第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

(解説)弾道ミサイルと人工衛星打上げロケットについて

 「ロケットの父」と呼ばれるウェルナー・フォン・ブラウン(1912−1977)は、少年時代から宇宙への夢を抱き続けていた。彼は、大型で能力の高いロケットを作りたいという願望を果たすための手段として、ドイツ陸軍で働き、第二次大戦中に近代ロケット技術を確立したといわれる弾道ミサイル「V-2」を開発、同大戦後は米国に渡り、「V-2」開発で培った技術を活用して、米国初の人工衛星の打上げを成功に導いたとされている。
 この一人の科学者の足跡が端的に示すように、弾道ミサイルと人工衛星打上げロケットに必要な技術は共通しているものが多い。
 
「V-2」

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 第二次大戦後、米国およびソ連が「V-2」の技術を入手し、これを基に大陸間弾道ミサイル(ICBM:Intercontinental Ballistic Missile)や中距離弾道ミサイル(IRBM:Intermediate Range Ballistic Missile)を開発するとともに、ここで得た技術を用いて人工衛星打上げロケットを開発したとされている。
 弾道ミサイルを衛星打上げロケットに転用した例として、米国の初期の弾道ミサイルであるアトラスやタイタン、ロシアの弾道ミサイルであるSS-25、中国の弾道ミサイルである東風5号などが転用または一部改造されて、人工衛星の打上げに利用されたと言われている。
 弾道ミサイルと人工衛星打上げロケットは、基本的に1)エンジン部構造(推進剤タンクを含む)、2)段間部構造(切り離しを行う部分)、3)搭載機器(誘導機器、電波機器、姿勢制御用電子機器等を収納)、4)ペイロード部から構成されており、ペイロード部に人工衛星を格納するか、弾頭を格納するかに違いがあるが、構造上ほぼ共通している。このことから、推進部の大型化とその分離、姿勢制御、推進制御等など必要となる技術は共通しており、人工衛星の打上げであっても、弾道ミサイルの性能向上のためにこれら種々の技術的課題の検証が可能となる。
 一般的に、弾道ミサイルは放物線を描いて飛翔し、目標地点に弾頭を誘導するが、衛星打上げロケットは、一定の高度にまで到達させた後、平坦な軌跡をとり、所要の速度(例えば、高度約200kmの地球周回軌道であれば、秒速約7.8kmであり、高度約700kmであれば秒速約7.5km)以上を与え人工衛星を地球周回軌道に投入するという飛翔形態の違いがある。
 
飛翔イメージ

 

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