第III部 わが国の防衛のための諸施策 

(VOICE)募集業務に従事する隊員の声

自衛隊札幌地方協力本部 室蘭地域事務所 1等陸曹 次原 勝秀(つぎはら かつひで)

 広報官としての私の職務は、ある専門学校生F君を入隊させることから始まりました。
 彼は、学力はありましたが無口かつおとなしい性格で、太り気味なことが気がかりでした。私は面接の訓練と減量を指導しました。面接のほうは訓練を繰り返すうち、徐々に気持ちが伝わってくるようになりましたが、体重は思うように減らせないまま、秋の受験日を迎えました。
 受験結果は合格でしたが、やはり体重と体脂肪の数値が高く、それは着隊時までに改善するという条件付きでの合格でした。そこで私たちは減量に関する具体的な計画を立て、目標を設定し、2週間に一度は電話で状況確認をしました。状況確認では、順調に減量が進んでいるように思えました。
 ところが3か月後に彼に会うと、彼は減量どころか更に太っていたのです。電話の状況確認だけで安心していた私は、自分の甘さを思い知りました。このままでは、彼が着隊日の身体検査で不合格になってしまうと考えた私は、3日に一度、夜一緒に走ることとしましたが、体重はなかなか減らず、彼もいらだち始めました。ある日、約束の時間に来なかったので彼を訪ねると「僕、もういいです。」と入隊をあきらめたようでした。私は彼のご両親に自分も一緒に努力することを約束し、説得してもらうようお願いしました。ご両親の励ましもあり、彼は再び一緒に取り組むことを約束し、さらに1か月半、文字通り二人三脚で走り続けました。もとから無口な彼から自信があるような言動はありませんでしたが、「息子をなんとかお願いします。」と頭を下げるお母さんの姿を思い出し、私自身も真剣に取り組みました。
 そしていよいよ着隊日を迎えました。私自身彼の合格は信じて疑いませんでしたが、実際に最終合格の知らせを聞くまでは、不安がありました。日が暮れるころ、やっと最終合格の知らせが届き、私はすぐに新隊員教育隊に彼を訪ねました。「F君、いやF2士、おめでとう!」と声をかけましたが、その時の彼の笑顔は最高でした。夜には彼のご両親から「うちの子のあんな笑顔は見たことがありません。」と喜びの電話があり、たとえようのない充実感を覚えました。
 生活環境などの違いから、受験者にはそれぞれ、さまざまな事情があります。私たち広報官は単なる営業マンではなく、自衛隊員を志望する一人ひとりの将来に関わっていることを重く受け止め、入隊に導くことが必要だと思います。私も同じ年代の子を持つ親として、真に信頼できる人、信頼できる広報官となるよう、これからも努力していきたいと思います。
 
募集活動を行う次原1曹

 

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