)年に暫定連邦政府が樹立した後も、全土を実効的に支配する政府が存在しない状態が続き、イスラム過激派組織「アル・シャバーブ」と政府軍の戦闘が継続している。「アル・シャバーブ」の指導者には、アフガニスタンでアルカイダとともに訓練や戦闘を行ったとされるメンバーがいるとされるなど
3、アルカイダとの一定の関連が指摘されている。
アルジェリアでは、07(同19)年、首相府などを狙った同時爆破、大統領暗殺未遂事件、海軍沿岸警備隊の兵営での自爆テロ、国連機関の爆破など、政府や軍を標的とするテロが相次いで発生しており、「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ組織(AQIM:Al-Qaeda in the Islamic Maghreb)」
4がこれらのテロに関して犯行声明を出した
5。同組織はこれまで、主に米国人やフランス人など、欧米人を標的としており
6、08(同20)年以降、同組織によるとみられる欧米人の誘拐事件が発生している。AQIMは近年、アルジェリアのみならず、サハラ以南(マリ、ニジェール、モーリタニア)においても活動しているとの指摘がある。
南アジアは、以前からテロが頻発している地域であり、08(同20)年は、インドで連続爆破テロが複数回発生している
7ほか、同年11月のムンバイ連続テロでは、市内のホテル、レストラン、駅など十数か所で爆破や銃撃が発生し、日本人を含め外国人にも多数の犠牲者を出している。また、パキスタンにおいても、07(同19)年以降、ブット元首相の暗殺や、武装勢力などによる政府機関および軍・警察などの治安機関を標的としたテロが多発している。
東南アジアは依然として、イスラム過激派などによるテロの脅威が存在している地域であるが、テロ組織の取締りなどに一定の進捗が見られる。インドネシアでは、02(同14)年から05(同17)年にかけてイスラム過激派組織「ジュマ・イスラミーヤ(JI:Jemaah Islamiya)」が関与したとみられる大規模なテロが発生し
8、09(同21)年7月にもジャカルタの外資系ホテルで同時爆破テロが発生した。一方、07(同19)年にJIの最高幹部であるザルカシおよびアブ・ドゥジャナの逮捕や、09(同21)年の外資系ホテル同時爆破テロのヌルディン容疑者の射殺など、テロリストに対する取締りの面で一定の成果も見られる。フィリピンでは、共産主義勢力である新人民軍(NPA:New People's Army)やイスラム過激派組織「アブ・サヤフ・グループ(ASG:Abu Sayyaf Group)」、「モロ・イスラム解放戦線(MILF:Moro Islamic Liberation Front)」などが国内治安上の最大の懸案となっており、政府はその対応に力を注いでいる。特に、フィリピン政府はNPAを最大の脅威と認識している。また、アルカイダと関連を持つとされているASG対策に、米国と軍事協力をすすめ、「バリカタン」演習を毎年実施している。
(図表I-1-1-1 参照)
4)同組織は、「布教と戦闘のためのサラフィスト集団」として98(平成10)年に設立したアルジェリアのイスラム過激派組織だが、06(同18)年9月にアルカイダへの正式加入を表明し、その後現在の名称に変更した。
7)08(平成20)年5月に北部ジャイプール、7月にバンガロールおよびアーメダバード、9月にニューデリー、10月にアッサム州各地で爆破テロが発生しているほか、11月にムンバイで爆破、銃撃などの連続テロが発生している。
8)たとえば、02(平成14)年10月、バリ島のクラブ2か所で、爆弾テロが発生し、202人が死亡した。また、05(同17)年10月、バリ島のレストランなどで、連続爆弾テロが発生し、23人が死亡した。