第I部 わが国を取り巻く安全保障環境 

6 核戦略

 02(同14)年に発表された「核態勢の見直し」(NPR:Nuclear Posture Review)では、ロシアの脅威に基づき核戦力を決定するのをやめ、米国と同盟国・友好国の安全保障上、必要最低限の水準の核戦力を維持するとともに、今後は、核戦力のみならず、通常戦力と防衛システム(ミサイル防衛)17を含めた新たな抑止力が必要であるとしている。そのため、抑止態勢を、1)大陸間弾道ミサイル(ICBM:Intercontinental Ballistic Missile)、2)潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM:Submarine-Launched Ballistic Missile)、3)戦略爆撃機という冷戦時代の三本柱から、1)核戦力と通常戦力からなる攻撃能力、2)防衛システム、3)国防基盤(国防産業、調達体制など)という新たな三本柱に移行するとしている。新たな三本柱は、ミサイル防衛や通常戦力(特に先進的な兵器)も重視することにより、核兵器への依存を低下させるとともに、大量破壊兵器が拡散している中での抑止力の向上を図っている。
 なお、08会計年度国防授権法において、国防長官は本年中にNPRの見直しを行い、議会に報告書を提出することとされている18。オバマ大統領は、その対外政策において、核兵器のない世界を目標にするとともに、新たな核兵器関連物質の製造の国際的な禁止について協議するなどとしているが、一方で米国が単独で核軍縮をすることはないとしている。


 
17)非戦略核戦力については、94(平成6)年9月、クリントン政権(当時)が発表したNPRによると、1)空母艦載型の核・非核両用機への核兵器搭載能力を除去、2)水上艦艇への核搭載トマホーク巡航ミサイル搭載能力を除去、3)攻撃型潜水艦への核搭載トマホーク巡航ミサイル搭載能力を維持、4)欧州および米本土に配備する核・非核両用航空機と欧州に配備する核兵器の展開に関する現在のコミットメントを維持するとしている。

 
18)また、同法によって設置された戦略態勢委員会(Congressional Commission on U.S. Strategic Posture)は本年5月に、国際環境がグ
ローバルな核兵器廃絶を許容するときまで、米国は十分な核抑止力を維持する必要があることなどを指摘した最終報告書を議会などに提出した。


 

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