第III部 わが国の防衛のための諸施策 

2 災害派遣などの初動態勢・実施状況

(1)災害に対する初動対処態勢
 阪神・淡路大震災の教訓から、自衛隊では、災害派遣を迅速に行うため、初動に対処できる態勢を整えている。陸自は、災害派遣の初動対応部隊として、全国に人員約2,700名、車両約410両、ヘリコプター約30機をおおむね2時間以内に派遣できる態勢を整えている。海自は、応急的に出動できる艦艇を基地ごとに指定しているほか、航空機の待機態勢を整えている。空自は、救難機・輸送機の待機態勢などを整えている。
 また、震度5弱以上の地震発生の情報を受けた場合、自主派遣として、速やかに航空機などを使用して現地情報を収集し、官邸などに、その情報を伝達できる態勢を
とっている。さらに状況に応じ、関係地方公共団体などへ連絡要員を派遣して情報収集を行う。
 自衛隊は、中央防災会議において検討されている大規模地震に対応するため、各種の大規模地震対処計画を策定している。たとえば、「自衛隊東南海・南海地震対処計画」では、東南海・南海地震の被災地域が東海地方から九州地方と極めて広範囲にわたるとともに、津波による被害が甚大なことが予想されることから、各自衛隊が協同し、組織的に災害に対処することとしている。この場合、災害発生後72時間までに、陸自は約7万人の部隊などを被災地域に集中し、海自は艦艇約60隻、航空機約50機を、空自は偵察機、救難機、輸送機など約70機を運用して対処する。

(2)災害派遣の実施状況
ア 救急患者の輸送
 自衛隊は、医療施設が不足する離島などの救急患者を、航空機で緊急輸送している(急患輸送)。昨年度の災害派遣総数606件のうち、424件が急患輸送であり、南西諸島(沖縄県、鹿児島県)、五島列島(長崎県)、伊豆諸島、小笠原諸島(東京都)など離島への派遣が405件と多数を占めた。
 また、他機関の航空機では航続距離不足などで対応できない本土から遠距離にある海域で航行している船舶からの急患輸送も行っている。
 なお、昨年11月24日、東京都知事の要請に基づき神津島から急患輸送を行い、海自による伊豆諸島からの急患輸送は通算1,500回に達した。

イ 消火支援
 昨年度の消火支援件数は、95件であり、急患輸送に次ぐ件数となっている。
 その内訳は、近傍火災に対する派遣が最も多く、昨年度は79件であった。また、山林など、消火が難しい場所では都道府県知事からの災害派遣要請を受け空中消火活動も行っている。
(図表III-1-2-14 参照)
 
図表III-1-2-14 災害派遣の実績(平成20年度)
 
今治山林火災で消火活動を行う陸自UH-1ヘリコプター

参照 資料34

ウ 自然災害への対応
 昨年6月14日、岩手県内陸南部を震源とする地震(マグニチュード7.2)(「平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震」)が発生し、土砂崩れ、河道閉塞、断水などの被害が発生した。同日、岩手県知事からの要請を第9特科連隊長が、宮城県知事からの要請を第6師団長が受け、行方不明者の捜索、ヘリコプターなどによる孤立者の救出、道路の啓開、給水、給食、入浴支援などを行い、その規模はのべ人員約2万6,300名、車両約7,970両、航空機約580機であった。
 また、昨年7月24日、岩手県沿岸北部を震源とする地震(マグニチュード6.8)が発生し、がけ崩れ、家屋の全半壊、断水などの被害が発生した。同日、岩手県知事からの要請を第9特科連隊長が、青森県知事からの要請を第9師団長が受け、災害派遣活動を行い、その規模はのべ人員約1,800名、車両約270両、航空機約40機であった。
 特に、「平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震」では、主要な道路が寸断され、また、被災地が山間部であったことから、孤立した集落などにおける救援活動では機動的な運用が可能であるヘリコプターが重要な役割を果たした。また、救援活動を安全に行ううえでリモコンドーザーなどの施設器材も重要な役割を果たしたが、これらの器材は自衛隊の保有する大型ヘリコプター(CH-47)による航空輸送が必要であった。さらに、被災地上空においては、自衛隊などのヘリコプターや民間のヘリコプターで混み合っており、航空機の統制や飛行安全の確保が重要な課題と認識された。
 
岩手・宮城内陸地震における行方不明者を捜索する陸自隊員
 
岩手・宮城内陸地震における給水支援を行う陸自隊員

 

前の項目に戻る     次の項目に進む