第III部 わが国の防衛のための諸施策 

(VOICE)災害派遣(岩手・宮城内陸地震)に従事した隊員の声

第20普通科連隊 第4中隊 1等陸曹 齋藤 真二(さいとう しんじ)

 一人で渓流釣りに来ていた方が行方不明という情報を得て、直ちに捜索隊を派出しましたが、現場の状況から地上からは近づくことができませんでした。そこで、ヘリコプターで現場に進出することとなり、私を長とする精鋭レンジャー4名による捜索隊が編成されました。
 機上から行方不明者の車を確認して現場にホイスト降下し、捜索隊全員が「必ず行方不明者を発見するぞ。」という意気込みで捜索に当たりました。余震による二次災害の危険もあり、また、ヘリコプターの燃料の関係で約2時間という制約下の活動です。
 情報をもとに、沢に下りる経路を捜索していると、まず獣道に足跡を発見しましたが、途中で見失い、周囲を捜索するも見あたりません。引き返して他のルートを捜索している
と、再び足跡を発見しました。その足跡は渓流釣りのためのスパイク付き長靴のもの。まだ新しい!「近くにいるのか?」と期待を膨らませながら先を急ぎましたが、段差1メートル程の地割れがあり、その先の道は消えていました。声を振り絞って呼びかけてみましたが、返答はありませんでした。再度引き返し、今度は上流へと向い、痕跡を探し求めながら、声を張り上げて呼びかけながら捜索を行いました。「次のカーブを曲がれば、あと10メートル進めば行方不明者を発見出来るかもしれない。」という思いで、残された時間を計算しながら進みます。「あと3分。あの先まであと1分。」と可能な限りの時間を使って捜索しましたが、行方不明者を発見することは出来ませんでした。
 車の中の遺留品を回収し、行方不明者の家族が待つ指揮所に戻りました。切ない思いを胸に、回収した品物を家族に渡すと、「お父さんのです。・・これ置いていったんだ・・・」家族の目から涙が流れました。やりきれない気持ちを押し殺し、現場の様子や足跡などの写真と、現場付近の地図とを照らし合わせながら、家族に捜索の状況を説明しました。涙をこらえながら・・・。
 
行方不明者の家族に捜索の状況を説明する齋藤1曹(左)

 

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