第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

(解説)米露間の安全保障上の課題

 昨年のグルジア紛争以降、ロシアは米国の対グルジア支援を、米国はロシアの武力行使や南オセチアおよびアブハジアの独立承認を非難するなど、両国の関係が悪化した。そのため、両国の対話の機運は失われ、両国間の安全保障を含む課題に関する協議が停滞した。
 本年1月に就任したオバマ米大統領は、これまでのロシアとの関係を「リセット」し、新たな関係でロシアとの対話を行うとし、本年4月、メドベージェフ露大統領と会談を行った。両首脳は、
 1)互いの相違を克服しつつ安全保障上の諸課題に協力していくことで一致し、
 2)STARTI後継条約の締結を目指すことに合意し、
 3)ミサイル防衛(MD:Missile Defense)における相互協力の可能性について議論し、
 4)大量破壊兵器拡散やテロへの対処、アフガニスタンの安定化などにおいても協力を行うことで一致した。
 米露両国が、今後、どのように協力して安全保障上の諸課題を解決していくのかが注目される。

1 STARTI後継条約
 米国とロシアは、冷戦期に増強された両国の戦略核戦力を、STARTIおよび戦略攻撃能力削減に関する条約(通称「モスクワ条約」)に基づき削減してきた。
 米露首脳は、本年4月の首脳会談において、本年末に失効するSTARTIに代わる新たな条約は、実戦配備された戦略核弾頭数を、12(平成24)年までに1,700〜2,200発に削減することとしたモスクワ条約以下の水準を追求することおよび、STARTIの経験を踏まえた検証・査察措置を盛り込むこととした。
 今後の交渉において、これらの点に加え、配備状態にない備蓄核弾頭数の削減を含めるのかなどについて、どのような協議が行われるのか注目される。 

2 東欧への米国MDシステムの配備
 米国は、15(同27)年までにイランが米国本土を射程に収める大陸間弾道ミサイル(ICBM:Intercontinental Ballistic Missile)を開発するとし、防衛手段として東欧にMDシステムを配備することを計画した。それに対し、07(同19)年2月、プーチン露大統領(当時)は強く批判し、それ以降ロシアは、同国の核抑止能力に否定的な影響を与える可能性があるとして、強硬に反対している。
 米国は、昨年、MDシステム配備に係る協定などをポーランドおよび及びチェコとの間で署名するなど、配備に向けた手続きを進めてきたが、オバマ政権は、MDシステムの技術が確立し、費用対効果が現れるまで優先的な投資を行わないとし、イランの脅威が続く限りMDシステムの配備を続けるとの方針を明確にしている。しかし、メドベージェフ露大統領は、昨年11月、ポーランドに隣接するロシア領カリニングラード州における短距離ミサイル配備に言及するなど、東欧へのMDシステムの配備を拒否するロシアの姿勢は基本的に変わっていない。
 米露関係が改善されつつある状況において、両国の安全保障戦略の根幹にも関わるMDの問題が、今後、米露間でどのように協議され取り扱われていくのか国際社会の関心が高まっている。

 

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